1-28 帰還、そしてー③


 俺とミヤが立ち上がったのは、だいたい1時間ぐらいあとのことだ。この時、ミヤの制服をどうしようかと考えていた際に、姉がノックもせずに部屋に入ってきて一悶着、さらにはそれが母に知られてもう一悶着あった。ミヤの必死な弁明のおかげで、俺は変態のレッテルを貼らたり、家族からの冷ややかな視線を浴び続けたりする生活を、なんとか回避することができた。


「リュウ、明日からは学校行けるよね?」

「ああ、もちろん」


 そう言う俺の中には、清々しい気持ちと恥ずかしい気持ちが半分ずつ。それでもショウの事について不安は残った。


 ◆


「……っはぁ!」


 彼が重傷のセラを抱えて、ゲートを通った先は水の中であった。それをなんとか脱出すると、そこは保健室。自分が出てきた場所には水の入った大きな金だらいがあった。


「ふう。ったく……なんで転移先が水中なんだよ! 誰のせいでセラが怪我をしたと思ってるんだ!」


 強く毒づいた先には、爽やかな微笑を浮かべながら紅茶を飲む兄の姿が。


「う〜ん、僕も急いでいたからね。すまないね、弟クン」


 珍しく殊勝な態度を取られ、彼は少し動揺する。兄は持っていたカップに口をつけ、少し飲んで離す。


「それで、セラ様をどうしようと?」

「まずは治療だ、頼む」

「了解」


 彼はセラを空いていたベッドに仰向けに寝かせて二歩ほど下がると、兄は両手をセラに向けて魔法を展開する。


治療クーレ


 兄の手から青い光が溢れ、セラの傷口へと流れ込んでいく。すると、みるみるうちにその深い傷は元々無かったかのように消えてしまった。


「ふーーっ」

「ありがとうございます、兄さん」


 大きく息を吐く兄に、彼はそう声をかけた。すると、兄は今までに見せたことのない笑顔で、


「なんだか新鮮だね、弟くんにそんな風に呼ばれるのは。少し楽になったかい?」

「やめてくれ……ください」

「別に無理に直さなくてもいいんだよ? それに、僕はそっちの方が好きだな」

「…………」


 彼が何も言わずにそっぽを向くと、兄はまたカップに口をつけ、すする。


「ところで、この後どうするの? セラ様をここに置いてはいけないよ?」


 兄の意見はもっともである。だからこそ、これは彼が解決しなければいけない問題なのだ。


「その事は全部オレに任せてくれ。自分で勝手にした事だし、兄さんは好きなことをしててくれよ」

「我が弟ながらよくできた子だ」


 なんて言いながら目を潤ませている兄はさておき、彼が考えるのはまた別の事だ。


「海崎龍……」


 その名前を口にするたびに憎悪しか浮かんでこない。それに、彼らは初代カイザーに関しても根深い恨みを持っているのだから余計である。


「さて、どう踊ってもらおうかな……?」


 兄が薄気味の悪い笑顔を浮かべながらカップの中身を飲みきった。追加で注ごうとしているところに、彼は声をかける。


「オレにも一杯いいかな?」

「うん、いいよ」


 そういって手渡されたカップに入った液体は、お茶にしては濁った茶色に、緑色がいくつか浮かんでいる。顔の方に近づけると、カップに似合わないコッテリとした匂いが彼の鼻をついた。


「……えーと、兄さん。これは?」

「僕の一番推してるラーメン屋のスープだよ! いやー、ネギまで入れてもらって、また挨拶行かなきゃなー」


 彼は、兄の最大の弱点はきっとラーメンなのだろうなと察した。それ故に、次の日から彼がラーメンの事を調べ始めたのは余談である。



***

治療クーレ……

文字通り傷を治す魔法。

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