第76話 廃墟の美と憂――空は赤く落ちる


 以前、郷倉さんのエッセイ(※1)にてオススメされた「断片的なものの社会学」(岸政彦)がとても面白かったのですが、そこでこんな一節がありました。


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 五年も更新されていない、浜辺で朽ち果てた流木のようなブログには、ある種の美しさがある。工場やホテルなどの「廃墟」を好む人びとはたくさんいるが、いかにもドラマチックで、それはあまり好きでない。それよりもたとえば、どこかの学生によって書かれた「昼飯なう」のようなつぶやきにこそ、本当の美しさがある。

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 岸政彦氏の感覚に半ば同意しながら、廃墟が頭に浮かんだとき、ふと、高校生の時、web漫画にハマっていたことを思い出しました。埃を被っていたブックマークにアクセスしてみます。


 遠道の庭「slow」 ―― 閉鎖

 フェムドリル「TRICkSTar」 ―― 打ち切り、ログあり 

 廃葬「君と来た道」 ―― 16年から更新無し

 発狂するエラー「鈴木さん」 ―― 19年から更新無し

 読解アヘン「堀さんと宮村くん」 ―― 更新中


 つらつらと懐かしい面々が並んでいました。状況は様々でしたが、いくつか閉鎖されていたのが悲しいですね。「ワンパンマン」や「モブサイコ100」はアニメ化までされて大ヒットですが、面白いのに筆を折ってしまった人がいる。そして、それが残っている。


 それを見た時に、かつて自分がいた場所が無くなっていたような郷愁に襲われました。岸政彦氏の言うドラマチック感は多少ありますが、あくまで僕は路傍の石のごとき存在なのですよね。コメントも応援もせず眺めている存在。そして、勝手に悲しんでいる存在。繋がりがあるようでなく、僕とは関係ない所で朽ちていく姿は悲しく、美しい。


 カクヨムでもそうですが、誰にも掘られず素晴らしい作品がぽつりと打ち捨てられているのにはある種の美があります。そして、その美の中には必ず深海を凝縮したかの如き真っ暗な憂があります。


 その黒瑪瑙めのうのような美しさを叩き壊すために、僕等は毎日物語を読み、そして、コメントを残すのですね。僕はその一言が「廃墟の美」を生ませない力を持っていると考えています。






 最後に、今日はその中から一つ「空は赤く落ちる」(※2)という漫画を紹介したいと思います。僕が今、一番再開を願っている(そして多分もう叶わない)漫画です。

 

 舞台は近未来の沖縄。軍事国家に傾倒していった結果、学生がとれる進路は3つ。就職、入隊、士官学校への進学。優等生の知名崎は、士官学校への幾度もの推薦を押し切り、軍への入隊を選んだ。それは「偉い軍人になれ」と厳しく育てた親への当てつけか、復讐か。「遺骨が届く日を祈っててくださいね」と両親に吐き捨て、遠く離れた沖縄へ向かった知名崎を迎えたのは、可愛い女の子と「3週間で辞めるに五千円賭けてんの。よろしくね」という挨拶だった――。

 

 Chapter1の冒頭から超好みです。親への捻れた感情と、癖のある職場ってね。歪んだ主人公って良いですよねー。そして、それ以上に周りも歪みに歪んでいるのがたまりません。軍ものですがどっちかというと恋愛少女漫画なので、さくっと読めますよ。ぜひ!! 


 みなさんはどのキャラが好きですか?

 シスコン国頭だった人は気が合うな!!


 そして、廃墟の憂は今からでも破壊可能でしょうか。




 ※1 エッセイ「オムレツの中はやわらかい方がおいしいのか?」――郷倉四季さん

 34 日記 2020年4月 殺そうという意思がなくても人は死ぬ。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054890981690/episodes/1177354054895401611


 ※2 空は赤く落ちる

 http://soraochi.web.fc2.com/

 ほんと面白いから読んで。全員可愛いし、かっこいいし。軍ものだけに誰かを上げるための露骨なアホキャラがいなくてサクサク進んで気持ち良いよ。女性陣では夏奈が好きです。あと、国頭を筆頭に男子陣の(BLにもつなげられそうな)仲の良さが良きです。

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