第57話 メリット、デメリット

「大変でしたね」

松川は、そう言って気の毒そうな顔をした。パンパンに張ったTシャツを着ていた。筋肉質の身体のラインがよくわかってもらうためだった。

「新聞、テレビで大騒ぎですよ。今、ハンナリマッタリーの会社には、マスコミが押し寄せている」

五十幡がその言葉にうんうんと頷いた。

「コーヒー飲むか?」

2人が頷いたので、デカンタに残っているコーヒーを注いて渡した。

「適当に重なっている丸椅子をはずして座ってくれ」と2人に言うと、一時的に手に持ったコーヒーをテーブルの上に置き、重ねてある丸椅子を外して腰掛けた。


「一時回避の場所に、この事務所を利用してやはり正解か」

「確かにマスコミには、格好のネタだろうな」

安がそう言って、コーヒーを飲みながら頷いた。

「きっと藤澤副社長が、上手く対応してくれているでしょう」

そう嶋田が言った。コーヒーを飲んで、藤澤1人に会社の対応を任せ、のんびりした事を話をしていると申し訳ない気分になった。

「谷河口運転手が退職したそうだ」

松川と五十幡にそう言うと、少し驚いた顔をした。

「襲撃された晩、よくやってくれたんだ。果敢にドライビングテクニックを駆使してね。俺たちも随分助けられた。俺が急ブレーキを踏まさせたとしても、あんな思いをさせてしまったからね。退職すると言われたら非常に済まない事をしてしまったよ」

安がそう反省するように言った。松川が、コーヒーを飲み干してテーブルに置くと納得するように頷いた。


「俺たちが、運転手になれないのでしょうか?」

松川が訊ねて来た。

「ボディガードをしながら、運転手をするのは特に問題は無い。契約書の内容の書き直しでいいだろう。そこで西崎社長に訊きたいんだが、つまりこれからもボディガード兼運転手で引き続き蛇喰探偵事務所を雇うのか、いやいやもういいです。これからは警察の保護を求めますというのか、どっちなんだ?」

西崎にそう言って訊ねた。彼女は、少し考えてから言った。

「どうして警察が出てくるのかしら?私たちは、あなたたちのおかげで助かったんだもの。これからも継続でお願いしたいわ。大丈夫かしら?」

そう言って微笑んだ。

「勿論、大丈夫だ」

そう言って頷くと、西崎が立ち上がり握手を求めて来た。ガッチリと握手を交わす。


「しかし何故、急に奴らは襲撃して来たのだろう?世間の耳目を集めて何のメリットがあるんだ?」

安がそう言ってみんなに訊ねた。

「わからないですねえ。メリットですか。なるほど、その点には気付かなかったな」

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