第214話 龍人の起源

明けましておめでとうございます。今年も拙作をよろしくお願いします。


この1年が皆さんにとって良い年でありますように。


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 クリスとユリアさんから血液の点滴処置を受けながら黒龍のフリードリヒさんと白龍のアンネリーゼさんに雑談をする。ローザさん達はソードウルフ狩りに行っている。


「僕の配下というか相棒に“ヘラクレイトス”という飛龍王ワイバーンロードがいるんですけど、幼い頃にフリードリヒさんと出会って、そこで飛龍ワイバーンは龍に次ぐモノだと話しをされたと聞いたんですが。」


「うむ、確かにそのような話しを最近した記憶がある。ガイウス達が“黒魔の森”と呼んでおる所を住処すみかとしている飛龍ワイバーン達であったと思うが、どうだろうか?」


「ええ、合っています。」


「しかし、そうか、飛龍王ワイバーンロードが覚えていたか。これは、中々に名誉なことではあるな。」


「ところで、龍人ドラゴニュートの始祖をご存知ですか?レナータさんが生まれた頃には既にいたそうなので、お2人ならどうでしょう?」


 僕がそう質問すると、フリードリヒさんとアンネリーゼさんは顔を見合わせて、何とも言えない表情となった。


「あ、話しにくいことなら無理にはお聞きしません。」


「大丈夫よ。えっとね、ガイウス君は異種交配という言葉を聞いたことはあるかしら?」


「ええ、まぁ、家族が畜産をしていますので、猪と豚のイノブタとかですよね?」


「その認識で合っているわ。簡単に言うと私と彼がそれぞれ人間と性交して生まれたのが龍人ドラゴニュートの始祖となるわ。少し長くなるけど、どうしてそうなったかを説明するわね。」


 アンネリーゼさんが語りだす。人間が火と言葉というモノを得た頃に黒龍と白龍は神のつかいとして祭り上げられた。そして、生贄として定期的に若い男女をそれぞれ差し出してきた。しかし、2柱とも人間を食べる気なんて無かった。しかし、送り返そうにも、それはそれで、他の人間から迫害を受ける可能性があるとも聞いてしまった。仕方なく遠く離れた別の地に生贄となった人達を運び、新しく集落を開拓するために働いてもらいながら、知識を授けていった。勿論、2柱とも人化して指示を出しながら。それを数年、繰り返していた。そして、ある日の夜、


「ああ、喰われたよ。性的に。」遠い目をしながらフリードリヒさんが言う。


「私は、逆に童貞をもらっちゃったわ。」頬に手を当て笑みを浮かべながらアンネリーゼさんが言う。


 そういうことになりフリードリヒさんは生贄の女性たちを妊娠させ、アンネリーゼさんは生贄の男性の子を妊娠した。


「はい、質問です。飛龍ワイバーンは卵生ですけど、お2人は胎生なのですか?」


「良い質問ね。私達は妊娠した時の姿で卵生か胎生か変わるの。私はその時は人化していたから胎生になったわね。フリードリヒの相手は人間の女性だったから普通に胎生だったけどね。では、続きね。」


 そうして、生まれた子供達は(どうやらフリードリヒさんは複数の女性に襲われたらしい。)人間と龍の血が混ざった新種族“龍人ドラゴニュート”としてこの世に生を受けた。以降、その開拓地が龍人ドラゴニュートの“心の故郷ふるさと”となっており、黒龍と白龍はフォルトゥナ様に並ぶ象徴ともなっているとのことだった。


龍人ドラゴニュートの方の寿命が長かったり、怪我に強かったりするのはお2人の血を継いでいるからなんですね。そして、開拓地はカチレア大陸にある、今のロマニア龍王国ですか?」


「そうよ。きちんと学んでいるのね。偉いわ。」


「ありがとうございます。」


 このことを論文にして発表したら、世界中の生物学者たちが驚くかもね。龍人ドラゴニュートの始祖は人族の突然変異とか言われているみたいだし。まぁ、でも、僕が読んだ「世界の人種大図鑑」にはそう書かれていただけであって他の書籍だと違うのかも。


「あの、もう1つ気になる点なんですけど、人化した時のアンネリーゼさんはフリードリヒさんと同じくらい強いのですか?」


「んー、どうかしら?私達、争ったことないのよね。ただ、フォルトゥナ様からお願いされた魔物狩りをしてきたわけだし、邪神が現れたときは陰ながら勇者と聖女を支援したりしていたから弱くはないとは思うわ。試してみる?」


「あ、結構です。」


「あら、残念。」


「そういえば、お2人とも冒険者としてギルドに登録しているんですか?」


「いえ、私はしていないわ。」


「儂もしとらんの。人化しているときは流れの傭兵という肩書きで生活しておる。」


「私もそんな感じね。治癒師として生活しているわ。まぁ、戦うときはこの双剣を使うけどね。」


 そう言って、アンネリーゼさんは剣を抜く。刀身が陽の光を反射して白く光り輝いている。これも、フリードリヒさんの黒剣のように自分の鱗を使って作ったんだろうなぁ。双剣の美しさに見惚れていると、アンネリーゼさんが剣の切っ先をフリードリヒさんに向けながら言う。


「そういえば、フリードリヒ、貴方は勝負に負けたんだからガイウス君に鱗をあげるんでしょう?早く渡しなさいな。」


「うるさいのう、覚えておるわ。ガイウスよ、どの程度欲しい?」


 あー、考えて無かったなぁ。原初の龍の鱗となれば1枚だけでも国宝級だろうしなぁ。どうしよ?


「なんじゃ、決めておらんのか、ならば、お主の【異空間収納】の開け。」


「?」


 言われるままに僕の【異空間収納】を発動する。すると、フリードリヒさんは自身の【異空間収納】を発動し、物凄い勢いで収納していた鱗を僕の【異空間収納】へと移し出す。呆気に取られて見ていると、爪のようなモノまで見えた。


「!?ストップ!!ストップです!!」


「もうよいのか。欲が無いのう、折角、爪までやったというに。」


 やっぱり、さっきの爪だった!!取り敢えず、【異空間収納】の中身の確認を。・・・。“黒龍の鱗”が5,276枚、“黒龍の爪”が17本。うん、邪神が出て来るまで封印しておこう、そうしよう。取り敢えず、お礼は言わないとね。


「えっと、鱗と爪をありがとうございます。こんなに大量に・・・。」


「気にするでない。人間と同じで我らも古い鱗や爪は自然と剥がれ落ちるからのう。おかしな者の手に渡らんように収納していただけだ。」


 その後は、2人が人化して巡った国の話しを聞いたり、初の勇者と聖女がどのようにして邪神を倒したかを聞いたりして時間が過ぎていく。


 僕の輸血も終わって、そろそろネヅロンの町に戻ろうと思っていた頃合いにローザさん達が戻ってきた。3人とも怪我はなさそうだね。よかった。


「レナータさんが追い込みをしてくれて、エミーリアが【土魔法】で土壁を作ってソードウルフを囲い込んだからかなり狩れたわ。」


 ローザさんが笑顔で報告してくれる。エミーリアさんも胸を張っている。レナータさんも得意顔だ。数は57頭だそうだ。


「流石ですね。凄いですよ。」


 僕は素直に褒めたたえる。


「それでは、町に戻りましょうか。」


 レグニルトの森を出るのにはそんなに時間はかからなかった。まぁ、このメンバーだからね。鎧袖一触だよねー。


 ネヅロンの町へと戻り、冒険者ギルドで依頼クエスト完了の処理をしてもらう狩った獲物が多かったから時間がかかってしまった。もう最初の目的のデートができる時間じゃないよ。まぁ、クリス達が満足しているならいいか。


 冒険者ギルドを出ようとすると声をかけられた。


「おーい、ガイウス坊や。」


 声のする方を見ると処理・解体室の方から4級冒険者のアルトゥロさんが手を振っていた。


「朝ぶりですね。大きな獲物がれたんですか?」


 返事をしながら近づく。


「おうよ。クラーケンの幼体に連続で出くわしてな。3体仕留めた。珍しいことだから軍にも報告した。んで、お前さん達も大量だったみたいだな。スゲェ量のソードウルフだったぜ。それと、そこの美男美女は新しい仲間か?」


「ええ、傭兵と治癒師をされているお2人です。」


「そうか、お2人さんよ、ガイウス坊やをくいもんにしようとは思わんことだな。俺らはそういうのが一番虫酸が走るんだよ。」


 そうアルトゥロさんが闘気を言葉に乗せて言うと、フリードリヒさんが、


「無論だ。」


 と即答する。すると、アルトゥロさんは、


「そうかい。」


 と言い、さらに声を一段と低く僕たちにのみ聞こえる声量で眼を鋭くして言う。


「ガイウス閣下に害をなしてみろ、実力差があろうが地の果てまで追い詰めて息の根を止めてやるからな。」


 僕が何かを言う前に処理・解体室からアルトゥロさんを呼ぶ声が聞こえ、彼は僕に目礼をして処理・解体室に戻っていった。僕の正体、いつの間にバレてたんだろう?というか、さっきの言葉は少し狂信者っぽくて僕が恐怖を感じちゃったよ。

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