1-07 会長戦!


 さて、夜が明けて気持ちのいい朝日が俺を照らす。昨日はよく眠れた。そして今日は会長選当日、決戦の金曜日といきたいところだ。


「アイタタタ……」


 しかし、昨日の二回転斬りのせいで動くたびに腰がビキビキと音を立て、脚は無理に捻ったために起きた瞬間からこむら返り寸前だ。だが、これはわかりきっていた事である。それでも、さすがに、ここまでとは。


「キツい……」


 とはいえ、投票も開票も今日の内に行われるのだ。筋肉痛なぞに構っていられないし、その場に居ないのはマズイ。とりあえず、女中さんに松葉杖を借りると、なんとか歩くことができた。


「おはよう〜、ってどうしたの!?」


 ミヤの目を覚ますのに俺の姿は十分だったらしい。しかし、俺の姿を見ると同時に心配そうに飛び寄ってくる。


「まあ、昨日の夜な……」


 全て話し終えると、ミヤは少し喜んだ後で、より一層心配そうな顔をする。


「もう、無理しちゃダメだよ」


 ……お前の重量も割と脚にキテるんだがな。

 そう言いたいのをグッと堪えて「へいへい」とだけ返す。正直なところ、満身創痍だ。本当は何もしたくない。


 ▽


 なんとか学校までは来ることができた。俺の歩みに合わせてくれたミヤとセラに感謝。


 昇降口を通ると、すぐ目の前に投票所があり、仕切られた記入スペースと銀色の投票箱がある。生徒達は皆、本当の選挙と同じように、名前を書いた紙を投票箱に入れていく。


「ところで、上本は昨日何を言ったんだ?」


 俺がぶっ倒れた後で演説があったはずだ。周りの声に聞き耳を立てると、なんとなく上本支持派が多いような気がする。

 ミヤは知らないらしいし、ショウは少し話しにくいだろう。そう思ってセラに聞いてみると、


「制服を選択制にする! とか言っていた気がしますけど……」

「……その制服の絵とかは見たのか?」


 するとセラは首を横に振って、


「いえ、原案は後で公表する、と」

 と言う。


 俺はミヤと顔を見合わせる。

 ……皇徳の女子全員に身の危険が迫っている気がする。いや、これは確信だ。皇徳高校が危ない。だが、俺たちには何もできない。

 上本のことを周りに言えば、ネガティブキャンペーンだと言われて、選挙違反で失格になりかねないからだ。俺とミヤだけが、上本の票が多くならないことを必死に祈る中、投票時間が刻々と過ぎていく。


[ゴーン、ゴーン……]


 入学からもう一週間。ほとんどの生徒が聞き慣れたであろう鐘の音で昼休みが始まり、投票結果の開示が放送だけで伝えられる。俺は上本が当選しないことだけを願う。きっとミヤも同じ事を思っているはずだ。

 スピーカーの準備音が流れ始め、学校全体が静寂に包まれた。


[当選、上本英太君です]


 放送部の端的な文章に俺は絶句した。悪夢が現実になってしまった。夢ならば覚めろ。上本を選んだのであろう生徒がワーワーと騒ぎ、その中心で上本が胴上げされようとしたその時、その放送は思わぬ方向へ続いた。


[それでは、投票の内訳を、えっ、あ! すみません、少し失礼します]


 そう言ったかと思うと、スピーカーから、ジーという音が消えた。そして、また教室がザワつき出す。その中で、上本陣営には不穏な空気が流れている。

 たった20秒ほどの長い沈黙の後に、放送が再開された。


[申し訳ありません。上本君ですが、公約にありました制服案がモラル的に良くないという報告がありました。そのため、失格となります]


 えぇーーー、という雄どもの声が全クラスからフォルテシモで響く。そして、


[繰り上げ当選は、徳川雅さんです]


 先程よりも少数だが、何人かがどっと湧く。もちろん俺も嬉しいのだが、

 ……誰が言ったんだ?


[それでは、投票の内訳を……]


 そのとき、俺の視線は廊下を駆け抜ける一人の男子生徒の姿をとらえた。右手でピースを作り、走りながら笑顔で確かに俺を見ていた。それは見紛えるはずもなく、上本の推薦人の見神翔であった。

 イケメンも大変なんだなあと他人事のように思いつつ、これには感謝してもしきれない。しかし、これをミヤに言えば相当怒るだろうし、上本は変なところで鼻が効く。この事は誰にも言わないでおこうと自分の内側にしまった。と、その時だった。


[あー、あー、聞こえますか!]


「ミヤ!?」


 突然スピーカーからミヤの声が響き、ざわめきが収まる。


[単刀直入に言います。本当に私でいいのでしょうか! 私はただの繰り上げ当選。そして、内訳を見るとが上本君に投票しているではないですか!]


「ミヤ……」


 当選は当選だ。しかし、これほどまでに大差をつけられていた事実。そして繰り上げ当選などというのは、納得がいかないのだろう。


[私は、再選挙を要求します。以上です]


 スピーカーの音が乱暴に切られ、少しずつざわめきが大きくなる。騒々しい。みんな混乱している。しかし、全員の思っている事が、その顔を見ればわかる。「なんて素晴らしい人間なのか」「かっこ良すぎる」「彼女こそ会長にふさわしい」俺にはそう言っているように見えた。

 ミヤには人を惹きつける力がある。やっぱり高嶺の花だ。俺の手には到底届か……。


「何考えてんだよ……」


 とうの昔に心の奥底にしまったはずの気持ちが揺れて、もう一度燃え上がろうとしている。俺は胸に手を当て、それを沈めるようにゆっくりと深呼吸をする。


「すぅーっ、はぁー……。俺は幼馴染、恋愛なんてクソ食らえだ」




 放課後に再選挙が行われ、結果は生徒5分の4の票を獲得したミヤの圧勝。そんなこんなで、生徒会長選挙は幕を閉じた。

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