第9話現状確認
サクヤは天井を見上げていた。
窓がないので外は見えず、周囲にはコンクリートの壁だけで目を引く物もない。
サクヤ達がこの質素な講師室に案内され、説明を受け始めてから約2時間が経過する。
元々喋る事が大好きなのか、カエラのテンションは説明を始めてから時間が経つにつれて徐々にボルテージを上げていった。
今となっては────
「とまぁ、これで今のお前達の扱いと私の存在意義、及びこれからの行動内容が分かったと思うがなにか質問はあるかー!」
怒っているような、あるいは何かに憑かれているような。そこにいるのは気弱なカエラではなく、入隊式の時のようなハイテンションなカエラだった。
最初の方は、なにかとラーシャが質問をして例の如くヤヨイと口喧嘩を始めたり、カイルを筆頭に話が脱線したりとぐだぐだした空気感だったが、カエラの変貌っぷりに気圧されて皆口を閉ざし始めたのだ。
サクヤに至っては途中で居眠りをしていたら、カエラにグーパンされた程である。
そしてようやく、待ちに待った時間が訪れた。
「質問はねーなー? ならこれにて説明終了! 解散!」
(ようやく終わった。早く寮に行って眠りたい。そして、顔が痛い)
鼻血を流した跡が薄らと残るサクヤの瞳には小さな雫が溜まっていた。
カエラの説明を要約すると、大まかに分けて3つの話に分けられる。
まず1つめ、サクヤ達の現状。
それは、今この時をもってサクヤ達上位者10名はFランクエージェントからEランクエージェントに昇格したという事である。
リパルションにおいて、Fランクエージェントは見習いとして扱われる。理由は適正魔力不足。純粋に戦闘を行うのに最低限必要な魔力が足りないのである。その最低限の魔力を身に付けるためにカエラ達講師陣の元で鍛錬を積むのだそうだ。
そしてもちろん見習いである間は
リパルションは国家公認の組織であり、騎士団や魔法師団のように1つの職種である。故にカエラ同様給料が発生するのだが、
サクヤ達上位者は元々魔力値が規定数値をを超えている為、無条件でEランクに上がれたという事らしい。
2つめ、Eランクについて。
Eランクエージェントは仮免許のようなものである。
魔力値は規定数値を超えているが、実戦で使えるかはまた別の話だ。いくら魔力が高かろうが、実戦経験がなければどのみち戦場ではすぐに死ぬ。
それを回避する為の実践訓練をする訓練生達をEランクエージェントと呼ぶのである。
サクヤ達は今このランクにいる。
EランクエージェントはFランクエージェントとは違い、危険性が限りなく低いものであれば
3つめ、昇格について。
ランクを上げる方法は2通り。1つは年に1回の昇格試験に受かる事。
もう1つは有事の際、もしくは
基本的には前者で昇格している者がほとんどである。少数ではあるが、後者で昇格している者もいない事はないが、後者の例として、自分のランクよりも高いランクの敵を1人で倒す。というものがあるが、これらは正直現実的ではない。そもそもそんな敵と遭遇する可能性がある任務ならば、まず高ランクのエージェントが一緒にいるはずだし、仮に戦闘になったとしても勝算はかなり低いだろう。
総合的に後者の難易度が異常に高いのである。
後者で昇格する力がある者は紛れもない化け物と呼べるだろう。
以上の3つがサクヤ達が最も気にすべき内容だった。
まぁ、肝心な当事者達はカエラとの温度差にやられてだいぶ参っている。聞き漏らしている奴も何人かいるかもしれないが。
ともあれ、これで本日の入隊式のスケジュールは全て完遂した。後はそれぞれの寮に戻り、各々明日から始まる鍛錬の為に体を休めるだけである。
「それでは皆さん、明日から頑張って下さいね!」
心底疲れ切った顔で講師室を出て行こうとする上位者達を笑顔で見送るカエラのテンションはまだ少し高めだったが、理性は取り戻していた。
戦闘狂は快楽を求む ハマネコ @4hamaneko_pj2
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