得てなお喪うもの
「その先、ちょっと揺れるよー」
隠れ里メイケルグから車を出したあたしたちは、下草に覆われた獣道をゆっくり進んでゆく。
ランドクルーザーの荷台には大人三人と子供八人。助手席には小柄なミュニオとミスリルさんプラス、最年少で仔犬みたいな人懐っこい人狼の子ミロ。
薄茶色っぽい
「ミスネルさん、最初の休憩は、どこにする?」
「北に十五哩ほど行った、森の入り口ね」
「ジュニパー!」
「聞こえたよー」
馬形態のジュニパーに乗せられた女の子たち六人はランクルの隣を並走しながら髪をなびかせ、キャッキャと歓声を上げている。
あたしも運転には気を使ってはいるものの、道が整備されていないので車体はかなり揺れる。それに比べると
「さあ、お嬢さんたち覚悟はいいかな? あの大きな木のところまで、ぼくの全力疾走を見せてあげよう。しっかり掴まっててね……それっ」
「「「「ひゃあああぁ……ッ♪」」」」
うっわ、すっげー速えぇ。なにあれ、新幹線レベルじゃん。あの速度で乗せられた子たちに恐怖感がないのも凄いけどな。
滑るように急加速したジュニパーとガールズは、あっという間に見えなくなった。
「……変わってるわね」
「ジュニパー? うん、変わってるけど良い奴だよ、すごく。明るくて、優しくて、前向きだ。あいつがいなかったら、あたしたちの関係も、ここまでの道のりも、ずいぶん違ってた」
もしかしたら……というか十中八九、帝国軍から逃げ切れずに殺されてただろうな。どんだけ殺したところで多勢に無勢、最後は追い込まれてお終いだった。
運転しながら話すあたしを見て、ミスネルさんは笑う。
「ジュニパーちゃんだけじゃない。あなたも、ミュニオちゃんも。なんていうか、突き抜けた感じがするの」
「ん?」
「虐げられて踏み
ああ、わかる気はする。あたしも、似たようなもんだ。
出会ったばかりのミュニオとジュニパーを突き放して、ひとりでウサギを狩っていた頃。最初の危機を脱した緊張が解けてきて、行く先も頼るものも生きる目的もなくて。あのまま独りでいたら、きっと。
戻ってこれなく、なっていた気がする。
「わたしも、ヤダルも。ケースマイアンのひとたちは、静かに苦しんでた。理由のわからない罪悪感と焦燥に駆られてた。誰も喪われず奪われもしなかったのに、何か大事なものが欠けたみたいな。飢えも恐怖も何の不満もないはずなのに、後ろめたいみたいな」
ミスネルさんの声にも表情にも、悲壮感はない。あえていえば、困惑というのが近いか。
「サリタさんたちに聞いたよ。それでケースマイアンを出て、こっちに来たんだって」
「そうね。いまは、やるべきことがあって気持ちも上向いてる。わたしたちに必要なのは、必要とされることだったのかも」
たぶんミスネルさんたちが求めていたのは、殺し続ける代わりの、何か。生きる目的といえば簡単だけど、過酷過ぎる経験をした後で社会復帰に苦しむ、一種の“
どうだろうな。あたしは……あたしたちも、そうなるんだろうか。
「大丈夫なの、シェーナ」
ミュニオが笑う。膝に置いた人狼の子を撫でながら、ふわりと幸せそうに。
「きっと、乗り越えられるの。なにがあっても。ふたりが、一緒なら」
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