第86話 債務不履行
「だから?」
「そして、その契約は今も終わってない」
弘宗が、確認を取るように言った。そして、少し言い淀んでから言った。
「母親とので契約では、どちらかが契約を打ち切ると言わない限り、契約は継続し続きます。契約が残っている以上、あなたたちは働かないと債務不履行になりますよ」
急に強気の発言でねじ込んできた。
「しかし、契約内容とは違う事を急に言われて債務不履行だと言われても、それはなかなか承服しかねますね」
「ふふふ、蛇喰さん。僕は何かもめようとするつもりでこんな事を言っているんじゃないです。また今、この間取り交わした契約書が手元にあるんですがお持ちですか?」
「今?」
「ええ」
「今は無い」
「そうでしたか、後で確認して欲しいのですが、契約書の最後にここに記載の無き事柄に関しては、お互いに誠心誠意を持って話し合うという事が書いてありましたよよね。ご存知ですか?」
「ああ。勿論。こちらの作成した契約書だからね」
「まさに今がその時ではないか?と思うんですがね?」
このキレると頭脳を持っている弘宗が、役員会で売買契約において詰め腹を切らされた事が不思議な気がした。
「一体何をしろというのですか?」
「今回の緊急の役員会で、一番権力を握ったのが副社長だった藤澤毅です。西崎を会長にし、さすがに社長とはいかず、社長代理になりました。そして、僕を常務から解任しました。一番火事場泥棒のような真似をしたのは奴なんです。きっと、何かおかしな事をしているに違いない」
「そんな適当な推測は良くない」
「では蛇喰さんたちがそこまで言うなら、藤澤の素行調査をお願いしたい」
怒りに満ちた声でそう言った。
「素行調査をしたとしても、何も出ないかもしれない」
「ですが、今の彼がハンナリマッタリーの救世主のように振る舞う姿を見ている方が耐えられない。奴の鼻を明かしたいんです」
少し間があった。
「わかりました。だが、電話で全てを決めれる訳ではない。契約書の内容の変更をしなくてはならない。南港の事務所まで来れますか?その時に契約内容変更に伴う西崎美咲さんの委任状を持って来て貰えますか?」
「ありがとうございます!今からそちらに向かうとなると、時間は少しかかりますが大丈夫ですか?」
「ええ。ではお待ちしております」
そう言って電話が切れた。安に折り返し電話をした。
「どうした?」
先程別れたばかりなので、少し驚いたように電話に出た。
「たった今、弘宗から携帯に電話があった」
「弘宗?西崎社長の息子か?」
「ああ」
「どういう話しなんだ?」
「西崎社長のボディガードから、藤澤毅の素行調査をして欲しいという依頼内容の変更だった」
安が少し黙った。
「受けるのか?」
「まだ西崎から、契約終了の連絡はまだ受けていない」
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