1-20 ショウ=カーム=スプレード


 これまでにイベントが偏り過ぎたのか、今週はこれといって特別な事は無かった。大変だったのは予習復習ぐらいか。

 さて、今日は神界から帰ってきて五日後の土曜日。現在、俺、ミヤ、セラは神界の王城、五神会議をした会議場で話し合いに参加していた。


 話し合いの形として、まずこの場にいるメンバーだが、前回と同様にシューゴさんは前に立ち、他の五神は同じ位置に座っている。そして、イオ様の隣にはサルマにいた時と同じ服装のシーナさん。そして、レイラさんの横にはマリ姉もいる。その他に二人、神界軍の将軍アリノと聖導師団の師団長マルクが並んでいる。そして……


「アルバート王、そこの陣形に私を加えて頂けないでしょうか」


 こんな感じのことを議場の前の方で話しているのは、誰が見ても納得するような、俺よりも背の高い爽やか系イケメン。その瞳は深い蒼色をしている。


「ーーそしたら、一旦解散や。もう一回集合するから忘れずに」


 シューゴさんの号令で会議が終わると同時に、俺とミヤは立ち上がってソイツの席へ向かう。後ろからはセラが付いてくる。


「おい、どういう事だ。説明してくれ」


 肩を叩き、振り返ったソイツの顔を俺が見紛うはずも無い。いくら目の色が違っても、明らかにアイツである。


「えと……どこかでお会いしたことありましたか?」

「とぼけるんじゃ無いわよ。こっちはセラから聞いてるんだから」


 すると、ソイツは頭を軽くかきながら、少しバツが悪そうにする。


「さすがはセラ様ですね……。まあ、バレた物は仕方ありません」

「とりあえず、名乗ってもらおうか、ショウ?」


 ショウは苦笑いしながら、俺たちを真っ直ぐに見た。


「オレの名前はショウ=リーム=スプレード。セラ様の言う通り、オレは見神翔だよ」



 それから俺たちは王城の庭園に移動すると、白いベンチにセラとミヤが、その前のよく整備された草の上に俺とショウがあぐらをかいた。


「さて、色々と聞かせてもらおうか? セラはコイツが嘘ついてないか教えてくれ」

「別に嘘つくような事は無いんだけど……。それで、何から聞きたい?」


 俺は顎に手を当てて少し考える。


「それじゃ、お前の生い立ちから……」

「待った。それは長くなるからやめよう」

「そっちから言ってくれて助かるよ」


 こういうのは普通、第三者が言うものだと思う。しかし、自分でわかっているのはコイツの美点だろう。俺はまた目をつむり、少し考えた。


「それじゃあ、お前の本来の役職と、どうして人界にいたのか教えてくれ」

「オッケー」


 そう言うと、あぐらをかいていた足を一度組み換えてから、ショウはゆっくりと話し出した。


「オレのこっちでの仕事に関して話そうと思うと、まずはオレの兄の事からだね。さっき言った名前でわかると思うけれど、俺の兄はリーム=スプレード。現職の邪神だ」


 俺たちは頷き、ショウはさらに続ける。


「それで、その弟は五神見習いとして、少しだけ優遇されてるってわけ」

「例えば、どんな仕事をしてるんだ?」


 俺がそう聞くと、ショウは即答する。


「主なもので言えば、セラ様の執事役とかかな?」


 それを聞いた瞬間、俺とミヤは勢いよくセラの方を向く。すると、セラが少し恥ずかしそうにうつむき、間を置いてから口を開く。


「……本当です」

「二人とも、オレは嘘言わないって最初に言ったよ? セラ様も、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。昔はよくお風呂にも……」

「わーーーー!」


 よほど恥ずかしい事があったのだろう。セラが突然大声を出したので、しっかりと聞き取ることができなかったが、この二人が昔からの知り合いだという事はよくわかった。


「ショウ、続けてくれ」


 俺が促すと、ショウは流暢に喋り出した。


「なんで人界にいたのか、っていう事だね? 大体は、今のセラ様の状況と同じかな?」

「と、言うと?」

「オレも、社会勉強をしてこい、って兄上に言われたんだ。こっちから見るよりも人界に行った方が、人の黒い部分とか、そういう人間らしい部分がよく見えるから、って」

「うへぇ」


 思わずそんな声を漏らしてしまい、ミヤがクスッと笑う。確かにリームさんは底が知れない人だと俺は改めて実感した。


「でも、それは神様と人間とじゃ全く別物にならないの?」


 ミヤの口にした疑問はもっともである。しかし、ショウは首を横に振る。


「いえ、こちらにもある程度黒い者はいます。ただ、人間に比べると悪意が弱くてね。ちょっと言えば改心しちゃいます」


 ミヤはそれを「ふーん」で済ませてしまった。俺としては、また「うへぇ」という声が出そうになったが、ミヤの顔を見てなんとか堪えた。


「さて、そんなこんなで三年以上が経ち、海崎クン……いや、カイザーの息子と友好関係が築けたのです」


「めでたしめでたし」と言いながら、俺に近づき、いきなり肩を組んでくる。


「なんだよ急に……」

「別にいいだろ? あ、オレの話はこれで終わり。何か質問は?」


 誰も何も言わなかったので、俺たちは立ち上がり、ショウが少し離れてから振り向いた。


「そしたら、また後で」

「おう」


 ショウはまた議場の方へかけて行った。


「あたし達も戻ろうか?」

「そうですね」


 ミヤとセラに続いて、俺も城の中に入って行った。ミヤはセラに城内を案内してもらうらしい。ちなみに俺は、夜に備えて部屋を借り、仮眠をとることにした。できれば、あの夢を見ないことを願う。


 ◆


[計画通りに事は進んでいるかい?]

「ええ、順調過ぎて逆に怖いぐらいですよ」

[それは良かった。というか、順調じゃないと困るんだけどね]


 神界に降り立った彼は、手のひらに乗せた小さな青く光る三角錐を通して、また青年と話をしている。


[ところで……周りの様子はどうだい?」

「はい。ひとまず、計画に感づいている者はいません。また、上位神は現在も対策を話し合っており、王女はカイザーの息子達と談笑しています」


 彼がそう言うと、三角錐からため息が聞こえた、と同時に殺気の渦が彼を襲う。


[何度も言うようで悪いけど、僕に無駄な時間を使わせないでくれないか? 上位神の事なんてわかりきっているんだ]


 またも彼は、その殺気の渦に思考を呑まれ、体の自由を一時的に奪われた。


「申し訳ありません」


 彼はそう言って頭を下げた。頭では、この三角錐が伝えるのは音だけだとわかってはいるが、彼の本能がそうさせた。


[んーー、やっぱり固いね、弟クンは。こんな事で萎縮して、頭まで下げちゃって。そんなにヘコヘコして楽しいかい?]


 この男には、彼が頭を下げている事など見えていない。しかし、明らかに見ているような口調である。そしてさらに続ける。


[どうせなら、自分の体は自分がワクワクするために動かそうよ。小さな事でもいい。カップ麺が食べたきゃお湯を沸かせばいいし、寂しいなら仲間を作ればいい。簡単だろ?

 もっと貪欲にさ、欲しいものは全力で掴み取りに行けばいいんだよ。弟クンには、そういうハングリーな精神が足りないよ]


 無駄を嫌うこの男にしては珍しく、長々とした話だ。それを無言で聞いていた彼の心の内では、小さな反抗心が生まれる。


 ……カップ麺の例とか絶対いらないだろ。


 彼も知っているのだが、この三角錐の奥にいる青年の好物はカップ麺なのである。

 無駄の多さに気づいてしまったが、ここで言ってしまえば命は無いだろう。


「ところで、そっちはどうなんだよ」

[フフフ、タメ語かい? 僕の駒たちなら檻の中で荒れ狂ってるよ。鎌なんて突き立てたところで出れやしないのにね]


 今ごろ、この男は目に狂気を宿し、恍惚の表情を浮かべているのだろう。彼はそれを想像して仲間ながら身震いする。


「それじゃあ、切りますね」

[うん、じゃあね。最高の夜にしよう]


 そして、空いていた右手を三角錐の上から包むようにかざすと、光が消える。これは通信が切れた証拠である。


 青年は、黒い木椅子の背もたれに寄りかかり、目の前のチェス盤に転がるナイトを手に取り、ポツリと呟いた。


「まあ、お前も僕の駒の一つなんだけどね」




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