1-03 神界と、王女と


 まずは一旦状況を整理しよう。俺が連れて帰ってきたのは神界の王女セラ様。そして、俺の母親は邪神だそうだ。だめだ、整理できてるようでできてない。ミヤも同じく、これは初耳だったようだ。


「えっと、母さん……。ちょっと邪神の事について教えてくれる?」

「わかったわ。それじゃあ、まずは神界の事からね」


 母さんはうなずき、ゆっくりと話し始めた。


「まず、神界のシステムは日本とそう変わらないわ。むしろ、神界の方が日本に寄せたといってもいいわね」

「ふふん、あたしのご先祖様のおかげよ?」

「はいはい」


 自慢げに言うミヤの事は軽く流して、母さんに話を続けてもらう。


「神界にも、法律はあるわ。日本の法律を基にした物で、重要なのは三つ。一つは『平和主義』これは日本のものとはあまり変わらないわ」


 衛兵さんにはもう会った? という母さんの質問に俺もミヤもうなずく。


「彼らは日本で言う警察みたいなものね。特に、害意のある魔法の発動には敏感よ」


 俺もミヤも納得する。確かに、魔法が発動されてから衛兵が飛んで来るまでの時間は短かった。


「次に、『基本的人権の尊重』。これは完全に日本と同じ」


 母さんが三本目の指を立てる。


「そして最後に『五神集権ごしんしゅうけん』。これは少し詳しく説明するわね」


 字面だけで考えると、そのゴシンというものに権利が集められているのだとわかるが。

 ゴシンってなんだ……?


「五神というのは、神界にある五つの領地を治める神の代表ってところかしらね」

「リュウさん達がいらっしゃっていたのは中枢の『王都おうと』ですね。王城おうじょうが見えたと思います」


 なるほど、セラの言う通り、遠くの方にデカい城があった気がする。そう考えると、やはり神界は広いのだとわかる。まあ、一つの世界なのだから、広いのは当たり前か。


「五神にはそれぞれ役割があってね、セラちゃんのお父さんである神王は政治専門みたいにね」

「それじゃあ、邪神の役割は……」


 邪神というぐらいだ。何か後ろ暗い役割でも負っているのではないか。


「人の寿命を見るお仕事ね。この制服を着て基本的にはデスクワークよ」


 母さんが指をパチンと鳴らすと、その服装は紫紺のローブに早変わり。邪神がデスクワークするのか……。


「はぁー……。でも、それってエンマ様のお仕事では?」


 俺の純粋な疑問に、母さんは笑って首を横に振る。


「あれは、どちらかというと魔界に近いかしら。それに、エンマ様は死人を捌くだけで、寿はできないわ」


 なるほど……。いや、待て。何か恐ろしい事を聞いたような気がする。


「寿命の……コントロール?」


 ジッと母さんを見ると、一瞬目が泳いだ。


「いやね、そんな顔で見ないで。私はそんな物騒な事してないわよ」

「本当に……?」


 再びジッと見ると、母さんは観念したようにスラスラと話し始める。


「わかったわよ……。私が邪神だった頃、人間界でちょっとオイタした人はぁ、死神さんに頼んで、10年ぐらい? 縮めてもらったことはあるけどねぇ、ウフフ……思い出しただけでもゾクゾクしちゃう」


 ウチの母親にサイコ属性が追加されてしまった。本当に怒らせないようにしよう。


「ありがとう、母さん」

「いいのよ。興味を持ってくれただけでも嬉しいわぁ」


 さて、邪神の話はこれぐらいにして、次はセラをどうするか問題だ。


「ウチに泊まって行ったら?」


 母さんがそう言った。いやいや、あなたは何を考えているんですか。健全な男子高校生がいる家ですよ。いや、何もしないけども、もし、万が一のことがあるかもしれない事はなくは無いじゃないですか。何もするつもりは無いけれど。

 俺が反論するその前に、異議を唱えた者がいる。


「ダメだよ。襲われるから」

「誰にだよっ!」


 ミヤのその突拍子も無い発言に反応したのは俺だけだった。あれ、社会的に死んだのかな? そう思った矢先、ミヤが指差したのは俺ではなく、さらに奥で気配を消していた親父だった。


「どういうことかしら? 雅ちゃん?」

「ミヤ。その話、詳しく」


「あれは、何年か前の今日。あたしは誕生日会の後で、ここに泊まることになったの」


 ミヤは急に語り部モードになった。


「あたしがベッドで寝ていると、急に誰かが入ってきたの」


 ああ、俺が中二病で「ソファで寝てやるよ」とか言ってた時か。恥ずかしいっ!


「叫ぼうとしたわ。でも、口を塞がれて、『静かにしろ』って……。その後は……」


 ミヤは俯き、崩れ落ちて泣き始めた。そこで、初めて親父が声を発した。


「雅ちゃん、世の中にはついていい嘘とダメな嘘があるんだよ」

「じゃあ、弁明してくれる?」


 そう言う母さんのその左手では雷の塊のようなモノがバチバチと音を立てている。


「雅ちゃん、嘘だって言ってくれないか?」

「えーっとぉ……。問答無用?」

自主規制バキューンっ!」

「はあぎゃあわあおおおおおぉおお!」


 ミヤの一言が引き金となり、母さんの左手から打ち出された雷と口から放たれた炎は容赦なく親父を焼いた。


 ◇


「ふーっ、楽しかった!」

「ミヤビさん、なかなかひどい事をされますね……」


 結局、セラは雅の家に居候するということになった。今はセラに家の中を案内している途中だ。


 ……それにしても、デカい。


 話しながら歩いていると、ついつい隣の揺れるメロンパンに目がいってしまう。ミヤビもそこそこある方だと思っていた。しかし、女子の目から見てもこれは魅力的である。ミヤの予想では、E、もしくはFだと見ている。


 ……どうか、リュウが巨乳好きじゃありませんように。


 ミヤビは、最後に案内した大浴場で、敵のステータスを確認することにした。



[カポーン…………]



「ブクブクブク……」


 ミヤビは鼻まで湯船に浸かりながら、目の前のキングサイズのメロンパンをジッと睨んでいた。下着のサイズに関しては、神界の方でも表記は同じらしい。ミヤビは、チラッとセラの物を確認していた。


 まさか、Gとは……。


 そう考えていると、ついつい手が伸びてしまう。モニュモニュ、パフンッ。


「あのー、ミヤビさん?」

「あ、ごめん、つい」

「ついって何ですか、ついって。そんなにですよ?」


 その刹那、ミヤのスイッチが完全に入った。


「ほう、そなた、それがいい物じゃ無いと申すか……」

「は、はい!?」

「成敗してくれるっ!」

「いやぁあっ!」


 ミヤビはひたすらに、一心不乱に、敵の全てを知るべくただただ夢中になって揉みしだいた。


「ふーっ……」


 セラが解放されたのは、しばらくしてからのこと。


「はあ、はあ、はあ……。ミヤビさん?」

「どしたの? セラ? もっとして欲しい?」


 ミヤビのその余裕はそこまでだった。


って知ってますか?」

「へ?」


 ザパァッと波音を立ててセラがミヤビに襲いかかった。プルンッ。


「ひにゃああっ!」


 ミヤビは攻めに関してはめっぽう強い。しかし、守りは完全にである。攻撃特化のミヤビには、なす術もなかった。


 ◇


「龍……。神界はどうだった?」

「なんか、ガレアっていう果物が美味かった」

「確かに、あれは美味いよな」


 母さんは風呂で、静かな部屋に今は男二人。


「雅ちゃんとセラちゃんは、今ごろキャッキャウフフしてるんだろうな……」

「どうせ変な妄想してんだろ。また痛い目見るぞ?」

「だいじょーぶだよ。怜は優しいから」

「基本的にはね……」


 ◇


 風呂から上がり、二人はミヤビの部屋にいた。


「あーっ、もう……。お風呂なのに疲れちゃったよ」

「ごめんなさい」


 セラは、さっきまでの態度とは打って変わって、シュンとしている。


「そんなに謝ることないよ。どっちかというとあたしが原因だし……どうかした?」


 その様子に何かを感じ取ってミヤビが聞くと、絞り出すようにセラは言った。


「……とても楽しかったんです。今までこんな事なくて」

「……!」


 幼い頃のミヤビと同じだ。きっと彼女も、守られて、いろいろな物を止められて、過ごしてきたのだろう。


「あなたが羨ましい。普通に接して下さる方々がいて。友達がいて。私には一人しかいなかった」

「あたしも、最初は一人だった。でも、リュウが歩み寄ってくれた」



 ーーそれは、幼い頃の記憶。突然家の庭に入ってきた同い年ぐらいの男の子。その子はあたしを見つけると、笑って四つ葉のクローバーをくれた。


「しあわせにする!」


 そのクローバーは押し花にして、いつも大切に身につけている。

 多分、「しあわせになるよ」みたいな事を言いたかったのだろう。でも、その言葉を真に受けて、今のあたしはここにいるーー



「大丈夫。セラにもたくさんできるよ! ほら、あたしとリュウは、もう友達でしょ?」

「ありがとう、ございます……」


 まだ堅いセラに、ミヤビは意地悪く言う。


「セラ。あなたは友達に敬語を使うの?」

「いいえ……。ううん、ありがとう、ミヤビさん」


 笑って言ったセラにミヤビは笑い返した。いい夢が、見られますように。

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