ガンズんガールズ

 クリーニングキットやらガンオイルやらは村に帰ってから渡すことにして、まずは装填と排莢、照準と発射の流れを教える。威力と射程と注意点もだ。

 ネルとハミに渡した小口径リボルバールガー・ラングラーは、兵士が相手だとせいぜい十五メートルくらいでしか有効打にならないことを教えておく。大人が射る短弓と同じくらいか少し上、でも長弓ほどの威力や射程はない。特に革鎧や金属甲冑を貫く能力はない。


「皮が軟らかい、兎みたいな動物なら、もう少し遠くからでも殺せる。でも、いまは練習が目的だから頭を狙ってな」

「「はい!」」


 ネルたちに訊いてみると、ふだん獲物を狙ってるのは二十メートル以下、ネコ系の彼女らは忍び寄るのが得意なこともあって多くは十メートル以下らしい。だとしたら、ふだんの狩りに近い感じでいけるのかも。


「六発撃ったら、再装填する。そこの丸いのの後ろを開いて、そうだ」


 一発ずつ抜いて、次に一発ずつ込める方式。もしくは、シリンダーの回転軸ベースピンを抜いて丸ごと外し、六発込め直して、また嵌め込む方式。どちらにしても、敵の前で出来ることじゃない。


「先にいっておくぞ。あたしたちがいないところで戦うとしたら、ネルとハミの六発ずつとルーエの十五発、合計二十七発で確実に殺せない相手とは戦うな。もしくは、他の武器か、遮蔽か、仲間を用意しろ」

「「「はい!」」」


 ルーエに渡したレバーアクションライフルは、“ヘンリー・ゴールデンボーイ”という……なんだそのネーミングセンス、と思わんでもないが、そこはスルー。とにかく、例によって例のごとく西部劇時代の名作を現代に蘇らせたヒット商品だそうな。サイモン爺さんによれば製造会社はアメリカらしい愛国的企業らしいけど、そういう素性はどうでもいい。いま問題なのは弾薬を装填するのが少し面倒臭いことだ。

 ミュニオが持つマーリンは機関部の横から追加弾薬を装填できたけど、ヘンリーは“銃身下に伸びるマガジンチューブの内筒を前方に引き抜いて、開口部から弾薬を直列状態に入れて、また内筒を戻す”という工程が必要になる。

 爺さんは“これはこれで西部開拓時代の雰囲気があって良いんだよ”かなんかいってたけど、知らんし。

 もうホント、ふつうにマシンガンとかくれ。


「というわけで、ルーエの銃だけは重くて嵩張るけど射程が長い。慣れてくればネルとハミを遠くから支援できるはずだ」

「はい、ぜったい、なります」

「なれるの」


 ルーエとミュニエのお姉さんコンビは、遠距離支援の砲台役を極めるつもりのようだ。

 流れ弾を避けるために、ネルとハミが兎を追い立てる方向を決めた。お互いが背中合わせになるように、丘から東側に降りてハミとジュニパーは時計回り、あたしとネルは反時計回りで帰ってくるルートだ。


「それじゃ、ふたりともサポートよろしく」

「了解、ハミちゃん行くよ?」

「ルーエのことは、任せるの♪」


◇ ◇


「……なにそれ」


 事前に決めた巡回ルートを一周したところで、あたしは自分の間違いを知った。仔猫ちゃんたちの能力を読み誤っていたと心底、思い知らされた。


「いや、それはないわー。ネルも大概だけど、お前らそれ、ありえないだろ」


 ランドクルーザーが停まった丘の上には、モサッと折り重なったウサギの山。これ、二十匹以上いるよね。なんか知らんけど緑の鳥も十羽くらい足を縛られて花束みたいになってるし。なに、こっちはまだ一周目なんだけど。


「シェーナ、これ失敗かも。二匹獲ったら持ち帰る、ってやってたら」

「そうな。キリがないな」


 ネルが早々に二匹をヘッドショットで仕留めたんで、持ち帰るために丘を目指していたあたしは次々に追加される兎を延々と収納しながら戻ることになったのだ。あたしはそれで良いけど、ジュニパーは行ったり来たりが大変だったらしい。


「もう、練習はこんくらいで良っか。銃には慣れたか?」

「ハミ、なれた。らんぐら、すき♪」

「ネルも、なれた。らんぐら、すごく、いい!」

「ルーエも、へんりー、だいすき。まっすぐ、どこまでも、とどくの」


 いや、届かんと思うぞ。ふつうは。そのタマ、そんな長射程じゃないし威力もないはずだぞ。弓で落とせないような鳥を束で仕留めるほどのチート武器じゃないはずなんだけど。


「目玉だね」

「そうなの。みんな、目玉なの」


 あたしも、気付いてた。ネルとハミはもちろん、恐ろしいことに飛んでる鳥を仕留めたルーエも、獲物は全て目玉を射抜いているのだ。

 兎は、静止した瞬間を撃ったと考えれば、わからんでもないけれども。いや、実際ネルは跳ね回ってるのも射殺していたからおかしいんだけどな。


「……お前ら、すげえな。もう、大丈夫だろ」


「「「ありがとー♪」」」

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