1-32 決戦前日


方針が決まって数日、魔法の扱いなど諸々の事に頭を悩ませながら過ごしていると、ついにその日が来た。


あの事があってから、シドーは一度も夢に出てきていない。時間に余裕を持って登校すると、先に来ていた上本が俺を指でチョイチョイと手招きするので、座って耳を近づける。俺は息を吹きかけられるのだろうと予想して拳を握っていた。


「なあ、ショウって本当に転校したのか?」

「なんだよ……急に」


上本にしては遊びが無く、俺は握っていた手の力を抜く。しかし、上本の方からこんな事を聞いてくるとは。


「俺が知ってるはずないだろ?」

「だよな……」


上本の声には何か含みがあるような気がして、心臓の鼓動が速くなる。


「何かあったのか?」

「実は今日な、6時に学校に来たんだ」

「早すぎだろ……」

「いやー、おじいちゃんって早起きだろ? もしかしたら、なんか生きる活力になるような事があるんじゃないかと思ってな?」

「ああ、そう……」


上本の純粋な瞳の奥に濃いピンク色の欲望が見えるようで、俺はそれ以上の追究をやめた。


「それで、もちろん一番に教室に入ったと思ったんだ。けど、先に誰かいたんだよ」

「それがショウだった、って事か?」

「お見事、大正解!」


嬉しそうな上本の声に対して、俺は不安を覚える。


「幻覚じゃないか?」

「スポーツマンの視力を舐めんじゃねえ!」

「す、すまん……」


どうやらまたスポーツマン的な琴線に触れたらしい。突然の剣幕に引きつつ、言葉を選んで質問する。


「それで、ショウは何をしてたんだ?」


すると、上本は俺の机を指差した。


「お前の席でなんかしてたぞ」

「なんかって……」

「なんかはなんかだ。すぐに出て行ったからわからんかった」


上本の話を聞きながら、なんとなく机の引き出しを覗くと、リームの置き手紙によく似た紙切れが出てきた。


「なんだよそれ?」

「ただの紙だよ。あとで捨てとく」


この紙を見るのは放課後にしよう。もしかしたら上本や他の生徒を危険に巻き込んでしまうかもしれない。



放課後、集まった四人はリビングに集まり、その中心に置いた紙切れに目を向けていた。


「それじゃ、開くぞ」


他の三人が頷いたのを確認して、俺は紙をゆっくりと開いた。


「『大還元祭への出場権』?」


ミヤが声に出して読んだが、全く意味がわからない。


「なんでしょうか、これは……」

「うーん……聞いたことねえな」


親父もジャックもお手上げらしい。こんな時は専門の人に聞くに限る。


「母さん、『大還元祭』って何か知ってる?」

「ウフフ、もうそんな季節なのね……」


母さんの含みのある笑顔から、ろくでもない祭りだという事を全員が理解した。


「大還元祭っていうのは、こっちの世界でいうと競馬とか、競艇と同じようなことね」

「賭け事って事?」


母さんは大きくうなずく。


「そう。そして、賭けの対象になるのが神同士の戦い。武器も魔法もありの勝負よ」

「それって、死人が出るんじゃ……」


母さんの笑顔は変わらない。


「大丈夫、本当に危なくなったら五神全員で止めに入るから。それに、真剣な戦いというよりは、鬱憤を晴らすための喧嘩みたいなところもあるから……」


神様にもストレスという概念はあるらしい。それが溜まったから喧嘩する、と。


「小学生かっ!」


ツッコまずにはいられなかった。これは不可抗力だ。神様の皆さん怒らないで。


「つまり、その喧嘩に出場しろって事かい」


父さんが珍しく難しい顔をしながら言った。


「不安ですか?」

「ああ、龍の対戦相手が心配だ」

「俺をなんだと思ってるんだ……」


俺よりも見ず知らずの相手を心配する能天気コンビは放っておいて、話を進める。


「これに出ろって事は、相手はリームかな?」

「いいえ、五神が出場する事はできないわ」

「じゃあ、ショウじゃない?」


なるほど、それならばこの紙切れをショウが俺に渡しに来た意味がわかる。


「で、日付は……明日!?」


何度か見返すが、やはり明日の日付が書かれている。


「明日かあ……」

「行くしかないでしょ?」


ミヤが少し楽しそうに言う。なんとなく、俺を心配させまいと無理にテンションを上げているように見える。その優しさがとても暖かい。


「よっし! 張り切って行こう!」


自分を奮い立たせる。不安を隠すためでもあるが、それ以上にショウを救うことに使命感を覚えていた。





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