1-11 ある日


 土曜日、俺は一日中ずっと剣を振り続けた。母さんから、「収納リクエイヴ」という魔法を教えてもらったので、そこにゼーンをしまって、いつでも取り出せるようにした。

 そして、日曜日。今も俺は徳川の道場を借り、ゼーンを振り続けている。


「意外と馴染んできたな……」


 思っていたよりも柄が手に馴染みやすい。俺はゼーンを自分の腰に立てかけ、マメのできた手を開いて見ようとする。しかし、完全には開くことができない。我ながらよくここまで、と思う。しばらくマメをいじっていると、急にスマホが着信音を鳴らす。驚いたせいでマメに爪を立ててしまった。


「痛ってぇ! あちゃー……」


 マメの一つがぱっくり裂けて、少し血が出る。少しだけイラつきながら画面を見ると、親父からである。


「はい、もしもし?」

[おう、龍。励んでるか?]

「だいぶ手には馴染んできてるよ。打ち消しの力は使えねえけど」

[馴染んでるか、それは良かった。飯だぞ、帰ってこい]

「わかった」


 道場には時計が無いので気づかなかったが、もう昼の12時を回っている。


収納リクエイヴ


 俺はゼーンを別空間に収納して、道場に一礼した後、さっさと家に戻る。


 ▽


「ところで龍、お前って二刀流できるか?」


 母さん特製の焼飯を食べた後で、急に親父がそんなことを聞いてきた。


「さあ? やったことないからわかんないや」

「そうか。なら、出来ない、ということは無いんだな?」

「お、おう……」


 急に食い気味に来た親父から少し引いて、俺は答える。しかし、なぜ二刀流なんだ?


「龍、実はお前にはもう一つ渡さなければならないものがある」


 親父がそう言うと、母さんがキッチンから顔を出して代わりに続ける。


「私が使っていた『邪神剣じゃしんけん』っていうのがあるのよねぇ」

「へ?」


 母さんが、剣を……?

 全く想像がつかない。というか“邪神”と言うと、どちらかといえば鎌を思いついてしまう。一瞬だけ考えてみると、笑いながら剣を振り回して親父を追いかけるサイコな母親の姿が見えてしまったので、思考停止。

 セリフを奪われた親父は、一度「オホン」と咳払いしてから続けようとする。しかし、


「サナトスって言うんだけど……」

「おいっ!」


 親父はまたも母さんにセリフを奪われ、強めに出ようとしたようだが、


「どうかした?」

「いえ何も」


 完全に尻に敷かれている。母さんは笑顔プラス一言で自分の夫に勝てるようだ。


「それで、そのサナトスっていうのを俺が使うの?」


 なるほど、だから二刀流かと勝手に納得していた俺に、母さんは困ったような顔をして、


「それが……、神界の方に置いてきちゃったのよねぇ」

「マジですかーー!?」


 親父がわかりやすくズッコケる。


「だから、神界まで取りに行ってくれないかなぁ、と思って」


 母さんにそう言われると、俺も断りづらい。というか、断ったら母さんがどう責めてくるのかわからないのが怖い。


「わかった、取りに行くよ」


 すると、母さんは本当に笑顔になり、目からの圧は消える。


「ありがとう、龍」

「どうせなら、雅ちゃんも連れて行ったらどうだ? なんかあったときに戦力になるぞ?」


 と、思いついたように親父が言うので、


「確かに、アイツなら心配いらなそうだな……。でも、セラはどうするんだ?」


 俺がそう言うと、二人はうーんという顔をする。


「そうねぇ……。あなた、彼とは話つけてあるの?」

「いや、勝手に連れてきちゃったもんだからな、あいつも混乱してると思う」


 ……彼? あいつ? きっと同一人物なのだろうが、俺の知らない人が二人の間で飛び交っている。しばらくそうして話すこと5分弱。結論が出たらしい。


「セラちゃんは連れて行け。んで、とりあえず王都まで行ってくれ」

「サナトスはスプレード領の神殿にあるわ、来週のゴールデンウィークに行ってきなさい」

「は、はい!」


 またもや知らない単語を、二人からぶつけられ、勢いで返答してしまうが、それはそのときに聞くとしよう。


 ……ミヤとセラには早めに言っておいた方がいいな。と、俺がそんなことを考えているとき、ふと親父が思い出したように言う。


「一応、研修ってとこだ。しっかりやれよ、

「わかったよ」


 言われなくても、と心の中ではやる気に満ち溢れていた。


***

収納リクエイヴ……

高ランクの魔法。個人の持つ別空間に物を収納、取り出しをすることができる。

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