1-23 初陣、反逆


 ◇三班の場合


 リームのカウント直後、魔法陣から二十数体の死神が現れてから、約5分ほどが経った。右眼を開放した俺の前に対峙する死神はこれで三体目で、周囲にはまだ数体の死神が残っている。

 俺たちの戦い方としては、まず俺とミヤが近接して死神を相手にし、イオ様は寝転んで頬杖をつき、「めんどくさい」とぼやきながらも俺たちに強化魔法をかけてくれる。そして、セラはそのイオ様を守りながらスキを見て攻撃魔法を撃ち込む、といった感じである。


火球フィレ・バル!」


 今も、俺たちに近づこうとした死神が火炎に巻き込まれて少し退いた。


 ちなみに、先陣を切ったのは俺ではなくミヤである。突風のごとく前に駆け出していくと、先頭にいた死神のフード(多分顔だ)部分に前回し蹴りを放ち、一瞬で屠った。

 だが、これはその後のミヤの姿勢を見て、俺が予想しただけの動きであり、実際のところは全く見えていなかった。しかし、それは俺にとっていいヒントになった。というか、ミヤが先に突っ込んでくれていなければ俺は真っ先に死んでいたかもしれない。

 俺は直感的にすぐに右眼を閉じ、開いた。


カイ


 すると、心地よく頼もしい何かに支えられるような感覚に、全身が包まれる。そして、俺は目についた死神に向かって飛び出していった。が、その死神も気づいたのか、持っていた鎌を振り上げる。


「うおわっ!」


 それを見て思わず飛び退いたが、その鎌はまだ振り下ろされていない。俺は、この眼の意味をようやく理解した。


 ……見え


 死神が人間と同じならば、鎌を振り上げればすぐに振り下ろす動作に入るはずだ。俺はその予備動作を見て横に避けた。しかし、死神の鎌はまだ振り下ろされていない。まさに、世界がスローモーションになったかのような……。つまり、俺の身体能力と、特に反応速度はこの目のおかげで引き上げられている、ということだろう。

 勝てるかもしれないと希望が湧いた。ただ、


「ゼーン!」


 いくら避けられるとわかっていても、あの凶器と対峙した時の恐怖心にはまだ抗えない。武器ぐらいはある方がいい。そして、俺は愛剣での初陣を勝利で飾った。


 さて、話を戻そう。さすがに三体目ともなると俺の動きも手馴れたものになってくる。単調に向かってくる鎌を剣でいなし、その勢いを使って切り上げ、終了。

 死神は死ぬと煙のように消えてしまうので、血を見ることが無いという点で俺にとっては楽だったといえよう。

 俺がサクサク仕事を進める中、隣のミヤは一種の狂気に溢れていた。


「あはははっ。そーれ、いーち! にー! さーん!」

「なんでラジオ体操なんだ……」


 掛け声をかけながら、一発につき一体のペースで次々に屠っていく。イオ様の強化もあるのだろうが、それにしても凄まじい。なんせあの巨大な鎌にまったく臆せず、己の拳と脚だけで死神たちを霧散させていくのだ。その動きは、もはやあらゆる武器をも凌駕している。


「はいこれで9! リュウ今何体?」


 急に立ち止まり、俺の方へ声をかけてきた。突然のことに少しだけまごつく。


「あ、えっと、6ぐらい?」

「よしっ、勝ってる! まだまだいくよー!」


 ミヤはまた、勢いよく残りの死神の群れに飛び込んでいく。きっとこれが最後の集団だろう。


「おいっ、待てって!」


 右足を強く後ろに蹴り出すと、その集団の近くまでひと蹴りで飛ぶことができた。やっとこの体の勝手がわかってきた気がする。


 一番近くのやつを飛んだ勢いに任せて背後から斬り倒し、そのままミヤに加勢する。


 そこからは、数分もかからずに殲滅が完了した。ミヤは横で額の汗を袖で拭っている。


「ふいーっ。結局、リュウ何体?」

「多分……10、だと思う」


 俺が言い終わると同時に、ミヤは大きくガッツポーズを決める。


「っしゃーー! 15だからあたしの勝ちね! というわけでリュウ、帰ったらジュースおごって?」

「いやなんでだよ! そもそもそんな勝負受けてないんだが!?」


 すると、ミヤは謎のドヤ顔で俺の方を見て言った。


「ふっふっふ。人生で起こる事は全て勝負なのだよ、海崎くん」

「どこのギャンブラーだよ、それ……」


 俺が言うと、ミヤは口を尖らせてぶうたれてしまう。


「別にいいじゃんかー。ジュースくらいおごってくれても……」


 この程度の事でそんな顔ができるお前を俺は尊敬する。しかし、この顔をされると弱いのは自分の性だろう。


「仕方ない……一本だけな」

「いやったーー!」


 ミヤが喜ぶのを見ていると、いろいろな出来事に抱いている不満がなくなっていくようで心地よかった。


「はーい、そこまでねー」


 イオ様が近づいてきて手を鳴らすと、俺は我に返ってミヤから視線を外す。少しだけ見下げると、イオ様がニヤついている。


「なるほどね」

「な、何がですか」


 なぜか動揺している。俺の心の中を読まれたのか? いや、特におかしい事は考えていないはずだ。


「うんうん、よくわかった」

「だから何が!」

「……よし、王城へ戻ろうか」

「ちょっ、待ってくださいよ!」


 イオ様に簡単にはぐらかされて、結局何も聞き出す事はできなかった。


 ▽


 城の会議場には、神王率いる一班が座って待っていた。そこに俺たちが入っていくと、彼らの重苦しい雰囲気は和らいだ。


「あとはシューゴの班か……」


 神王がそう呟いたその時、会議場のドアがゆっくりと開いた。


「ただ今戻りました……」

「……!」


 そこにいたのは、リームさんただ一人。皆、彼の服に染み付いた赤を見ると、その事を察して息を飲んだ。


「リーム……」


 神王が立ち上がって歩み寄ると、リームはその胸に崩れた。


「神王……様。私の不注意に、シューゴ様と師団長様が……」

「もう良い。ゆっくり休め」


 俺やミヤがその言葉と涙から察した事実に言葉を失っている間に、一人だけが違うものを見ていた。


「離れろ、神王!」


 そう叫んだのはレイラさんである。しかし、時すでに遅し。


「ぐっ……う……」

「休むのはあなたの方ですよ。永久に、ね」


 次に聞こえた声は悲痛なうめき声であった。リームが少し離れ、神王はその場にうつ伏せに倒れた。そして、立ち上がったリームのその右手には、先から真紅の液が滴るナイフが握られていた。


「お父様!」

「ダメだ! セラ!」

「離して下さい!」


 今にも飛び出して行きそうなセラを必死に捕まえて止める。


「リーム…………」


 レイラさんは、リームの心を見ていたのだ。そして、今のその表情は怒りを露わにして、今にも喰らいつきそうな目を向けている。それを見て、リームは気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「嫌ですね、レイラさん。そんな顔ではせっかくの美人が台無しになってしまいますよ」

「ふざけるんじゃないよ! あんた、自分が何をしたのか分かってるんでしょうね!」


 すると、リームの笑顔はより一層歪み、俺たち全員を嘲るように見渡した。


「もちろんわかってますよ……殺したんですよ、三人……師団長、シューゴ、そして神王……くふっ、ふふふふ、あははははは!」


 その笑い声が大きくなるにつれて、俺たちの怒りは頂点へと達していった。


「ははははーー、はあ。疲れたからこれぐらいにしておこう。ん? みんな目が怖いよ? もっとリラーックスして。死ぬ事なんてよくあることでしょ?」

「狂ってる……」


 ミヤの声は議場に響き、リームの口角がさらにいやらしく上がる。刹那、一人が飛び出した。


「リイィイイイイム!!」


 レイラさんは目視できないスピードでリームの懐へ飛び込んで行った。勢いに任せて右手を前に突き出した。

 ズシン、という衝撃が突き抜け、砂埃がパラパラと舞った。しかし、その拳が打ち砕いたのは議場の床で、リームの姿は見えない。


「ひゃー、すごいパワーだ。あんなのまともに貰えないや」


 後ろからその状況に似合わない呑気な声が聞こえた。リームは、いつのまにか議場の扉の前にいた。


「はあああああああ!」


 またレイラさんは飛び込んでいく。しかし、何度腕を振っても拳が空を切り、議場の床や壁に穴が開く音しか聞こえない。


「よっ、ほっ、そろそろ反撃しましょうかね?」


 避けながら喋る余裕まである。そして、レイラさんが次の一撃を放とうとしたその時、リームの左手が動いた。


退け! レイラ!」


 その声に、リームは一瞬ピクッと反応し、狙いが逸れた。続いてレイラさんは後ろに強く跳んだ。突然響いたその声は、アクセントに西よく通る声だった。


「なぜ……生きている」


 リームの顔が怒りに満ちている。その視線の先には、


「シューゴ!」


 血まみれのシューゴがドアに体を預けて立っていた。それを、レイラさんが支えて議場の前に移動させる。


「あー、何なんだよ……。手間が増えるじゃねえかよ……」


 リームは頭を抱え、何かブツブツとつぶやいている。俺たちはこれを勝機と見て一斉に動き出そうとした、その時。


「止まれ」


 鋭い声がリームから発せられた。


「それ以上来るな。来た奴は必ず殺す」


 その一言に、俺たちの体は金縛りにでもあったように動かなくなった。


「もーいいや、。召喚サモン死神王デスロード付与:防弾ブレットプローフ


 突然の呪文に、俺たちは全く対応できなかった。目の前には先刻のものよりふた回り程大きな魔法陣が映し出され、そこからはすでに大きな鎌が姿を見せている。


「じゃあな、諸君。ゲート


 リームが別空間へ移動していく。俺たちはそれをただ見ていることしかできなかった。



***

火球フィレ・バル……

初級魔法の一つ。火の玉を打ち出して攻撃する。


召喚サモン……

使用者がイメージした物をその場に生み出す。召喚できる物は使用者のイメージと魔力に比例する。


防弾ブレットプローフ……

飛び道具が効かなくなる。





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