1-16 二心同体


 ーー体が揺れている。いや、誰かに両肩を掴まれて前後に揺らされている。すると、声が聞こえてくる。


「…………い、おい、コラ、無視すんナ」


 以前、どこかで聞いたことのあるその声に目を開けると、そこに見えたのは俺自身。


「う……うおわぁっ!?」

「ヨウ、久しぶりだナ」


 正確には、夢で出会った俺と同じ姿形をした「ヤツ」である。ということは、これも夢か?


「お、おう、久しぶり……」


 頭以上に俺の体は焦って固まり、そんな返答しかできなかった。すると、「ヤツ」はガックリ。そしてため息混じりに言う。


「もっと他に気にしなきゃいけない事があるダロ……」


 言われて、少しだけ考えてみる。……ああ、そういえば、


「なんで一週間も夢に出なかったんだ?」

「そうだナ、それはオレが斬られて心の檻に……って違うダロ! 何を言わせるつもりダ!」


 俺がキョトンとしている中、「ヤツ」はまだブツブツとつぶやいている。


「あぶねーナ。コイツ……ナチュラルにオレを潰しにきてやガル」


 なんというか、中身は意外と単細胞らしい。見た目が自分と同じ分、哀れみの視線を向けたくても向けられない。


「今失礼な事考えてたよナ?」


 ……変な所で察しのいいヤツだ。

 話題を変えるため、他にコイツに聞かないといけない事があったのか今までのことを思い出そうとする。


「そうだ、なんで斬られたのに生きてるんだ?」

「はぐらかしやがったナ……」


 しかし、「ヤツ」はうんうんと頷いて、満足そうにしている。


「まあいいや、そういうのが必要なんだヨ。その事についてだナ、結論から言うと、オマエはオレでオレはオマエなんだヨ」

「……ん?」


 コイツはかなり回りくどい言い方をしている気がする。「ヤツ」は理解に苦しんでいる俺を見て、呆れ顔だ。さらに、自分の頭に右の人差し指をつけてこう言った。


「ハア……オミソが足りてないんじゃないかナ?」


 ……心底めんどくさい。それに俺と同じ顔なのがウザ過ぎる。どうせ夢なんだからもっとあっさりしていて欲しい。


「さっさと教えてくれ」

「つまりだネ、コレはオマエの夢なんだから、オマエが生きている限り、オレは生き続けるんダ。オーケー?」


 なるほど……二心同体というようなところか。俺は頷いて、次の質問をする。


「で、なんで今出てきたんだ?」

「ウン、それはだナ……オマエが必要としたからダ」


 ……は?


「いやいや、個人的にはむしろ出てきてほしくないんだけど……」

「その言い方はオレでも傷つくヨ……?」


 それはともかく、気になるモノは気になるのが仕方ないことだ。


「それで、俺がいつお前を必要としたんだよ?」


 すると「ヤツ」はうーん、と考え込む素振りを見せる。


「……最近ずっと、カナ? それと、別にオマエがオレ自身を欲したワケじゃなく、オレが持ってるモノを欲してもオレは現れるヨ?」


 最近欲しいもの、探しているものと言えば一つしか思いつかないが……。俺はそこでハッとなる。


「お前、俺と戦った時に使ってた剣持ってるよな?」

「お、オウ……」


 俺は、後ずさる「ヤツ」を急かす。


「見せてくれ! 早く!」

「わかったカラ! 落ち着ケ」


 俺が少し下がると、「ヤツ」は右手を前に出し、空を掴んだ。すると、「ヤツ」の握られた右手からはどす黒い柄が伸び、それは見たことのある黒く歪な形になった。


「これをどうするんダ?」

「その剣の名前を教えてくれ」


「ヤツ」は一瞬キョトンとした後、笑みを浮かべる。


「なんだ、それだけカ。教えてやるヨ、この剣の名前は、サ……


 ぷつん。



「…………ウさん、リュウさん!」


 これは、誰の声だろう……。俺が目を開けると、目の前にはセラの顔が。


「って近い!」

「あ、すみません。おはようございます」


 ……そうだ。先程の夢はセラの声によって途切れてしまった。しかし、


って言ったよな……」


 できるならばあまり見たくなかった夢を、今の俺は猛烈に欲している。本当にあの剣はサナトスだったのか、という疑問が頭の中をぐるぐると回っている。


「リュウさん? 着きましたよ」


 そう言われて、また考え込んでいたことに気づく。そう、今は夢なんかに頼るよりも、現実でやるべき事をしっかりとやらなければいけないのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます