リヴ・アズ・カイザー !!!

尋瀬あつまき

プロローグ


ーーーー目覚めると、真っ白い天井が目に入った。起き上がった直後のベッドは、自分がさっきまで寝ていたとは思えないほど綺麗に整っている。ベッドからゆっくりと足を下ろすと、大きなあくびが出た。


「ふああああ……ん?」


ふと、気配を感じて入り口の方に目を向けると、バン!と勢いよく扉が開かれた。


「ちょっと! いつまで寝てるの!」


ズカズカと入ってきて、近くまで歩み寄ってきた彼女は、寝ぼけてポカンとしている俺の額の前まで自分の右手を持ってきて、中指と親指で輪っかを作った。

そして、ビシィッと俺の寝起きの頭を強い衝撃が襲った。


「あてっ! いきなり何すんだ!」

「良かった、寝ぼけてないみたいね」


嫌味ったらしい口調でそう言う彼女は、デコピンをした中指をフーッと吹いた。


「それじゃあ、早く準備して?」

「……今日ずっとそのテンションかよ」

「は・や・く!」

「へいへい」


まったくウチの彼女さんは。今日の夜はいじめ抜いてやろうなんてしょうもないことを考えながら準備を進めるが、また扉の外から気配が近寄ってくる。


「リュウ! すごいぜ! これ全部お前宛のラブレターだ!」


飛ぶように、否、文字通り飛んで入ってきた俺の親友は手持ちの袋いっぱいに手紙を詰めてきていた。しかし、楽しそうに手紙を撒き散らす彼のテンションは長くは続かなかった。


?」

「はい……」


彼女は笑顔だが目が笑っていない。容赦ないその表情には俺の親友も打つ手なしである。個人的に、手紙を送ってくれることが嬉しくないわけではない。それでも、彼女に一途でいることに変わりはないのだから、別にそこまでしなくてもいいと思う。ただ、また口撃こうげきの矛先が自分に向いてしまうので口に出すことはしないのだが。


そんなこんなで準備が終わってしまった。というか、別にいつも着ている服となんら変わらない。白のシャツに紺のジーンズを合わせ、公式の場だからという理由で制服は上から羽織るだけである。


部屋から出ると、外の喧騒がより厚みを増して聞こえる。廊下に出て、半円形のバルコニーに向かっていくと、俺の姿を見た観衆の声が倍以上に膨らんだ。


観衆の中には、背に羽が生えた者や頭がトカゲのような者もいる。どちらかといえば、人間は少数派のようだ。


俺が手を前に突き出すと、その歓声が一瞬にして止まる。予想以上の気持ち良さに体を少し震わせ、スゥッと息を吸ったーーーー




別に、この話は夢だったとか嘘だとか、そう言うつもりはさらさら無い。かといって、どうせ妄想だ、と言われても別に構わない。


さて、まずは一つだけ問うてみよう。


「あなたは空想の出来事が現実に起こると信じるか?」


 答えは否だ。大抵の人はそう答える。しかし、中にはそんな世界を夢見ている人間もいる。つまりは、中二病と呼ばれる人間のことである。

 実のところ、俺は中学一年生のときに、一年程その病に侵されている。そして、それが完治仕掛けた頃から、約一年の引きこもり生活を送った。理由は、少し前までの自分の行いを忘れたかったから、という所だ。


「引きこもり」というワードだけを聞けば、根暗、オタク、社会不適合者、とかいうイメージを持つ人がほとんどだろうか。


 しかし、俺が引きこもりだった頃は姉が受験期。そういう趣味は無かった俺だが、自分の一時の過ちを忘れるため、格闘技好きな姉のストレス発散のため、専用サンドバッグとなった。

 初めのうちはまだマシだった。背中への軽いビンタに始まり、その手は少しずつ顔に近づいていった。その頃から俺は目覚まし時計の代わりに姉のビンタをくらうようになり、姉の帰宅後は尻にミドルキックをされるというような生活が続いていた。


「あんのクソ野郎が! 何が『公式を覚えれば簡単に解けるだろう』だよ!」


 この日は模試だったらしい。物理教師にお怒りのようだ。


「範囲外してんじゃねーよ!」


 そう言いながらまたしても俺のケツに鍛えて硬くなった脛を飛ばす。

 その頃の俺はというと、摩擦力があるからあなたは暴力を振るえるんですよー、なんて思えるほどに傷は癒えていた。決してそれを言葉にしなかったのは保身のためである。


 だが、俺はいつしか姉に一発かましてやろうと思い、誰にも見つからないように隠れてトレーニングをするようになった。腕立て伏せ、腹筋、背筋、風呂上がりにストレッチもして、柔軟性を高めた。

 そしてある日、俺は姉のミドルキックを受け流すことに成功すると、姉は予想外という顔でそのまま一回転し、無様に体勢を崩して背中から倒れた。一瞬の爽快感、しかしその数秒後にはフルボッコである。

 ただし、その次の日から俺は姉のサンドバッグではなく、スパーリング相手になった。通算結果は、俺の全敗である。


 こうして、自信と体力をつけた俺は、奇跡的に中学へと復帰し、最後の一年を大いに楽しんだのであった。



 思い出話はこれぐらいにして、ここからが本題である。俺は晴れて高校生になった。しかし、その一週間後には俺が思い描いていた「高校生活」というのが崩れ去ってしまう。


 一度でいいから真剣に考えて欲しい。もしもあなたが自分の尊敬する人から頼まれ事をされたら? 断るなんて選択肢は毛頭無いだろう。でもって、まさか自分が嵌められたなんてことは思いもしないだろう。


「生きろ、龍帝カイザーとして」


話だけ聞けば意味がわからない。なんのこっちゃという感じだ。しかし、唐突にそう言われてしまうこともあるのだ。

では、今一度問う。


「あなたは空想の世界を、人外の住む世界を信じるか? そして、その世界を望むのか?」


これは、高校生だった俺がその三年間を通して異世界を治める龍帝となるまでの物語である。





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