第215話 黒龍の贈り物
冒険者ギルドを後にして、シントラー伯爵邸へと向かう。
「いつものことじゃねぇか。気にすんな。」
と言われてしまった。ジョージと為朝は苦笑いしていた。ええ、そんなにかなぁ・・・。あ、伯爵邸が見えてきた。シャンとしないと。
「ただいま戻りました。」
「お帰りなさいませ、閣下。後ろの
フリードリヒさんとアンネリーゼさんが返事をする。
「うむ。」
「よろしくお願いね。」
町に入って冒険者ギルドに行く前に、孤児院の子供にお駄賃を渡してフリードリヒさんとアンネリーゼさんのことを書いた書簡をシントラー伯爵邸へと事前に運ぶことができて良かった。いきなりだと迷惑になるもんね。まぁ、今のでも十分に迷惑だろうけど。忙しさを表情には出さずに手早く受け入れの用意をしてくれた使用人さん達に感謝だね。
「夕食までまだ少し時間があるね。お風呂は使えます?」
「はい、ご用意しております。」
お風呂に入って、ソードウルフ狩りでの汚れを落として、綺麗な服装に着替えて夕食へと向かう。既にツァハリアスさん、ダヴィドさん夫妻に長男のフィンさん、オリフィエル領代官のピーテルさんとピーテルさんの息子のタンクレートさんが席に着いていた。次男のアンテロさんは指揮する艦隊が当直だそうで今日は夕食を一緒にできないみたい。
夕食を楽しみながら冒険者ギルドで起きたことを言うと、
「ああ、アルトゥロ殿は“ヴァルター”のフランク副長の弟ですよ。」
「そうですか、アルトゥロさんはフランクさんの弟さんだったのですね。だから、朝は僕の事を知らないで、軍に寄った後の夕方には知っていたと。」
「ええ、クラーケンの幼体の報告でフランク副長と話しをしていましたよ。兄の命の恩人で辺境伯閣下ですからね、冒険者ギルドではそうなりますよ。」
と、フィンさんが教えてくれる。
夕食が終わり、大人組が食後のお酒を楽しんでいると、ツァハリアスさんが、
「ところで、フリードリヒ殿は流れの傭兵で、アンネリーゼ殿は治癒師とガイウス殿からお聞きしていましたが、本当でしょうか?」
と言うので、どうしようかと思っていると、フリードリヒさんが何だそんなことかと答える。
「うむ、嘘だ。儂らはフォルトゥナ様のことでガイウスに近い者だと思って欲しい。」
「・・・使徒様であると?」
その質問にはアンネリーゼさんが答える。
「ごめんなさいね。それ以上はフォルトゥナ様との約束で言えないの。」
「なるほど。そうなのですか、ガイウス殿。」
僕に話しが振ってこられたので首肯して、
「ええ、お2人の言う通りです。お2人ともフォルトゥナ様に近い方になります。これは、フォルトゥナ様の使徒である僕が保証します。」
「なれば、教会にお伝えした方がよろしいのでは?」
「あー、そうなると少しどころか大騒ぎになる可能性が高いのでやめておいた方がよいかと。」
「そうですか。ガイウス殿が言われるのであればそうしましょう。お2人とも不躾な質問を申し訳なく。今後はガイウス殿と同格の待遇で過ごせるように手配しよう。」
そう言って謝罪するツァハリアスさんに、
「疑問に思うのは最もだから気にする必要はない。手配に関しては感謝を。」
グラスを掲げながらフリードリヒさんが言う。
「おぉ、そうだ。折角なのだから、これを貰って欲しのだがの。友好の
そう言って、【異空間収納】から宝石の散りばめられた漆黒の鞘に入った短剣を7振り取り出す。
「そ、その【能力】は【収納】!?」
ツァハリアスさんが驚いている。ダヴィドさんとフィンさん、ピーテルさんにタンクレートさんも目を見開いて驚いている。
「あー、正確に言えば【異空間収納】じゃの。アンネリーゼも使えるがの。」
「【異空間収納】!?あの容量が無制限という。いやはや、なんとも・・・。流石はガイウス殿と同格の方々だ。」
「さて?同格と言うにはどうかのう。儂、一騎打ちでガイウスに負けてしもうたしのう。」
「明らかに年長者の
はい、また話しが僕の所に飛んできたよ。
「ええ、まぁ、勝ちました。ですが、フリードリヒさんには【魔法】を使用しないというハンデがありましたから、【魔法】有りならどうかはわかりません。」
「なに、【魔法】を使っておってもお主には負けたじゃろうて。あのような戦い方は初めて見たからのう。」
僕を持ち上げるのはやめて欲しいなぁ。フィンさんから人外を見る目で見られているし、アントンさんは“またやりやがった”的な目で見てくるし、ピーテルさん親子は当たり前だろおうという表情をしているし。そして、アンネリーゼさんとクリス達は頷いてフリードリヒさんに同意しないで!?
「と、ところで、その短剣の数は一振り多いんじゃないですか?」
「ピーテル卿の奥方の分もいれておるでな。さぁ、手に取って見てくれ。鞘は豪華に仕上げてあるが、中身は実戦向きのモノとなっておる。」
フリードリヒさんがそう言うと、ツァハリアスさん達はそれぞれ短剣を手に取り、鞘から抜く。黒い刀身だけどフリードリヒさんの長剣よりもは黒くはない。
「オリハルコンとミスリル、アダマンタイトの合金に黒龍の鱗の粉を混ぜて打ったモノとなっておる。」
「「国宝級ではないですか!?」」
言葉の出ないダヴィドさん、フィンさん、タンクレートさんに代わってツァハリアスさんとピーテルさんが驚愕の声を上げる。そして、僕のほうを見たので、サッと目を逸らす。ボクハシラナイヨー。
「そんなに驚くモノかのう?儂の若い頃はよく手に入った素材じゃ。」
「フリードリヒ殿の年齢を聞くのが恐ろしいですな。ところで閣下。目を逸らしましたがご存知だったのでは?」
ピーテルさんが問い詰めてくる。
「いやいや。規格外の人達だとは思っていたけど、まさかここまでとは思ってなかったですよ!?」
「・・・閣下のお言葉を信じましょう。重ねて確認しますが、フリードリヒ殿、本当にこれをいただいてもよろしいのですかな?」
「もちろんじゃとも。奥方にも渡すがよかろう。」
「では、ありがたく。タンクレート、驚いてばかりいないでしっかりと礼をしなさい。」
「・・・ハッ。はい、父上。フリードリヒ殿、感謝いたします。」
タンクレートさんに続いてツァハリアスさん達シントラー伯爵家族もお礼の言葉を言う。フリードリヒさんは満足げに頷いている。その様子を見ていたアンネリーゼさんが口を尖らせながら、
「彼だけが感謝されているのを見るのもなにか
「「「やめてください。」」」
僕とツァハリアスさんとピーテルさんの声が重なる。これ以上はもうムリ。
ということで僕はフリードリヒさんとアンネリーゼさんに変な事をしないようにと注意をして用意された部屋に戻って寝た。疲れたー。
明けて17日の月曜日。昨日の夜の続きが気になったけど、聞くのが恐かったので当たり障りのない会話をしながら朝食を摂る。ツァハリアスさんとピーテルさんは目に
フリードリヒさんとアンネリーゼさんはシュタールヴィレの面々と共にレグニルトの森での
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます