船上の戦場
兵士たちでごった返す上甲板は、騒然としていた。
船首に降りたついでに、舳先の帆も収納で奪う。あとは船尾の上の方に小さいのが残っているだけだ。まあいい、あんまり推進に貢献してる感じじゃないし。
こちらの船では指揮官か船長か知らんけど偉そうな奴が後ろの方で怒鳴っているのが聞こえた。押し包んで殺せとかなんだとか、敵はたったふたりだとか。
要するに大したことはいってない。ミュニオの銃撃一発で、それも止んだ。
「なんだ、貴様らッ!」
残るは兵士だけか。力を使った副作用なのかまだ本調子ではない感じのミュニオを支えて、あたしが前に出る。
「こちらにおわすお方は、ソルベシアの真なる王、ミュニオ・ソルベシア陛下である! 控えよ!」
なんか今度はあたしがジュニパレオスになった気分だ。左腕でミュニオを支え、右腕で
「抵抗は無駄だ! ソルベシア王に仇なすものは、森に変わる。見よ!」
あたしは銃を持ち上げて、右舷後方で海上に広がってゆく緑のうねりを指す。
驚いたことに船体が崩壊した後も“恵みの通貨”は影響力を維持していた。あたしの視力では緑の靄にしか見えんけど、あれはたぶん蔦だろう。どんどん拡大してゆく緑の速度と勢いはこの船にも届きかねないほどだった。
あたしは内心の怯えを隠して、叫ぶ。
「貴様らの命で新たな森を
なんか論旨がグダッた気もするけど。この際どうでもいい。捕らえたひとたちをおとなしく解放すればよし。さもなければ最後までやるだけだ。違いなど消費される無駄ダマの数だけ。
「要求は」
比較的冷静そうな老兵が部下たちを制して前に出る。こいつもたぶん、ソルベシア王家の血を引く
ミュニオの力を見せられた海賊のなかでも若い世代は依然として血気盛んなのに比べて、古兵どもはあからさまなほど身構えていた。
ただ、それで退くかどうかは怪しいもんだ。
「ソルベシアの民を返してもらう。刃を向ける者は殺すが、真王陛下は貴様らに興味はない」
「手前ぇらを殺せば、化物の力、もゔゅッ!」
老兵の横で曲刀を抜いた水兵の頭を吹き飛ばす。粉微塵になった残骸と散弾の余波を浴びた後方の兵士も倒れる。もう交渉は無理だろう。恐れ知らずの戦闘集団は動き出した。彼らは怯まず逃げず、死ぬまで止まったりしない。
「ジュニパー、ミュニオを頼む!」
「任せて!」
人型になったジュニパーが、フラフラしてるミュニオをお姫様抱っこで抱え上げる。甲板上の段差や構造物をひょいひょいと飛びながらロープを伝ってマストに取り付き、ミュニオを抱えたまま物見台まで登ってしまった。
「おおおおぉッ!」
怒声とともに迫る水兵の群れ目掛けて、あたしは立て続けに
見た目じゃ指揮系統はわからないから、狙うのはまずは目立つ者。集団を統率する者や、戦いを主導する者だ。後ろに回り込もうとした敵を、頭上からの射撃が正確に撃ち倒す。
ものの五分ほどで、動ける敵はいなくなった。
残る兵士たちは物陰に隠れ、あるいは船内に立てこもっている。主だったベテラン兵士は殺しているから、それぞれバラバラに行動するだけで組織的な抵抗能力はないはずだ。
「船倉に降りる。ミュニオ」
「もう大丈夫なの」
物見台から降りてきたミュニオは、青褪めた顔にも血の気が戻っている。
「ぼくも、いつでも行けるよ」
「そうだけど、ちょっとだけ待ってくれるか」
この船に捕まってるひとたちを助けるのは確定事項だとして、問題は助けた後だ。
あたしは完全に忘れていたのだ。彼らを、どうやって岸まで運ぶか。もういっぺんマストに帆を張り直すなんてのは無理だ。ジュニパーに乗っけて運ぶにしても、何十人もいたら行って帰っての大仕事だ。時間も手間も掛かるし、女子供が多いとしたら岸に送った後の護衛も必要になる。
自分の考えの甘さは痛感している。こうなったら、困ったときの神頼みだ。無闇に使いたくはない方法だけど、いまは他に選択肢はない。爺さん、生きててくれよ……
「“
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます