第46話 共同正犯

右手の拳を握り締め立ち上がったその姿は、まるで映画の「風と共に去りぬ」の第一部のラストシーンのビビアンリーが演じたスカーレットオハラのようだった。南北戦争で親も屋敷も失い、荒れ果てた畑の中でこう宣言する前半のクライマックスシーンだ。

「神様…私は二度と餓えません!私の家族も飢えさせません!その為なら…人を騙し、人の物を盗み、人を殺してでも生き抜いてみせます」と。

「相手の無言の威嚇に負けてたまるか!ねえ?」

松川が言った。西崎がその言葉に頷くと嶋田に指示した。

「堂島の再開発の現場に行くわ。谷河口が待ってるわ」

山丘が、スゴスゴと立ち上がった。そしてこの場から立ち去ろうとしていた。


「何をやってる?」

五十幡が、山丘の後ろのまたもや襟首を掴んだ。まるで猫の首を掴む正しい位置のように、本来子猫ならおとなしくなるのだが。首が締まり、「ぐぇっ!」と声を上げた。首の前で両手をバタバタさせていた。

「あんたも共同正犯なんだ。逃げるな」

松川がそう言って睨みつけると、五十幡が「共同制パンって何だ?」と、首を捻りながら松川に訊ねた。

「共同制パン?つまり配給制のパンの事だ。みんな平等にたべろって事だよ」

松川は、面倒くさくなってそう適当に答えた。


「ああっ、なるほど。そういう事か」

五十幡は、変に納得した。

「安と松川、山丘さんをタクシーを拾い、大阪経済流通同人会まで送ってやれ。五十幡と西崎社長のボディガードをするから」と、指示をした。


谷河口のベンツGLEの後部座席のドアを開ける。安と松川が、タクシーを拾い山丘を乱暴に後部座席に荷物のように押し込んだ。西崎らがベンツに乗り込むのを待って、GSXカタナに跨り待っていた。谷河口がベンツGLEを走らせた。後を追った。渋滞に少し巻き込まれたが、気にするほどの事ではなかった。

以外に早く堂島に着いた。西崎たちが現場を視察する。周りの様子に注意を払いつつ、彼女たちをガードする。西崎が嶋田の話に頷いたり、ヘルメットを被った工事関係者と話をしたり、図面の確認を行ったりしていた。西崎がこちらに近づいて来て独り言を言うように呟いた。

「この近くで、工事現場の跡から、江戸時代の邸宅の跡が出て来てたからね。本当、出なくて良かったわ。そんな物が出たら工事が止まっちゃうわ」

スマホが鳴り、安と松川からだった。後でホテルビューティーアワーで合流すると連絡だった。

「でも少し工事は遅れ気味ね」

西崎は、嶋田にそう言って険しい表情になった。

「建設会社は、竣工式には間に合わせると言っていましたよ」

嶋田が答えた。

「勿論、そうしてもらわないと困るけど。でも実際は難しいかもね」

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