第75話 元彼
「バイク、女、死んだ。3年前、殺された女、子供ね」
「えっ?!」と思わずなった。
「陳伶?」
安が訊ねると、中国人女性が中国語の発音で「チェンリン」と訂正した。
「娘、借金、返す。親、反対。殺された。15歳、時、九龍団、娘取った。3年、今、幹部、愛人なりました」
借金のかたに娘が、九龍団から奪われてそうになったのを抵抗して殺されて、それが九龍団の幹部の愛人になっただと?凄い話だな」
安が感心するように言った。
「カラオケバーの店主は、娘と借金の返済で殺害されたというのか?」
「それ、噂。本当?知りません。でも3年。今、バイク娘、死んだ。何か関係ある?わからない」
中国人女性は、まるで1人芝居をするかのようにそう言った。
その店が無くなった後に建て替え工事が行われている事を考えれば、カラオケバーの刺殺事件との繋がりが全く無いとは言えないだろう。
「ありがとう。色々教えてくれて」
カラオケは歌わなかったが、セット料金を2人分支払った。情報料としてならば安い物だ。
「小説、大変ね。お金無い。生活苦しい。昔、彼、小説書きます。一緒住む。とても生活苦しい。貧乏。いつも」
「若い時の彼氏が小説家だったのか?」
そう訊ねると、照れたように頬を染めた。だから、色々と同情して話をしてくれたという訳なのか。
「昔の話。若い。お金無い。大変。でも若い。愛ある。元気、大丈夫」
そう言って笑った。
「今はどうなんだ?昔は、愛があっても金が無い。今は愛が無くても金があるとしたら?」
中国人の女は、顔面が突然溶けたように笑ってボソッとこう言った。
「金」
思わず安が右の眉毛を上げた。
「今無理。歳取る。金かかる。若い。大丈夫。病気、あります。わかる?」
「痛いほどわかるねえ。だが、若い時の純粋さが無性に懐かしく感じる時がある」
そう言って、店を出た。安がポツリと呟いた。
「若い頃なんて思い出したくないな。思い出したら、サブイボが出るんだ」
何も答えずに頷いた。スマホを取り出し、松川に電話した。明日のボディガードは、安と2人で行く事を告げた。
「明日は2人とも、休んでくれ」
「頭とか、大丈夫なんですか?」
「若干首元は、重たいが気にすることはないだろう」
「そんな人事でいいんですか?自分の身体じゃないですか?」
おふろさんのようになかなか手厳しい言葉だった。
「わかった。わかった。気をつけるようにするよ」
「今、こっちも大変だったんですよ」
「何があったんだ?」
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