1-30 リームの告白


 リームに呼び出された場所に歩いて向かう足取りは重い。今日は平日だが、学校は休むことにした。平日なら友人と変な出会い方をすることも無いだろう、という考えゆえの決断だ。

 朝早くに連絡すると、ワンコールで出たリームに指定された場所は、あるビルの屋上だった。そこはつい最近倒産した会社で、まだ工事も入っておらず、会うのには最適な場所である。しかし、さすがにエレベーターやエスカレーターの電気は通っていないので、階段を上っていく。そこそこ高さがあるビルなので、思っていたより膝が辛い。


「こんな状態で攻撃されたら避けられねえ……」


 呟いても、階段の長さは変わらない。やっとのことで着いた屋上への扉を開けると、フェンスにもたれかかるリームの姿が見えた。


「やあ、遅かったじゃないか」

「リーム……」


 ゆっくりと息を吐き、噛み締めるようにその名前を呼ぶ。


「ダメだよ、海崎クン。僕の名前は視神遼だからね?」

「ふざけるな!」


 リームの軽い言動に怒りを煽られ、俺は声を荒げる。


「おお怖い。そんなんじゃ、僕からは何も情報は引き出せないよ?」

「ーーっ!」


 怒りに任せていては、リームには勝つことは到底無理だと分かっている。五神の一人である事に間違いはないのだから。俺は一度、深呼吸した。


「そうそう、落ち着いて話を聞こうか?」

「ああ、落ち着いた」


 俺が地べたに尻をつけると、リームは語り始めた。



 ーーあれは、今から20年ほど前の事。まだ、神魔の戦いの最中にあった頃だ。僕たちは王都に住んでいた。僕も弟クンも小さくて、親に言われるがままに生きていたよ。


 そうそう、僕の父はその頃の五神でね。名前はユーム。とても優秀な父で、僕たちの憧れだった。前線にはあまり出なかったけれど、賢い人で、神界軍の参謀役をしていると聞いていた。


 あの頃は幸せだった。不自由は少なからずあったけれど、家族みんなで懸命に生きていた。でもある日、事件が起こった。


 その日は珍しく父が家にいてね、カイザーのおかげで戦争が終わりそうだと喜んでいたんだ。いつもより母さんも嬉しそうだった。僕らは新しい生活に夢を見ていたんだ。


 その日の夜、突然父さんが外に呼び出されたんだ。その時に父さんが相手のことを「カイザー」と呼んでいたのをよく覚えているよ。翌日、父さんは無残な姿で見つかった。ああ、思い出すだけでも吐き気がする。涙が溢れてくる。

 しかし、父が死んだ事はなぜか世間には広まっておらず、逆に国から逃亡した反逆者としてその名前が吊し上げられた。


 差別、軽蔑の対象になった僕らは、なんとかスプレード領へと逃げ延びた。そしてまもなく、母が死んだ。自殺だよ……。


 僕は小さかったショウを連れて必死に生きて、生きて、生き延びてきた。魔法は、魔法書を盗んで独学で勉強した。できる事はなんでもしてきた。


 すべては、カイザーに復讐するため。父の無念を晴らすために、ねーー。



 リームの話を聞いて、俺は何も言い返すことができなかった。


 ……親父が、殺した?


 普段の親父の姿からは全く想像できないその文字列に、俺は困惑する。と同時に、神王やセラの事を思い、湧き上がる怒りを曝け出した。


「じゃあなぜ神王やセラを……!」

「あいつは無能だ!」


 リームは語気を荒げて言い放った。そして、またゆっくりと語る。


「あいつが父さんを吊し上げたんだ。次の神王の座を、父さんとあいつが奪い合っていたんだ。父さんの方がほんの少しだけ優勢だった。だからあいつは! 父さんを殺したんだよ……。カイザーを使ってね……」


 リームの目には、強い復讐の炎が浮かんでいた。


「これだけ聞いても、君は父を憎めないかい? それとも、まだ信じられないかな?」


 リームの声音は、彼から発せられる殺気とは正反対に穏やかだった。


「俺は信じたくないです」


 たとえ、変だろうとキモかろうと、父親は父親である。少なくとも、小さい頃から父の背中を追ってきた自分を否定するようなことはしたくない。


「そうか……」


 リームがそう呟いたとほぼ同時、彼の背中にはカラスを思わせる真っ黒い翼が左右に開いた。


「僕から君に話したかったことは以上だよ。今後、気が変わったらまた連絡してくるといいよ」


 バサァッと音をさせながら、リームは空中にできたゲートの中へ飛び立って行った。



「やはり彼は面白い……クク……」


 リュウも、ショウですら、リームの呟きの意味を知る者はいない。


「さて、どうすればもっと面白くなるかな……」


 ゲートから降り立つと、彼の目の前にあるのはチェス盤。リームはおもむろに白と黒のナイトを手に取り、互いを衝突させた。カシャンという音がして、二つのナイトは割れた。


「なるほどね……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます