1-19 会議とアッパーカット


 俺たちはシューゴさんの勢いに押され、また王都に戻ってきていた。

 前回とは違って、スムーズに王城へ入ると、シューゴさんは会議場へと早足で進んでいく。後からついていく俺たちは、かなり息が荒くなっている。


 ……関西の人は歩くのが速いというが、この人もなのか? いや、この人は神だし、関係ないはずだ。ちなみに、大阪府民は歩く速度が全国一位で東京都民が二位だそうだ。と、そんなことはどうでもいい。王城の階段を二階層上り、長い廊下を突き当たったところで、シューゴさんは止まった。

 そして、ゆっくりとその扉を開ける。


「おっ、全員揃ってるな。そしたら、始めるで」


 シューゴさんのよく通る声が会議場に響き、他の五神も円卓の周りに座った。


 実は一番偉かったりするのか……?


 先程までとは打って変わって、神としての風格が出ているシューゴさんは、議長のようである。


「それでは今回の議題は、“邪神剣じゃしんけん”サナトスが、消えたということについて話させてもらいます」


 しかし、イントネーションは関西弁そのままだ。全員が席に着き、まず最初に話すのはリームである。


「本当に申し訳ありません。謝っても済まされない話ですが、サナトスが無くなってしまいました」

死神しにがみの統制は?」


 神王が聞くと、リームさんはそれに弱々しく答える。


「今は僕の力で、神殿の外に出さないようにしています。ですが、それもいつまで保つのか……」

「いつまで持たせられるんだい?」


 続いてレイアさんが聞くと、今度は強く答える。


「あと五日はなんとかします」

「見つかる気がしないなぁ……」


 小声でイオ様がつぶやいた。しかし、神王がキッと睨みつけるとイオ様はその小さな体をさらに小さくする。が、その顔は少し笑みを含んでいる。


「イオ、ふざけてるのか?」

「だぁってさ、手がかり無いじゃん? それに、無くしたやつの責任でしょ?」

「イオ!」

「まあまあ。神王、その辺で」


 神王とイオ様の間に入り、シューゴさんが話をまとめる。


「そしたら、サナトスの件について、五日間は死ぬ気で探す。そんでもって見つからんかったらワイらが全力で死神を止める。それでええですか」

「お願いします」

「うむ」「おーし」「はいはーい」


 簡潔だが、しっかりとすべき事はまとまっている。やはり神の会議ともなればこのレベルなのだろう。リーム以外の三人の返事は三者三様で、やはりイオ様に至ってはやる気が無いように見える。


「あのー、イオ様? もうちょっとやる気出しません?」

「ん? これでもボクはやる気に満ち溢れているんだけれど?」


 そう言って俺の目を真っ直ぐに見つめるイオ様の目には、やはりやる気は見えない。


「とりあえず、イオは後で説教やな? じっくり話し合おうや」

「うっ……。シューゴと話し合うとかムリ」

「ほんなら、ここで宣言しよか。この件については全力を尽くします、ってな?」

「わかったよ……」


 これでイオ様はやる気になってくれるのだろう。俺は少し屈んでイオ様と目線を合わせると、その胸に拳をコツンと当てた。


「よろしくお願いしますよ」


 しかし、イオ様から返答はない。というか、全身がプルプルと震えている。顔を見ると、頬を膨らませ、涙目で俺を睨みつけている。


「えっ……えっ!?」


 立ち上がって周りを見ると、神王とリームさんは苦笑、レイアさんは頭を抱えて空を仰ぎ、シューゴさんは今にも笑い出しそうである。戸惑う俺の右肩にミヤが左手を乗せる。


「リュウ……さすがにそれはアウトだよ」

「な、何がアウトなんだよ!?」

「グッ……ハハハハハハハハ!」


 シューゴさんは笑いをせき止めきれなかったようで、突然に吹き出した。


「何がおかしいんですか!?」


 俺のセリフはそんなにクサかったか! そう心で叫びながら聞くと、シューゴさんは笑いをこらえながら補足をしてくれた。


「ハッ……ハァ、少年よ。イオは……クフッ、お、ぞ……グハハハハハハ!」

「へ?」


 俺の理解が追いつかずにいる間に、イオ様は俺の懐に入り込んできていた。


「そうかそうか、君もやはり男なのだな。うむ、よくわかった。確かに君の周りの女性たちはちゃんと胸があるからな」

「あ、あの……イオ様?」


 イオ様の口から溢れ出る憎悪には俺が弁解する間も無かった。イオ様は素早い動きで右手を腰溜めより後ろに引くと、


ーーーー!」

「ぐぼぁっ!」


 俺を心理的な衝撃が襲うとともに、物理的な衝撃ーイオ様のアッパーカットが、無防備な俺の顎に直撃し、その瞬間に意識が飛んだ。この後、ミヤが意識のない俺を抱え、日本へ戻ったらしい。


 ▽


「ヨウ、また会ったナ」

「ん? ああ、また夢か。ふぁあああ……」

「どうしてオマエは夢の中でもそんなに眠そうにするカナ……」


 夢の中だというにも関わらず、大あくびをする俺に、ヤツは呆れながら、右手を顔の横あたりに掲げ、指をパチンと鳴らす。


「コレでもクラエ」


 すると、頭上からザザザッという音がして、俺はそちらを見上げた。何も無い空間が歪み、穴のようなものを作り出す。そして、その音の正体が穴から溢れ出してくる。

 当然、寝ぼける俺にそれが避けられるはずもなく、俺は頭頂部から肩にかけてを強く打たれた。


「いっ!? ……もが……ぷはっ!」

「目は覚めたカ?」

「おかげざまで……ひくしゅっ」


 これでは寝耳に水どころか、寝ぼけ眼に滝行である。そのオプションで風邪までついてきそうだ。しかしながら、目が冴えたことに変わりは無いので、今の俺が置かれているであろう状況を整理する。

 おそらく、今は人間界に帰ってきていて、俺はどこかで寝かされているのだろう。そして、夢の中でまたヤツと話をしているわけだ。

 状況をある程度把握したところで、ヤツが俺に話しかけてくる。


「アーア、お前の鈍感もここまでくるとさすがだナ?」

「仕方ないだろ……というか、あれは幼過ぎるだろうよ」

「カーッ! 幼女も女だっつうノ! そうだ、女にだけ鈍感なお前にハ、ラブコメ主人公の称号をやるヨ」

「いらんわ!」


 と、コイツの嫌味ったらしい言動にも慣れてきたところで、俺はふと気づく。


「……なあ、オマエの名前は?」

「ナニ言ってるんダ? オマエがリュウなら、オレも『リュウ』ダロ」

「そういうことじゃ無いんだよ」


 俺は頭をポリポリと掻きながら、適切な言葉を探す。


「俺がお前を呼ぶとき、『リュウ』って呼ぶのはなんか嫌なんだよ、わかるか?」

「オーケー、だったらオマエがオレに名前をつけてクレ」

「はいはい……」


 考える前に、目の前のヤツの外見を今一度確認する。姿形は完全に俺と一致している。違うところがあるとすれば、その喋り方と全体的に黒みがかっていることぐらいか。


 ……分身……黒……影……カゲ……。


「日本語っぽいのは無しナ、カッコイイやつがイイ」


 一瞬まとまりそうになったところに、コイツは文句をつけてきた。要するに、厨二くせぇ名前ならいいんだろう。


 ……カゲ……シャドウ……シャドー……!


「決まったカ?」


 俺の夢の中ゆえだろうか、コイツがアクションを起こすタイミングは常に完璧だ。


「ああ、決まったよ。俺はお前をと呼ばせてもらう」

「それじゃあ、オレもオマエをと呼ばせてもらオウ」

「お、おう……」


 突然言われた割に普通の反応ができたのは、シドーの方も「リュウ」という名前を呼ぶのは言葉で表せない嫌悪感のようなものを感じるだろうと予想がついていたからだ。


 しかし、俺が「影」からシドーとつけたように、ヤツの方は「光」からつけたらしい。結果的に、2人とも某ハーレム系アニメの主人公っぽくなってしまった。ラッキースケベが起こると良いな。さて、話を戻そう。


「それじゃあシドー、この前の剣の名前を教えてくれるか?」

「オーケー、もう一回出すヨ」


 そう言ってまた、右手を前に掲げると、あの歪な剣がその手に形を成した。

 そして、シドーはその剣身を横向きのまま見せて、こう言った。


「この剣の名は、だーー




 ーーまたしても意識が消え、そして現実へと戻ってくる。

 俺は勢いよくガバッと起き上がった。目覚めたのは自分の部屋のベッド上。時間は5時30分。


「早起き過ぎるな……」


 別にさっきの夢の続きを見られるわけでも、というか別段見たいわけでも無いのに、俺はもう一度枕に頭を乗せ、まどろみの波に身を任せた。神界に行ってから、俺はよく眠れる能力でも身につけてしまったらしい。この日もしっかりと遅刻ギリギリで学校へ向かった。




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