0-day3 長い一日


 三日目、昨日はよく眠れたが、起きることに関して、それとこれとは別らしい。あの夢は見なかったものの、いつものビンタで起こされた。もはやこの生活リズムが染み付いてしまいそうで怖い。またミヤを少し怒らせてから登校、遅刻ギリギリで正門を通る。そのまま流れで一時間目の授業を終え、くるっと体を反転させた。


「さて、エロ太様?」

「その名はやめろっ!」


 ダン、と机が鳴って教室から音が消える。しかし、それも一瞬のこと。


「ごめん、寝起き!」


 上本がそう言うと、少しの笑い声に続いて教室の音が戻ってくる。


「……えーと、上本君」

「なんでございましょう?」

「今のはどういうことかね?」

「なんでございましょう?」


 だめだ。完全にシラを切るつもりだ。どうしても中学の頃の名前を引き継ぎたくないらしい。まあ、どうせいつかボロが出るんだろうけど。


「わかった。手短に用件から話そう」

「なんでございやしょう、旦那?」


 自分から話題が逸れた途端に調子を良くして、またゴマスリを始める。


「俺はこの生活を壊されないためにどうすればいいか」


 そう尋ねると、上本の手元で電卓がテンポ良くカタカタ鳴る音が聞こえた。本人曰く、この行為に特に意味はないらしい。

 これは上本の副業といっていいだろう。中学の頃からの情報屋で、誰と誰が何だ、何した、といった情報を誰よりも早く仕入れてそれを売り物にしている。また、それに基づいた的中率ほぼ100%の占いも人気だった。


「では旦那、5千円でいかがでしょう」

「うっ……高いな相変わらず」


 しかしながら、少々値が張ってしまうのは普通の中高生にとっては痛い。不満声を聞いて苦笑いする上本に、俺は昨日の諭吉さんを財布から取り出そうとした。


「しゃーない、今回はタダでええよ」

「え……本当に?」

「ええんやで」


 なぜか関西弁で喋る上本はドヤ顔でグッと親指を立ててこちらに突き出してくる。しかし、理由がわからない俺は好奇心をくすぐられる。


「タダなのは嬉しいんだけど……なんで?」

「それはまた別途料金やけど」

「そんな!」


 ますます怪しい。しかし、人生そんな甘くないで、と笑って言う上本の表情に嘘は見えなかった。


「さて、本題だ」


 ひとしきり笑い終えて、上本は少しだけ神妙な顔で俺を見据える。どうしても、この瞬間だけは異様に緊張する。


「小田にミヤっちを会わせると良い」

「………………………!!」


 絶句した。どうしてそんな簡単な方法を思いつかなかったのだろう。なんて馬鹿なんだろうか。そんな簡単なことのために、みすみす何千円を使おうとしていた自分にだんだん腹が立ってくる。しかし、それと同時にホッとする。


「本当にありがとう、上本」

「いやいや、相談に乗るのは友人のつとめだろう?」

「友人の相談で金を取ろうとする高校生がどこにいるんだよ」

「ココ」


 上本は自分を人差し指で指してまた笑う。おかげで体が少し軽くなった。本当に楽しい奴だ。


「さてと。じゃ、次のお客さんに席を譲るな」

「え?」


 上本が視線を送った先、俺の後ろには長蛇の列ができていた。教室を見渡すと、座っているのは数人だけだ。


「マジかよ……」


 ……本当に楽しい奴だ。


 ▽


 昼休み、俺と上本は昼食後のダルーい時間を過ごしていた。俺たちが今、ふかふかのイスでくつろいでいるここは学食だ。

 出てくる料理のバリエーションはもちろん豊富で、庶民の舌にはもったいない美味さだ。だが、なによりも、学校関係者全員が無料というのが一番の人気の理由だろう。


「行くのか?」

「おう」


 何気なく時計を見て立ち上がった俺に視線を送り、上本はつぶやいた。


「頑張れ、な」

「おう」


 食堂をゆっくり出ると、廊下からは早足になる。上本の情報によれば、入学してから小田は昼休みに必ず図書室を利用しているらしい。ただ、この時間にいるのかどうかは俺の運次第ということだ。


「でっ……か……」


 その扉はまさに魔王城の扉、一階から三階までそびえ立つただの図書室の扉にどうでもいい覚悟を決めて、俺は一歩踏み出した。


[ウイィーーーーン]


 上下の対物センサーに反応して、その扉は真ん中から二つに自動で分かれた。


「ハイテクかっ!」


 思わずツッコんでしまい、中にいた図書館司書に睨まれる。そのスキンヘッドと左目の傷は、明らかに司書の風貌ではない。しかし、胸の所に付いた名札には明らかに「司書/鬼裂おにざき」と書いてある。絶対強いやん……。


 それはそうとして、この図書室はどうなっているのか。三階建ての一番上まで本、本、本。それもバリエーション豊富で、ざっとみた限りでも新聞、マンガ、雑誌、そして奥の方には、丸に18と斜線の書かれた黒い幕で仕切られた……R18コーナー!? 何を作ってるんだミヤのじいちゃんは。


 さて、本題に戻ろう。全体が見渡せればいいのだが、自分の背よりも高い本棚がいくつも並び、他の人の姿は直接会わなければ見えない。それ以前に、図書室自体がやけに広い。昼休み中に探すなんてとてもーー


「やっ、小田くん☆」

「なんだ、君か」


 小田は図書室中央の卓の一つに座っていた。それも、よくわからない見た目チャラ男と一緒に。少し様子を見てみよう。


「何してんの?」

「いつも通りだよ。君こそ、まだやっているのか?」

「もちろん! 気づかれずに入るのはどうも難しいね」


 そう言いながら、チャラ男は黒い幕の向こうに目を向ける。……マジで何やってんだこいつ。というかあのコーナー需要あったのか。


「それと、変な虫が君についてるようだからねっ☆」


 完全に目があってしまった。目をそらして横目で見ると、ウインクで返された。


「それじゃ、ボクはここで失礼するよ。アディオス☆」


 そう言って黒幕の方へ歩いて行った彼の後ろ姿を見ながら、俺は自然を装って小田の前の椅子に座る。


「やあ小田くん、偶然だね?」

「何が偶然だ、お前が虫だろう」

「あはは……」


 バレバレである。しかし、目的さえ達成できれば、過程はそれほど問題ではない。


「誤解を解いてもらいたいんだけど」

「またそれか……どうせ」


 言わせない。


「雅様と話してくれないか?」

「ーーっ!」


 俺には、小田が息を飲む音がはっきりと聞こえた。餌にはしっかり食いついてくれたようだ。


「話はつけてあるからさ、頼むよ」

「いや、しかし……」


 小田が長考する。ここまでは順調、だがーー今すぐ話そうと言われれば、詰みだ。

 ミヤには後援会のことはまだ話していないし、どうやら本人も知らないらしい。もちろん話をつけているというのはウソである。


「…………よし」


 小田が小さくそう呟いて、次に続けた言葉は


「今から話したい。雅様を呼んでくれ」


 わずか三手……詰んだ。

 さて、どうしたものか。電話でもしようものならまた吠えられるに決まっている。これはたまたまミヤがここに来るのを祈るしかないか……と、そのとき


「あ、リュウ見っけ!」


 女神が降臨した。これからはマジでミヤビ様と呼ばせてもらおうか。



 ーー数分前。

 ミヤビもまた、食堂に来ていた。

 サキとの昼食を終えた後、少し辺りを見回してみる。すると、数え切れないほどの男子生徒と目が合った。身の毛がよだつ思いをしながら、目当ての人を探す。


「あれは……」


 一ヶ所、やけに女子が密集しているスペースがある。そして、その周りには男子生徒が全くいない。何かそこに近づいてはいけないものがあるかのように。


 ミヤビはそこを目指して食堂を歩いていく。視線が痛い。


「ちょっと、中の人に話があるんだけど」


 密集していた女子全員が同時に振り向く。ここまで統率されていると、仲が良いのかと思われるだろうが、それは違う。全員が常にお互いを牽制し合っているだけで、裏ではいつ蹴落としてやろうかと火花を散らしている。


「開けてもらえるかい?」


 中心の方からキザな声が聞こえると、女子たちは驚いたような不満そうな顔をしながらミヤビの前を開けた。そこにいたのは、できることなら話したくなかった相手。


「やあ、ミヤビちゃん。何か用かな?」

「そういうこと言いながら、ある程度はわかってるんでしょ?」

「ははは、キミは上手だなぁ」


 イケメンの皮を被った狸だ、とミヤビは思う。ミカミはどこか、ミヤビやリュウの事を監視しているような、もはやストーカーではないかお思わせる節がある。知っているはずだ。


「リュウはどこ?」


 出来る限り目を見て、強く。そんなミヤビを見て、ミカミは笑った。


「どうしてそんなことを聞くのかな?」


 ミヤビは努めてポーカーフェイスを貫いた。言えない。言えるわけがない。ただ顔が見たくなったなどと。もう一度問う。


「リュウは、どこ?」

「さて、何のことやら?」


 シラを切るつもりならと、ミヤビは胸ポケットからレコーダーを取り出す。


「ここに入ってるのはアンタのキザったらしい告白音声よ。全校生徒にばら撒いてやるけど、いい?」


 見せただけではそのクサい笑顔を崩さなかったミカミの顔が青ざめ、頬が引きつっていく。


「リュウは図書館に向かいました。早く行ってください。お願いします」

「ありがと」


 このままだと、勝手に土下座でもされてしまいそうだったので、ありがたく受け取って退くことにした。別に可哀想とかそういう訳ではない。ミヤビは足早に食堂を出て行った。



 ーーーーそして、今に至る。


「……さて会長、役者は揃ったぜ」


 しかし、目の前の小田は口をパクパクと動かすだけで、まるで声を失ってしまったかのようだった。


「ねえ、何の話?」


 流れるように空いていた隣の席に座ったミヤは、俺と小田とを交互に見ながら聞いてくる。


「俺とミヤが付き合ってるように見えるんだと」

「えぇっ!」


 ミヤは驚くような声をあげ、なぜか赤面してそっぽを向いてしまった。小田はというと、俺が「ミヤ」と言ったのにも反応できないほどやられてしまっているらしい。


「おーい、会長さん?」

「…………はっ! はあ、危ない。死ぬかと思った」


 どうやら、呼吸をしていなかったみたいだ。生き延びてくれてよかった。


「それじゃあ、いいか? 会長」

「ちょっと待ってくれ。雅様にこちらを向かないようにしていただけると……」


 なんて面倒臭いんだ。しかし、このままでは話しを始めることすらできなくなりそうだ。


「だってさ?」

「えー、慣れてよ」


 小田にとっては神であろうミヤの不満げな声を聞いても目を合わせることはできないらしく、まだ拒否している。


「いや、しかし。それは……」

「見なさい」

「はい、わかりました」


 ミヤの命令形にすぐさまこちらを向き、完全に真顔になった。先程までの驚愕の色は一切見えない。


「それじゃあ、ミヤビ様からどーぞ」

「はいはい、弁解ね」


 気怠そうに、だがしっかりと小田の目を見てこう言った。


「あたしとリュウは付き合っていません。……まだ」


 最後の方に何か小声でブツブツ言ったような気がするが、これで小田も納得してくれるはずだ。そんな俺の思考を吹き飛ばすように、小田は質問を返した。


「では、なぜいつも行動を共に?」

 ……は?

「そんなに一緒にいたか?」

「朝も二人で登校してるじゃないですか」

「えー……」


「付き合う」の基準ってこんなに厳しかったっけ? 彼女がいたことのない俺にはわからないし、横のミヤも首を傾げて悩んでいる。


「では質問を変えます。なぜそれほど親しく?」


 ……うーん。こういうやつに対して「幼馴染」なんてワードを使うのは愚策だろうしなぁ。俺が返答に困っていると、ミヤのフォローが入った。


「えーっと、あのね、家がたまたま近くて、それで、その……ボディガードみたいな?」


 たどたどしいフォローだが、悪くない。幼馴染というワードを出さない上、自分は既に守られているという後援会に対しての牽制も加えられている。ミヤは少し不安そうににこちらを見てくるので、笑って軽く頷いてやる。しかし、小田は不敵な笑みを浮かべ、


「それぐらいならば、我々の力では足りないでしょうか?」


 小田がそう言うや、後ろの本棚の両脇から二つの巨体が覗く。


「お、お前らは……」


 昨日、羽交い締めにされたり2対1のスクラムを組まされたりした190cm級の巨漢達だ。


「僕は昔から人に何かと誤解されやすい体質らしいんだ。彼らは昔から僕のボディガードのようなものをしてくれていたんだ。でも、もう必要ないのかもしれない」

「……なるほど。それはいいんだけど、俺にどうしろと?」


 聞き返すと、俺を見下すような目で一言。


「彼らと戦って下さい。どちらが雅様を守るに相応しいのか」


[ゴーン、ゴーン、ゴーン……]


 予鈴が鳴り響き、生徒が続々と図書室から出て行く中、俺は呟いた。


「めんどくせぇ……」


 ▽


 放課後、俺たちはグラウンドにいた。既に空は赤く染まり、もうすぐ日が沈みそうだ。部活が始まっているわけでもないのにグラウンドにいられるのは、理事長の孫の権限を持ってしてである。


「さて、やりますか」


 入念にストレッチを終えて、相手の二人を見やる。


「本当に2対1でいいのか?」


 俺から見て右の方が憐むような目で聞いてくる。


「ああ、お互い普段通りの方が楽だろ?」

 それに、

「二人じゃ少ないぐらいだ」


 少し挑発してみると、二人の目の色が変わった。それを俺の隣で見ているミヤは呆れたように聞いてくる。


「リュウ、本当に大丈夫なの?」

「わかんね。とりあえずなんとかなるって」


 そう返すと、はぁ、というため息の後に呆れたような返事が返ってくる。


「どこからそんな自信が湧いてくるんだか……」

「アハハ……。まあ、心配するな」

「そこ! イチャイチャするな!」

「してねーわ!」


 頭の上に手を置こうとしたのが小田の怒りに触れたらしく、ミヤへの当たりも少しだけキツい。俺が反論の声を上げると同時に、ミヤが小田をキッと睨むと、小田は少し萎縮してしまった。まさにヘビに睨まれたネズミというところだろうか。


「え、えー、ルールを確認します」


 時間は二人の動き出しから5分間。相手二人のどちらかがミヤにタッチすれば、俺の負け。俺がミヤに触らせない、もしくは行動不能、ギブアップにすれば俺の勝ちだ。これだけ聞けば、明らかに俺に不利なルールである。


「大事にはならないようにお願いします」


 小田の言葉使いが元に戻ったところで、俺は集中する、いや、集中しようとした。


「いくぞやまちゃん」

「おうよがんちゃん」

「ブフッ!」


 見た目に似合わない呼び名に思わず吹き出してしまった(以下:山・岩)。開始の瞬間、二人は俺の方に突っ込んでくると、途中で左右に分かれる。

 ミヤは俺の後ろ、3mぐらい離れたところにいる。確認したところで約3秒。


 ……どっちだ。


 そのまま突っ込んでくるのか、片方は囮なのか。考えてさらに1秒。

 一度瞬きすると、目の前には二つの拳が迫ってきていた。


 ……前者。


「ふうっ!」


 俺は強く息を吐きながら、しゃがんでそれを交わし、そのまま手を地面につける。避けられたことに驚いているのか、二人とも目を丸くしているが、彼らもその後の判断が速い。握った拳を開いて、今度はミヤへのタッチに切り替えた。だが、


「俺の方が速い」


 手を地面につけ、それを軸にして円を描くように回転蹴り。左のヤツのふくらはぎ、右のスネと順番に6割ほどの力を込めて、右足で軽く弾く。


「「うおっ!」」


 間抜けな声を出して二人が倒れる。すぐに立ち上がろうとするが、足が上がってこない。


「無理だよ、人間の耐えられるギリギリを叩いてるんだから」


 俺はよく、姉さんの練習相手をさせられていた。そのときに同じことをされたので、骨にヒビが入るギリギリ、筋肉が切れるギリギリを狙うことだけは、俺の得意技である。もちろん、一時的に激痛が走るだけであって、今後の生活に支障が出るわけではない。俺とミヤが倒れている二人から少し離れて、そのまま1分が経った。


「くそっ!」

「ほらほら、まだ4分もあるよ? ヘイ、カモン!」


 来いよ、と大きくジェスチャーするが、岩ちゃん山ちゃんの足は動かない。それはそうだ、一度あの激痛を知れば、普通は戦意喪失する。しかし、この二人は違うとどこかで感じていた。そしてやはり、その予感は当たった。


 山が動く。さっきよりも近い距離なのに、トップスピードに入るのが速い。

 正面突破。確かに、誰かを守っている相手には有効な手だろう。体格差的にも、勝てると踏んだようだ。


「でも、まだ甘いなあ」


 突っ込んでくる山が当たる直前、俺は大きく飛んだ。そもそもは、俺を掴む気だったのだから腕が一瞬上がる。腕をかわし、逆にその腕を掴んで、ダッシュの勢いを利用する。


「よいしょーーっ!」


 山が宙を舞った。途中で手を離し、ギリギリ受け身が取れる速度まで回転を落とす。落下地点で大きく砂煙が上がった。まずは一人ダウンだ。


「さて次はっと」


 後ろを見ると、ミヤが岩から逃げているのが見えた。


「ちょっとリュウ! 早くしてよ!」


 ……そのまま5分逃げ切れそうだ。ミヤは器用に方向転換を繰り返し、案外小回りの効く岩から逃げ回っていた。なるほど、山が俺にかまっている間に岩の方がミヤにタッチする算段だったらしい。

 遠くの方で見ている小田に視線を移すと、顎が外れそうなくらいに口を開けて、ありえないという表情をしている。


「仕方ないなあ」


 ミヤは全速力で、こちらに向かって走ってきている。その後ろにはしっかりと岩が。正面衝突は避けたい。マジで死ぬ。それでも、俺は走らなければならない。


「うおおおおっ!」

「何してるのよ!」


 俺は全力でミヤの方に向かって走り出した。眼前に迫るミヤと岩。その恐怖に耐えながらタイミングを測る。ミヤは俺のその表情から何かを察したようにコクッと頷いた。


「ミヤ! 跳べっ!」

「はいっ!」


 ミヤが思い切りジャンプした。慣性的にフワッと浮くスカートを押さえながら。

 俺と岩の真ん中には浮いているミヤ。スピード勝負だ!


「おおおおおっ!」


 岩ちゃんが吠えた。飛びついてくるその手よりも早く手を伸ばし、華奢な腰を抱き抱える。そして、ミヤが俺に体を預けたその瞬間、90度ターンで、一気に岩を振り切った。


[ピピピピッ、ピピピピッ]


 その時、5分を知らせるタイマーが鳴った。そして、俺は足を止めてその場に座り込んだ。


「はー、疲れたー」

「3分間逃げ切ったあたしよりも?」


 物理的に上から目線で、ミヤは皮肉たっぷりにそう言った。


「ごめんミヤ。無理させて」

「べ、別にいいけど……」


 そのテンプレ的ツンデレはどこに需要があるんだ。

 さて、小田はというと、完全に真っ白になっている。灰になって今にも飛んでいきそうだ。


「あれ?」


 突然、俺のいる場所が影になった。振り返ると、先ほど倒した山ちゃんと岩ちゃんが立っていた。


「ひっ!」「ひゃあっ!」


 俺もミヤも思わず悲鳴を上げて飛び退る。なんてタフなんだ。しかし、二人が襲いかかってくることはなかった。


「大丈夫だ、何もしない」

「少し、用があるだけだ」


 そう言って近づいてくる二人に害意は見えない、がしかし、俺たちを見るその目はどこか輝いて見える。その表情に、俺もミヤも身震いする。そして、のっそりと山ちゃんの方が前に進み出て言った。


「我々にご教授願えないだろうか。海崎殿」


 二人が頭を下げると、俺もミヤも拍子抜けする。予想外の言葉に、二人で一度顔を見合わせてから言葉を返した。


「それじゃあ、教える代わりに二つぐらいお願いしてもいいか?」


 すると、それが聞こえたのか、今まで固まっていた小田が飛んできた。


「ダメだ! 絶対に!」


 と言われ、二人がシュンとなる。しかし、今回はこちらに分がある。


「それが嫌なら、ファンクラブ解散してよ。

 リュウが勝ったんだし」


 味方ながらエグいこと言うな、コイツ……。

 ミヤにそう言われると、さすがに小田も返す言葉が無いらしく、「わかりました」とうなだれる。それとは対照的に、二人の方は顔が明るくなる。


「じゃあ俺から二つ、と言いたいところなんだが、明日でいいか? ……ミヤビ様のためにも」


 最後に付け足したのは、ミヤがあくびしているのが目に入ったからだ。

 小田は「わかった」と言って、あまり落ち着きのない二人と一緒に帰って行った。


「帰ろうか、ミヤ?」

「ふあぁぁい」


 返事なのかよくわからない返事を聞いて、学校を出た。街灯が明かりを灯して、もうすぐ日が落ちる。ミヤを送り届けて、俺も向かいの家に帰る。


「ただいまー」


 いつもより長い一日が終わっていく……。









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