第1節7話

ナイナーズは、追い込まれていた。

リッカの高火力魔法で、メンバーは満身創痍。

さらに、自分たちを守るカゼカミフィールドの暴風も、消えてしまった。

しかも、魔法を撃ち込んだ張本人が、目の前で、彼女の前で立ちはだかるのだ。



この人に勝たなければ、私たちは負ける。

こんな状況だが、出来る事は、まだあるはずだ。

イリーナは、人一倍諦めの悪い人間だった。たが諦めの悪さが、何度も危機的状況を脱し、勝利を手にしてきた。

私は絶対、諦めない!


イリーナの闘志溢れる表情を見たリッカは、あまりの嬉しさに、悶えそうになった。



ああ、やっぱりフィールドのピリピリ感は良い。

前半はベンチから見る事しか出来なくて、フラストレーション溜まっていたけど、これで終わり!

これからは、リッカちゃんとのバトルが楽しめる。


「さあ、最高の舞台で、最高のバトルを楽しみましょう!」


第三クォーター12:56 ファーストダウン 残り60ヤード


ボールを受け取ったカズミは、早速パスをしようとしたが、複数の灼熱魔法が襲い掛かる。


「な、何で!?リッカさんは、イリーナとバトルしているはずなのに」


リッカのあまりにも非常識な行動に、驚愕をする。

彼女は、左手から魔法を撃ち込み、右手でハンマーロッドを振り回し、イリーナとバトルをしていたのだ。

イリーナとバトルをしているからと、彼女から魔法が飛んでくる事に、無警戒だったカズミは、パスを失敗してしまう。


「まさか、あんな事をする人がいるなんて。本当に、あの人は、魔法使いなのか?」


リッカと対峙していたイリーナは、彼女に問いただした。


「リッカさん。先ほど高火力魔法は、この技術の応用ですか?」


「さあ、どうだろうねー?」


「先ほどは貴女は、左手で魔法を撃ち、右手でバトルをした。

ならば、左手で速射魔法を撃ち、右手で高火力魔法をチャージを出来るはず」


イリーナは、問いかけるも、リッカは表情変えない。


「去年までなら両手で撃っていたのに、わざわざ逆手の左手で魔法を撃ち込んだ。

そして貴女は、右手でチャージし、高火力魔法を撃ち込んだ!違いますか!」


リッカは、初めて表情を変える。


「大体当たりかな。まあ、やり方は秘密だけどね。

でも、見破ったからって、この状況を変えられるかな?」


「貴女の言う通り、今は打開策がありません。

けど、試合が終わるまでには、打開策を見つけ貴女を倒します」


「そうこなくっちゃ!楽しみにしているよ」


攻め続けたナイナーズだが、マインズのディフェンス陣を前に、10ヤード進む事が出来ず攻撃権を失ってしまう。

攻撃権を得たマインズは、暴風の収まったフィールドを、悠々と進む。

タッチダウンには遠いが、フィールドゴール[キックでゴールを狙うプレー]なら、とどく距離まで来ていた。

キッカーを兼任している、エドウィンはキックの準備を始める。


「エド君。フィールドゴール成功を、期待しているよ」


「任せてください。ここで決めて、ナイナーズに引導を渡してやりますよ」


リッカの魔法により、暴風の収まったこの状況。

フィールドゴールの成功は、容易い・・・はずだった。

エドウィンがキックし、ボールがゴールポストに収まる瞬間だった。

突然の暴風により、ボールが右側にそれたのだ。


「だー!何でここで、暴風が復活するんだよ。なんだ?神様の嫌がらせか?」


「エド君、ここの神様は風の神様だよ。私たちは、対戦相手なんだから、嫌がらせを受けるのも、当然だよ」


「そんな、俺のゴールが・・・」


エドウィンはガックリし、地面に倒れこんだ。

一方暴風に救われた、ナイナーズ。

ゴールの失敗を見たカズミは、フーと息を吐く。


「危なかった。もし入っていたら、この試合が終っていた。風の神様に感謝します」


「どういたしまして」


「え、誰か何か言った?」


皆に確認したが、結局誰が言ったのか分からなかった。

憮然としない表情で、首を傾げるカズミであった。

その後は試合前半のように、お互いが攻めあぐね第3クォーターが、終了する。


ナイナーズのベンチに引き上げた選手は、疲弊していた。

特にリッカの魔法を受け続けた、カズミ、イリーナ、スズネの三人は酷かった。

リッカから、執拗に魔法で攻撃されたのだ。


「カズミ、イリーナ、スズネ大丈夫か?て、見ての通りか」


「なにも、出来なかった。私がしっかりしていれば、カズミやイリーナ、皆が、こんなにもダメージを受けなかったのに・・・」


項垂れるスズネの肩を、クラリスがポンと叩く。


「いーや、スズネは仕事をしたさ。

障壁が無ければ、もっと酷い状況になっていた。

あたしの仕事が増えていないのは、スズネが仕事をしたってことだろ?」


「クラリスさん、ありがとうございます。第4クォーターは、私の仕事をします・・・」


「カズミは、足周りの動きが大分悪かったが、大丈夫か?」


クラリスの問いかけに、カズミ一瞬ビクッとする。


「何とか、行けます」


「わかった。あたしがダメだと判断したら、止めるからな。

最後にアドバイス1つ、絶対無茶はするなよ 」


カズミは、静かにうなずく。


「お前達。マインズとの点差は、まだ一点差だ。

ここから逆転し、開幕戦、勝利するぞ!」


「オッス!」


一方、マインズベンチ。

フィールドの暴風に苦戦して、攻めあぐねていたが、逆転に成功。

選手のテンションは、マックスだった

「みんな、良くやった。惜しくも、追加点は取れなかったが、このペースで行けば、この試合は勝てる」


「ヘッドコーチ。それを、蒸し返さないで下さいよ。一番悔しいのは、俺なんですから」


「まあ、そう言うな。エドウィンの仕事ぶりは、みんなが理解をしている。そうだろ、リッカ」


レイトンが、リッカに目をやると、彼女は椅子に寄りかかり、死んだように眠っていた。しかし、声をかけられた事に気がついたのか、目を覚ました。


「ヘッドコーチ、申し訳ありません。いつの間にか、眠っていたのね」

レイトンは心配そうな顔をし、彼女に尋ねた。

「第4クォーターは、このまま出場できるのか?先ほどは、かなり無理をしていたが、もう少しペースを落とせないのか?」


「心配させてしまって、ごめんなさい。

でもあそこまでしないと、彼らを抑えられなかった。

特にカズミ・サワタリは放っておけば、何が起きるか分かりません。

このままのペースを継続して、彼らにプレーをさせないようにします」


「だが、無理なプレーだけは絶対しないでほしい。約束だ」


「約束を、します」


そういった瞬間、リッカはまた、眠ってしまった。


「病み上がりの中、あれだけの事をやったんだ。

きっと、マナを、使いきったのでしょう。

このまま、休憩時間が終わるまで、寝かせてあげましょう」

マインズの選手達は、うなずいた。


審判がホイッスルを鳴らし、最後の15分のは、幕を開ける

第4クォーター14:31 ファーストダウン 残り65ヤード 6対7


スズネは、開始と同時に鮮やかに輝く六芒星を空に描く。

そして味方の全選手に、障壁を張り始めたのだ。


「木の神、火の神、土の神、金の神、水の神、そして、風の神よ!どうか、我らを守りください

風魔六芒星」


詠唱が終わると同時に、メンバー全員に、光輝く六芒星が張られる。


「無駄よ、この障壁全部叩き割る!」


詠唱を見ていたリッカは、張られた障壁を、バリバリと割っていく。

たが、割った瞬間には、次の障壁が張られていた。


「なるほどー、そう来たか。

その戦術なら、障壁の無い選手はいなくなる。

けど、無理をすれば、必ずガタは来る。

いつまでマナが持つかな?」


「貴女の言う通りです。こんな事をしていれば、すぐにマナが切れるでしょう。

しかしここは、カゼカミフィールド。

我らが神、シナツヒコに守られし地。

マナの祝福を受けられる今なら、五分五分。ここからは、我慢比べです・・・」


「その我慢比べ、乗った!どちらが倒れるか、勝負よ!」


障壁の破壊に集中しようとしたが、一瞬のスキをついて、イリーナの鉄杭が、リッカに牙をむく。


「私を忘れてもらっては、困る」


「あっぶな!イリーナちゃんの事も、忘れてはいないよ。さあ、二人纏めて蹴散らすよ!」


第4クォーターは、スズネ、イリーナとリッカの潰しあいから始まり、膠着状態になっていく。


「流石イリーナちゃんとスズネちゃん、粘るね。

けど、このままじゃあ終わらないよ!」


「私も同感です。貴女に負けたままでは、終われません・・・」


「スズネの言う通りだ。だから貴女に勝ち、この試合も、勝利する」


「いいよ、いいよ!最高に、楽しくなってきたよ。

ならこのリッカ、貴女達の思いすべて受け止めるよ」


リッカとイリーナ、リッカとスズネ。

火花飛び散る戦いは、今最高潮を迎える。


「あー、ついにリッカさんのハートに、火が着いたか。

もう誰も止められねえな。

こうなったら、無事に終わることを、祈るしかないな」


脇で、リッカのサポートをしている、エドウィンは、タメ息を着いた。


第4クォーターも、残り五分。カズミの足は、完全に止まっていた。


「後少しなんだ。頼むから僕の足よ、耐えてくれ」


フィールド外から見ていたクラリスは、カズミの異変を、つぶさに感じ取った。


「オヤジ、やっぱり様子がおかしい。

カズミは足に深刻なトラブルを抱えているかもしれない。

今すぐ交代させるべきだ」


「まだだ、後5分、最後までプレーをしてもらう」


「おい、今なんて言った?交代させろと言ってんだよ!?

今ならまだ間に合う、さっさと交代させろよ!」


「ヘッドコーチは、俺だ。選手の交代の権利は俺にある」


「選手に怪我の前兆がある時は、交代の権利は、あたしにも与えられている」


「俺の仕事は、勝つ事だ。勝つためなら、何だってするさ」


ゴルドの言葉を聞いたクラリスは、思わず胸ぐらを掴んでしまう


「いい加減にしろ!カズミを、あんたみたいな目に会わせたいのか。

このまま続ければ、この試合が引退試合になるかも知れないんだぞ」


クラリスは激怒したが、ゴルドは、眉一つ動かさない。


「勝手にしろ。このクソオヤジ!」


試合開始まで時間が無くて、メディカルチェックが出来なかったのが仇となった。

カズミの奴・・・右膝の怪我を隠していたのか・・・・・・

頼む、カズミ。

頼むから、無事に帰って来てくれ・・・


第4クォーター00:41 サードダウン 残り78ヤード 6対7


「プレー出来る回数は、後2回か。

この距離は、絶望的だ。こんな時に、打てる手はあるのか?」


カズミはたまらず、タイムを取る。


「カズミ、どうした?まあ、何かあるからタイムを、したんだろうけど」


「いや、何も無いから。打つ手が無いからタイムしたんだ」


「なんだ、そんなことか」


「イリーナ。そんなことかは、無いだろ。困っているから、タイムしたのに」


「ならば、アドバイスは一つ。おもいっきり楽しんで、やってみたいプレーをするんだ」


「貴方が居たから、ここまで戦えました。

ですから、やりたいようにプレーをしてくだい・・・」


僕が今出来ることはなんだ?

僕の知識を、経験を、すべて総動員しろ。


カズミは、頭をフル回転させる。


「あった!みんな聞いてほしい・・・」



「なるほど、かなりのバクチだが、嵌まれば一泡吹かせられるな」


「では、それでいきましょう・・・」


「やっぱりカズミは、最高の相棒だよ。

私の能力を最大限まで引き出し、心底楽しませてくれるプレイヤーは他に居なかった。

改めて礼を言う」


「うれしいよ・・・僕の事を、そこまで認めてくれるなんて・・・だから!」


「だから?」


「この試合に勝ってみんなと一緒に、勝利の美酒を味わいたい!」


「私もだ!カズミと一緒に、勝利の美酒を味わいたい。頼んだよ、相棒」


「・・・任せろ!」


タイムを終えた、選手はボジョンに散った。


第4クォーター00:41 サードダウン 残り78ヤード 6対7


カズミがボールを受け取った瞬間、メンバー全員が相手を無視して、相手陣営に攻めこんだ。


「ショットガンフォーメーション!

いや違う、前衛ラインの維持を放棄して、全員をパスターゲットにしやがった!?

あいつら、無茶苦茶やりやがって」


「みんな落ち着いて。ナイナーズは、最後の賭けに出ただけよ。

これを守りきれば私たちの勝利、最後まで陣形を崩さないで」


「よし!みんなが、攻めこんだ。

あとはフィールドの暴風にボールを乗せて、おもいっきり投げけむ」


カズミが子供の時に見た、甲子園での、バックホーム。ホームまでは、絶望的な距離だった。けどその選手は、浜風に乗せて三塁ランナーをホームでアウトにした。


「僕は、あのバックホームを、再現する!」


カゼカミフィールドの暴風を利用したロングスローは、普段では届かない場所まで飛んでいく。


その距離は、80ヤードに迫る勢いだ。


「しまった、カゼカミフィールドの暴風を利用した超ロングスロー。

ここからじゃあ、届かない。けどね!」


イリーナは、走る。

カズミが投げたボールまで、1ヤードにも満たない距離まで迫っていた。

次の瞬間、目の前でボールは弾かれ、サイドラインの方へ転がった。


「フー、危なかった。何とか詠唱が、間に合ったよ。

やっぱり、彼をフリーにするのは危険だ。次のワンプレーは、どんなことしてでも彼を止める」


「後ちょっと、後ちょっとだった!後少しで手が届いたのに!」


イリーナは、拳を地面に叩きつけ、心の底から悔しがった。


第4クォーター00:09 サードダウン 残り78ヤード 6対7


ファタズムボウルは残り時間が無くなっても、プレー中は試合を終了しない。

つまり、ワンプレーしか出来ないが、時間は気にしなくていい。

暴風はまだ吹いている、これなら行ける!


ボールを受取り、再びロングスローを試みるカズミ。

だが、カズミの前には、無数の灼熱の魔法が襲いかかる。


「さあカズミ君、ほとんど動かないその足で、どう避ける?」


先ほどから、右足は限界で、立っているのもやっとだった。


「この炎、どうやって避ける?右足は、動かない。これならどうだ!」


動かない右足を軸にし、左足を動かす。半身になったカズミは、灼熱の魔法を間一髪回避する。


「イリーナちゃんと、同じ手!」


回避は出来ないと、思っていたリッカは、驚きを隠せない。

回避に利用した左足を、大きく踏み出し、ロングスローをしようとた、次の瞬間だった。


「あれ?何で空が見えるんだ」


右足が、負荷に耐えきれず、膝から崩れ落ちたのだ。


「まずい!このプレーが途切れたら、試合が終わっちゃう。何とか投げなきゃ」


右足が崩れながらも、ロングスロー試みた。しかし無理な体制からのスローは、ライナーではなく、フライになってしまった。

しかも暴風は止まり、ボールの飛距離が伸びない。


「終わった・・・僕せいだ。僕のせいで、また・・・負けた・・・・・・」


ロングスローを警戒し、後方に下がっていたマインズの選手は、急いで落下地点へ向かう。

カズミの渾身のパスは失敗に終わったが、ナイナーズの選手達は、諦めて・・・いなかった。


「諦めるな!?カズミがここまで、試合を作ってくれた。

最後も、諦めずパスをした。

今度は、私達が頑張る番だ!」


「イリーナの言う通りです。カズミが繋げた希望の火を、絶やしてはいけません・・・」


イリーナの一声に、選手達は活気づく。


「いーえ。このボウルを取って、ゲームセット。

みんな!これが最後のプレー、ボウルと勝利、両方を手にいれるよ」


「リッカさんの言う通りだ。

俺のゴールを邪魔したムカつく風の女神に、ざまあみろと言ってやるぜ!」


イリーナは、考える。

密集した落下地点で、ボールを奪ったとしても、マインズのディフェンス陣から袋叩きにされる。

では、他の手は無いものか。

ボールが落下を始めた瞬間、イリーナは落下地点から外れ、エンドゾーンにダッシュしたのだ。


「落下地点から離れていく。どう言うこと?暴風は止まっているのに。

そうか、誰か!イリーナちゃんをフリーにしないで!あの子は最後の博打に出る気よ!?」


リッカは叫んだ。その時、今日最大の暴風が、フィールドに吹き荒れる。

暴風に押し流されたボールは、すでに走っていた、イリーナの手に収まる。彼女はマインズの選手全員を置き去りにし、エンドゾーンへ、全力でつっ走る。


「誰か止めろ!」


ヘッドコーチの、悲鳴にも似た声が木霊するが、彼女を止める事が出来ない。


「中途半端な魔法じゃあ、イリーナちゃんは止まらない。なら、これしかない」


リッカは再び、金色に輝くロッドをグルグルと回し、高火力の魔法を試みる。


「カマドの神、ヘスティアーより承りし炎。その炎より作られし鉄槌は、全てを打ち砕く」


リッカの詠唱を見たカズミは、イリーナ向かって叫ぶ。


「イリーナ!後ろから、高火力の魔法が飛んでくる!避けるんだ!?」


だが、カズミ呼び掛けは届かない。

スタジアムの大歓声で、かき消されてしまったのだ。


「受けよ、我が鉄槌。アイアンフィスト・・・ブレ、イ・・・・・・」


生命の源である、マナが切れたのか。

魔法の詠唱中にリッカは力尽き、バタリと倒れてしまった。

もう、イリーナを止める者はいない。

残り5ヤード、3ヤード。

彼女は、エンドゾーンに飛び込み、タッチダウンを決めたのだ。

と同時に、試合終了のホイッスルが、スタジアムに響き渡る。


「スコア12対7、勝者カゼカミ39ナーズ!」


主審のコールに、スタジアムは沸き返った。前年度、リーグチャンピオンの、マインズに勝ったのだ。


「勝った。僕達は、勝ったんだ!」


フィールドに倒れこんだカズミは、涙を流しながら、勝利を噛み締める。


「カズミ!やったぞ!最後まで諦めずに、パスをしてくれたお陰だ。カズミ、泣いているのか?」


「ごめん、イリーナ。何故か涙が、止まらないんだ。うれしいはずなのに、こんな事初めてだよ」


優勝したような騒ぎの、選手の元に、エドウィンに担がれたリッカが、訪れる。


「負けた、負けた。最後のプレーは、やられたよ」


「リッカさん。さっき、倒れていましたけど、大丈夫ですか?」


「大丈夫、私はただのマナ切れ。アイアンフィストブレイカーを二度も撃たなきゃいけなくなったのは、私のミスだよ。

それよりも、カズミ君の足は大丈夫?終盤ほとんど動いていなかったけど」


「解りません。この後、足を見てもらう予定です」


「ああ、引き留めて悪かったね。ただ、君に伝えたい事があってね」


「伝えたい事?」


「今日の敗北は凄く悔しいけど、地区が違う私たちは、リーグ戦での対戦はもう無い。

けど上位に入れば、プレーオフで戦える。

プレーオフで戦うのを、楽しみにしているよカズミ君」


「はい!プレーオフに進出して、次も勝ちますよ」


「言うじゃない。次は私たち、アイアンマインズが勝つからね!」


そう告げると、彼女は立ち去った。


「よし、カズミの治療もあるし、ロッカールームに引き上げるか」


次の瞬間、イリーナはカズミを、お姫様抱っこをしたのだ。


「イリーナ!何をするんだ!」


「何って、カズミをドクターの所に連れて行くのだが?」


「だからって、お姫様抱っこは無いでしょ」


「カズミ。イリーナに悪気は無いのですから、そのまま受け入れてください・・・」


スズネはいつもの、変化の少ない表情だったが、この状況を楽しんでるのは分かった。

これを見た、他のメンバーは、ニヤニヤと笑ってる。


「これは、プロスポーツにおける、新人選手への洗礼と言うやつか・・・」


カズミは、イリーナに抱えられたまま、ロッカーへ下がって言った。


ロッカーに戻ったキーンは、戻るとすぐにテレビを着ける。


「何か見たいものでも、あるんですか?」


「ああ、FFL倶楽部を見るんだ」


「FFL倶楽部?」


「まあ、見ていれば分かるさ」


番組の中では、ユニフォームを着た解説者の、女性が、挨拶を始める


「517年シーズン、FFL開幕です。

今シーズンも解説をします、ワカバです、よろしくお願いします。

本来なら、リポーターのサスガさんもいるのですが、開幕戦と言うことで、現地からの中継になります。

では、早速呼んでみましょう。現地の、サスガさん!」

画面が切り替わると、マインズのユニフォームを着た、リポーターが、少し緊張した様子であらわれる。


「はい!こちら、現地のサスガです。今日はここ、カゼカミフィールドに来ています。

ナイナーズ対マインズの試合は、たった今終わったところですので、結果は番組後半お伝えします。こうご期待下さい」


「この世界にも、こう言うテレビ番組があるんですね」


「テレビは、一家に一台あるし。

まだ見せていない、ものがたくさんあるぜ」


この世界はファンタジーの世界だけど、科学は発展してるのか。

テレビを見ていたカズミは、あることに気づく。

あれ?テレビはコンセントに繋がっていない。

僕の世界とは、違う仕組みで動いているのかな?

そうこうしていると、ナイナーズの試合の、ダイジェストが始まる。


「ナイナーズ対マインズは、暴風の吹き荒れるカゼカミフィールドでプレーを開始します。

注目は、新人クォーターバックのカズミ・サワタリです」


「お、カズミが映っているじゃないか」


「カズミ選手は新人ながら、暴風をもろともしない正確なパスワークで、マインズの強力ディフェンス、アイアンカーテンに立ち向かいます。

この試合彼は、タッチダウンパスを2つ決め、見事マインズを破りました」


「お、私も出ているな。決勝点のシーンは、何度見ても良いものだ」


「勝利を納めたナイナーズ。

試合後は歩けないカズミ選手を、イリーナ選手がお姫様様抱っこをし、ロッカールームに引き上げました」


僕は顔が青ざめ、恥ずかしさのあまりに顔が真っ赤になった。


「何で僕が、お姫様抱っこされた所を放送しているんですか!まさかこの番組、全国放送じゃないですよね?」


「カズミ。残念ながら、FFL倶楽部は全世界放送です。諦めて下さい・・・」


スズネはフォローをしているのか、楽しんでるのか解らないが、形の上では僕を慰めているようだ。


「終わった・・・全世界に、お姫様抱っこが中継されるなんて。もうお嫁に行けない・・・」


「お嫁って、貴方男の子でしょう・・・」


こうしてカズミは、全世界にお姫様抱っこをされた選手として、知れわたったのだった。

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