第80話 副社長室

この無念さは何だ?

しかし、命をかけて対象者を守って来たのに、突然外されるなんて事があるだろうか。自分たちの仕事の誇りはいとも簡単に吹き飛んでしまった。この契約社会の世の中で、自分たちが失業したことを別の警備会社が配置されて知るなんてあり得る事なのだろうか。


「わかったよ。とりあえず、本社に行って事情を聞くしかないようだな」

安がそう言って、身構えていたポーズを息を吐くかのように解いた。警備員と執事が、やっとわかってもらったと言った風にホッと息を吐いた。安の言葉に頷き踵を返すと、警備員の側を通り過ぎエレベーターに向かった。安が若い警備員の側を通る時、相手の肩を軽く「よくやった」という風に軽くて叩いた。エレベーターに乗り込むと、その場の緊張が解れたのがわかった。エレベーターのドアを閉め駐車場に戻る。


桂川街道を通り、171号線沿いにある本社ビルに向かうまで2人とも無言で押し黙っていた。

屋上にヘリポートが付いた巨大な本社ビルに着いた。1階の受付で、名刺を渡し藤澤に面談をしてもらうように交渉する。

「失礼ですが、アポイントはございますか?」

売れ無いタレントのような顔付きをした受付嬢が訊ねて来た。

「アポイントは無い。西崎社長からボディガードを頼まれていたんだが、今日いつものように嵐山の事務所兼自宅に向かったら警備員が立っていたんだ。一体どういう事かと訊ねたら、本社に向かうように言われたんだ」


「と言われましても、本日藤澤は、緊急の役員会や、その後執行部会の会議等の出席がありまして、非常にスケジュール的にタイトになっています。アポイントが無くては、お通しするのはとても難しいんです」

「緊急の役員会?」

「ええっ。西崎不在のまま会社を運営して行くのは支障がありますから」


隣にいたもう1人の受付嬢は、話に参加すべきかどうかを躊躇しながら見ていた。

「向こうの自宅兼事務所で、西崎社長に面談を求めたんだが、体調不良で出て来てもらえなかったんだ」

「大変心苦しいのですが、西崎は阪神高速で襲われてから、体調を崩しております。その後、蛇喰様がおられた南港の事務所でも何者かに襲われたと聞いております。その事もあって、1番良くないのが蛇喰様とお会いする事は良くない事かと思われます」


受付嬢とのやりとりを安は、聞くとも無しに片方の肘を受付嬢のカウンターに突いて体を預けて聞いていた。その安が発言した。

「俺たちは、どうすればいいんだ?ボディガード業をやるにしてもガードすべき西崎社長はいない。藤澤副社長にも取り次いでもらえなければ、このまま仕事を継続してもいいいかわからないままじゃないか?」

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