隠れ家奪還

 雨音で車輌の接近に気付いていなかったらしく、ライトを浴びた兵士たちは武器をこちらに向ける。

 何か動揺しているのは見て取れるが、即座に攻撃してくる様子はない。


「挟撃されたと思ってるみたいね。隠れ家に突入するか、残った戦力を再編成して撤退か迷ってる。たぶん後者に傾いてるわ」


 ミスネルさんの読みは、なんとなく当たってる気はする。

 攻め入れたところでどん詰まりの攻城戦よりも、生き延びられるチャンスがある撤退戦を選ぶんじゃないのかなってとこもだ。


「キーオさん、サリタさん。ちょっとだけお願いできる?」


 念のため、収納から短剣や小楯、手斧なんかを取り出し後部座席に渡しておく。


「任せなよ」

「こっちの心配は要らないよ」


 エンジンは掛けたまま、あたしは単身で車外に出る。ミュニオも来ようとしてくれたが、彼女は貴重な治癒魔導師だ。救助したエルフの子に付いていてもらう。

 近くの岩陰に入って、鹿撃ち用大粒散弾バックショットを装填した自動式散弾銃オート5を構えた。出てきたら即射殺の予定だったけど、敵は動こうとしない。


「おーい、お前らがミキマフの犬かァ?」


 あたしの嘲笑う声にも、反応はない。なんか、ちょっと思ってたんと違う。警戒してるというより、怯えてる。

 おそらく、だけど。ジュニパーとヤダルさんの突進で甚大な被害を受けたのだ。こちらをナメて掛かるような余裕など微塵も残らないくらいに。


「ま、いっか」


 そのまま遮蔽から出て、目に入る敵から射殺してく。頭の端でも腕の先でも、被弾するだけで戦闘不能になる。治癒魔法を使える兵士がいたとしても、その光を撃ち抜けば良い。岩場の影に隠れた敵に散弾を撃ち込むと、跳弾が被害を広げるようでほとんどが悲鳴を上げて転げ回り始めた。

 ほんの十秒ほどで十五、六人の敵を倒した。ここから隠れ家の入り口までの間に敵は見当たらない。

 銃に散弾を再装填しながら車に戻る。


「お待たせ。ひッでぇ雨だ。パンツまでびしょ濡れだよ」

「ソルベシアの雨は、いつもこんなだ。たいがい三十分四半刻くらいで上がるよ。日が出たら、服くらいすぐ乾くさ」


 サリタさんが笑う。そんなもんか。もう降り始めてから三十分は経ったと思うが、まだ止む気配はない。


「そんじゃ、隠れ家の前で車を止めて、あたしとミュニオが先に行く。なかが安全だとわかったら呼ぶから子供らの護衛をお願い」

「任せて」


 岩場に隠れて扉代わりの木柵が組まれているが、敵が壊したかジュニパーが突っ込んだか閂ごと砕かれていた。あたしとミュニオが左右に分かれて内部を探りながら身体を入れる。

 薄暗い洞窟のような空間には、二十人ほどのエルフが倒れていた。あたしには敵か味方か判別できない。ミュニオに目をやると、少し首を傾げて先に進むよう促してきた。


「揃いの装備で、全員が純血のエルフ。たぶん、偽王ミキマフ派の兵士」


 一度は隠れ家に侵入されたってことか。ここから先に進むなら、他にも敵が残っているのか確認した方がいい。


「ジュニパー! ヤダルさん!」

「こっちだ! ミュニオを頼む!」


 すぐに上階から、ヤダルさんの声が返ってきた。ミュニオに頷いて、先に上がっていてもらおう。


「いま向かわせる! 子供らを入れても大丈夫!?」

「へいきー!」


 ジュニパーの声だ。緊張感はないから、あまり問題はなさそう。ミュニオを呼んだのが気になるけれども、ここは全員を一箇所に集めた方が守りやすい。

 あたしはひとりで車に戻って、隠れ家に入るよう伝える。ここから逃げてきたばかりの子エルフは怯えた顔をしたけど、なかの敵は全員死んでると伝えて安心させてやる。車に残っていたって守りきれんしな。


「さあ、行くぞ。安心しろ、何かあっても絶対に守ってやるから」

「う、うん……」


 失神したままの子エルフふたりは大柄なサリタさんがまとめて抱え、歩ける子供たちのサポートをミスネルさん、最後尾では両手に剣と手斧を持ったキーオさんが護衛についてくれた。


「よし、入ったら一度そこで止まってくれ」


 サバーバンを収納しかけて、止めた。そのままサイドブレーキを掛けてドアをロックし、入り口を塞ぐように配置する。


「お待たせ。ヤダルさんたちは上だ。あたしが前に立つ……うえぇッ⁉︎」


 いきなり上で、野獣の咆哮みたいのが聞こえてきた。

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