新たなる戦い

第77話 待ち合わせ

翌朝、5時半頃、フェアレディZが地面が砂利になっている駐車場に入って来る音が聞こえた。

安が迎えにやって来たのだ。既に目覚めて服を着替えて彼が来るのを待っていた。

玄関先のブザーが鳴った。朝の挨拶をしてながらドアの鍵を開ける。安がそれに手を上げながら「おはよう」と答えた。


「なんだ?ここでまた寝たのか?」

「北加賀屋のマンションに帰るのが邪魔くさくなってね」

「確かにここの辺りは、夜間中はほとんど無人になるので静かで寝やすいだろうけど、その代わり危険もある。この前、ここで襲われたのを忘れたのか?もっと気をつけてくれよな」

その言葉に何も返答が出来ずにただ頷いた。ドアを開け、安を事務室に案内する。

「アイスコーヒーを飲まないか?」

「ああ。また今日も暑くなりそうだな」

冷蔵庫に作り置きして冷やしておいたアイスコーヒーをマグカップに注いで手渡した。


「美味い!」

「そう言われると、昨日の晩に作っておいた甲斐があるという物だ」

「えっ、わざわざ作ったのかい?」

「アイスコーヒー用のコーヒーを焙煎してくれる店が、住之江公園にあってな。そこでミルをかけてもらって粉末にしてもらったんだ。悪くないだろう?」

「おいおい、夜中にバリスタの真似事などせずに早く寝ろよ。何をアイスコーヒーなんか作っているんだよ」

「この探偵事務所に客が来ない原因は何かと突き詰めたんだ。そこに美味いアイスコーヒーがあれば、それを目当てに相談とか増えて客を呼び込めないかなと思って」

安が呆れた顔でこちらを見た。


「本気で言っているのか?アイスコーヒーで客を呼び込める訳がないだろう?わざわざニュートラムに乗って南港に来ると思っているのか?全ては場所だよ。ロケーションが悪すぎる」

「真実を何でも話せばいいってもんじゃない。もう少しオブラートに包むような優しさが欲しいな。事務所経費の問題は安い方がいいに決まってる」

安がそれを聞いて腹を抱えながら笑った。


「キタやミナミで事務所を開ければ、餓えずに済むぜ」

「しかしそこには、賃貸のリスクがあるだろう?高いし、元手もいる」

「確かにそうだ」


安がその言葉にニヤリと笑った、アイスコーヒーを飲み干すと、事務所を一緒に出た。待ち合い室の鍵を掛けずに安の運転するフェアレディZに乗り込む。安が、イグニッションキーを回しアクセルを吹かす。フェアレディZのエンジン音から咆哮が聞こえる。そのまま一気に突っ走れば、東京まであっという間に着きそうな気分になった。

「では、行きますか?」

「安全運転でお願いします」

「蛇喰さんよ、俺は見かけはこうだが安全運転だし、国民年金だけでなく、国民年金基金も掛けている堅実な人間だぜ」

「そうなのか?驚かせるなよ。それは知らなかった」

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