第62話 ええやん、ええやん
僕は関西生まれ関西育ち。大学を出るまで関西から離れたことがなかったため、敬語でもイントネーションが抜けない系関西人です。
当然、友人も関西人が多くなります。その中の一人が使っていた魔法の言葉はこちら。
「ええやん、ええやん」
この言葉に僕は弱い。
十中八九、全然良くない状況で使われるのですが、彼の口から出るこの言葉を聞くとなぜかええように思えてくるのが不思議なのです。
例えば、こんな状況。
ええやん星人(以下E)「今から釣り行こ!」
Askew(以下変態)「え、もう9時やけど、今から?」
E「うん、思い立ったが吉日やろ」
変態「そらそやけど、場所は? 道具も持ってへんやろ?」
E「釣り具屋で安いの買おう。場所もそこで聞けるやろ」
変態「適当過ぎんか」
E「何とかなるって」
変態「普通に飲みに行こうや」
E「ええやん、いこーや。女の子もおるかもしれん」
変態「女の子釣るなら飲みの方がまだ確実やろ」
E「ビギナーズラックの可能性」
変態「俺らに備わっていたことがない」
E「まぁ、ええやん、ええやん」
ええやん、と一度ジャブを浴びせてからの有無を言わさない連打ですね。これで結局ウキウキしながら釣具屋へ向かうのもどうかしているのですが、僕はこうなると弱いのです。ちなみに、この日は夜の波止場でうにょうにょしたイソメと共にただ真っ黒な海面を眺めるだけで終わりました。波止場に浮かぶキリンのようなガントリークレーンが綺麗でした。
これはあくまで一例ですが、この友人は事あるごとに「ええやん」と言います。帰りの電車を逃しても「ええやん、ええやん」。キャンプに出掛けてキャンプサイトの予約をしていなくても「ええやん、ええやん」。お好み焼きを完全に焦がしても「ええやん、ええやん」。可愛い女の子が歩いていても「ええやん、ええやん」。声かけた女の子にガン無視されても「ええやん、ええやん」。バイトで怒られても「ええやん、ええやん」。あっちでもええやん。こっちでもええやん。
ええやんは止まりません。僕はいつもため息をついて彼のあとに付いていくのですが、その無茶苦茶な理論と嫌がっても突き進んでいく無鉄砲さに引っ張られるのが楽しかったのかもしれません。
社会人になってからは彼も関西を出て地方で忙しく、僕も日本国内、アメリカと転々として、学生時代のように頻繁に会うことは難しくなりました。でも、「ええやん」と言いながら歩いた夜の街の生ぬるい夏の風は今でも思い出せる気がします。
彼に「アメリカでいまだにくすぶってる」と言ったらどう返すのでしょうか。やっぱり「ええやん」と言って居酒屋にいくのでしょうか。
その時、僕は胸を張ってこう言いたいと思います。
「ええわけがない」
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