第243話 工房へ

「ただいまもどりましたぁ!!」


 工房の扉を勢いよく開けながらエリアさんが大きな声で告げる。さてさて、どんな人が出てくるのかなぁ。楽しみだね。


「んな、大声を出さんでも聞こえているぞ。仕事はあったのか?」


 工房の奥から2mを超す巨体が現れた。しかも透き通るような翼が背中にはある。ビックリして【鑑定】を使う。工房主のエフモントさんはどうやら妖精族と巨人族の混血のようだ。


 巨人族は成人すると5mに達するというから、妖精族との混血で2m後半で背の高さが収まったんだろうね。そして、妖精族は獣人族の鳥系の人々や魔族など翼の生えた種族と同様に翼があり、片側2枚の左右で計4枚の翼を持つのが純血。混血だと半分の2枚になるんだね。


 エフモントさんは視線を向けている僕達に気付くと、顔をしかめながら言う。


「ん?なんだぁ!?後ろの連中は。まさか、儂にあの坊っちゃん用の武具・防具一式を揃えろというんじゃないだろうな!?」


「あ、いや、師匠、この方は・・・。」


 エリアさんの言葉を遮り言う。


「僕から話します。武具も防具も持っています。ただ、何も装飾されていないのでせめて家紋だけでも彫っていただきたいと思い、お伺いした次第です。」


「ほう?しっかりとしているな。・・・ん?すまんが坊っちゃん、目をよく見せておくれ。」


 エフモントさんが一歩前に進み出る。豊久と呂布が腰の獲物に手をかけ、ジョージは拳銃のセーフティを外すが手を挙げて制止する。


 エフモントさんは身を屈め、フードに隠れた僕の視線を受け止める。


「・・・こいつは、驚いた!!坊っちゃん、あんた、何人殺った?いや、人間だけじゃねぇな。魔物もかなり狩っただろう?」


 ここでいう人間はエルフもドワーフも獣人族も魔族も色んな種族が含まれているよ。そして、もちろん首肯して、


「両の手では足りないほど。」


 と答えたよ。


「名前は?」


「ゲーニウス領及びオリフィエル領が領主、ガイウス・ゲーニウス。現在は辺境伯を名乗っています。」


「まさか、この虫も殺さないような顔つきの坊っちゃんが、巷で生と死を操ると言われているフォルトゥナ様の使徒、ガイウス閣下だとはな。ハハハ、こりゃあ驚いた。鍛冶場にこもっていると領主様のご尊顔を拝見できんからなぁ。」


 え、僕の世間での評判ってそうなの?疑問符を浮かべているとジョージがコソッと、


「ガイウス卿がお休みの間に広まったのです。ヘニッヒ卿達はじめ行政、衛兵隊が広がるのを抑えようとしたのですが、ダメでした。お耳に入れるのは業務に復帰してからと思い、黙っておりました。申し訳ない。」


「ん、気にしてないよ。ところで武力や暴力の行使は?」


「特に何も。ただ“不名誉な噂は広めないように”と口頭で通達しただけです。」


「なら、いいよ。仕方ないよ。ホントのことだもんね。」


「なにをコソコソと話しとるんだ?それで御高名なガイウス閣下がこんな場末の鍛冶場に装飾を頼むとはな。モノは?」


 僕はジョージから離れて


「ヒヒイロカネ製の鎧への装飾です。」


「ほう、ヒヒイロカネか・・・。ふむ、それなら、直接彫るよりも、革を縫い付けてその革に装飾してやろう。冒険者もやっとるんだろう?何か素材があるだろう。」


「あるにはありますが、縫い付けるほうが彫るよりも難しいのでは?」


「鎧を長持ちさせるためと装飾が経年劣化した際に交換しやすいのがそちらだと思ってな。なに、そんなに高くはない。そうさな、銀貨2枚でどうだ?」


「安すぎますね。お弟子さんの給料も払わないといけないでしょうに。金貨2枚出します。」


「ふむ、なら銀貨5枚は?」


「ダメです。」


 そんな感じで値上げ交渉し?て結局、前金に金貨1枚と銀貨5枚。あとは出来高払いとなったよ。しっかりとした技量を持つ人にはしっかりとお金を払わないとね。ちなみに槍と盾、剣はそれ自体に装飾を施すことになったよ。


「2週間はかからんと思うが、ヒヒイロカネは久分だからな。この日に出来るとは断言できん。すまんな。」


「いえ、大丈夫です。」


「しかし、獲物がないと不便だろう?」


 僕は魔法袋(偽)からじいちゃんから貰った剣を取り出して言う。


「これがあるので。」


「ほう、良い鉄を使っているな。まぁ、確かにその剣なら大丈夫だろう。ところで、後ろの兄さん方は何か買うかね?」


 呂布と豊久は断りの言葉を言い、ジョージだけがナイフをじっくりと見て、


「これとこれをお願いする。」


 と購入する意思を伝えた。エフモントさんは口笛を吹き、


「なかなか良い眼をしているな、兄ちゃんは。この2本は俺のオススメだ。投げてよし、刺してよし、斬ってよしのナイフになっている。まぁ、その分高いんだが、今日の俺は機嫌がいい。金額はこのくらいでどうだ?」


「?値引きしすぎだろう。このくらいが妥当だ。まったく。ガイウス卿の言葉をもう忘れたのか?」


 そう言ってジョージはお金を払う。エフモントさんは苦笑いしながら受け取る。そして、ナイフ用の鞘を準備しながら言う。


「俺だけの店なんだがなぁ。」


「ご結婚はされていないんですか?」


「こんなムサイおっさんに嫁ぐような娘っ子はいませんぜ。閣下。」


 あぁ、さっきの【鑑定】では27歳と出てたもんねぇ。まぁ、でも、


「エリアさん、お弟子さんがいるから、貴殿1人だけというのは違うのでは?」


 と指摘をしておこうかな。エリアさんも、


「ウチを忘れてもらっては困るッス。」


 とすぐに突っ込む。


「ああ。失言だったな。」


 バツの悪そうな顔をして頭を掻きながらエリアさんにエフモントさんが謝罪の言葉を口にして、大体のやりとりが終わった。


 あとは、事務的なやり取りをして、ヒヒイロカネ製の防具と武具一式を預けて、預かり証と交換する。出来上がれば行政庁舎のほうへとエリアさんが知らせに来てくれるとのことで、2人に見送られ工房を出る。


 帰りの道すがら呂布と豊久に何で、武器を買わなかったのかを聞く。


「拙者には方天戟ほうてんげきとハルバードがありますゆえ。」


「おいには、野太刀の方が使い勝手がよかもんで。」


「なるほどねぇ。」


 そんなもんかな。あ、でも僕も魔法よりも槍を主に使っているなぁ。ん~、戦い方を変えた方がいいのかな?ま、それを考える時間はたっぷりあるか。

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