第64話 中国人向けサイト
「いいか。この包丁のキレはめちゃくちゃいい。常に研いでいるから、こちらの手にも馴染んでいる愛用の品だ。何度も言うが、おかしな動きで簡単におまえの鼻は落とせる。おまえの鼻なんか欲しくない。今からゆっくりと立ち上がるが、くれぐれもおかしな真似はするな。手元が狂ったら責任は持てないからな」
男が頷こうとして包丁の刃が食い込んだ。
「わかった。わかった。頷かなくてもいい。鼻が取れるぞ」
「尻が痛い。筋肉が切れてる」
「かもしれないな」
ズボンの尻が血を吸って染まっていた。
「大丈夫か?立てるか?」
男が、セイウチの姿勢からゆっくりと尻の痛みに耐えながら、片膝を突き立とうとしていた。シンクに掴まり立ちをする。
「トカレフを放せ」
男の手からトカレフが離れた。相手の背後に回りながら、首に左腕を回し包丁を鼻の横に置いたまま事務室に入った。男を盾にしながら介抱している男に向かって怒鳴った。
「拳銃を捨てろ。向かって右の床に滑らせるように投げろ」
介抱している男が、拳銃を投げ捨てた。鼻血を流している男が、「ゲボゲボ」と咳込みながら床に口から血溜まりを吐いた。
「おいおい、何を床を汚しているんだ?鼻血男の分の銃も投げ捨てろ!」
介抱している男が従った。
「おまえたちは何者で、誰から雇われたんだ?」
男たちは黙っていた。
「答えないのなら、この男の鼻を剃り落とす。良かったら、記念に持って帰れ!」
首に手を回されてる男が、片足で立ちながらブルブル震え出した。
「よせ。よせよ。止めろ!」
「おい、震えを止めろ。綺麗に鼻が切れないじゃないか?」
「ま、待て。蛇喰」
介抱している男が右手の平を広げて手を伸ばした。
「おまえたちに呼び捨てにされる理由は無い」
「へ、蛇喰さん。へ、蛇喰様。俺たちはただの雇われだ」
「ただの雇われが、トカレフを持ち歩くのか?」
「ほ、本当なんだ。お、俺たちはプロじゃない。見たらわかるだろう?わ、わかるでしょう?」
首に腕を回した男から、汗をかいた嫌な臭いが鼻を突く。
「尻が痛い。い、医者に連れててくれ」
「しりません。ダジャレだ。面白いか?」
「面白い訳ない。ダジャレと違う。尻が、尻が、痛いんだ。力が入らない」
「それは求めている答えじゃない。誰に頼まれた?答えろ。誰でもいい。おまえでもいい。早く答えろ」
掴んだ後頭部を絞り上げる。
「や、止めてくれ」
「おまえは鼻が落とされ、これから前と後ろをにを当てて歩かなければならなくなるぞ」
「へ、蛇喰さん、中国人向けのサイトで仕事を請け負う者の募集がかかったんだ。ワリのいい話だった。仕事は簡単、あんたをピストルを突きつけ脅して連れ出す。それだけしか聞いていない。あ、あなたさまは、ピストルを怖がり指示に従うはずだと」
「実際はそうじゃなかったと?」
確認をする必要はないんだが、ついつい確かめたくなってしまう。いわゆる性分という奴だ。介抱男が、バブルヘッドのように何度も頷いた。
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