第207話 一騎打ち

「我こそは、源為義みなもとのためよしが八男、源為朝みなもとのためとも!!ガイウス卿の家臣である!!腕に覚えがある者はかかってまいれ!!」


 帝国のアデライーダ級大型帆船で為朝が敵を挑発する声が聞こえてくる。すると、艦橋から1人の人物が姿をあらわした。剣を抜きながら言う。


「私は、マチュニン分艦隊司令官パーヴェル・マチュニン。マチュニン領領主であり子爵の位を皇帝陛下より賜わっている。為朝殿、私がお相手しよう。」


 なかなかに立派な体躯をしている人物だ。【鑑定】では各数値が為朝を下回っているけど、この世界では平均よりかなり上といえる数値だ。3級冒険者のアントンさんを少し下回るくらいかな。【剣術】のLvは32とこれも中々に高い。


 っと、見入っている場合じゃなかった。僕は為朝だけに聞こえるように【風魔法】を使い、命令をする。


「『為朝、その人は殺さずに捕獲してほしい。』」


 その言葉を届けると、為朝は太刀を鞘に納刀し、無手で構えた。


「為朝殿、それは私を馬鹿にしているのか!?」


「フンッ!!馬鹿になどしておらぬ。お主相手なら全力を出せそうだと思うてな。」


「その言葉、後悔なさるな!!」


 そう言うと、パーヴェルさんが為朝に斬りかかる。それ為朝は籠手で受け流す。一騎打ちの始まりだ。ただ、為朝の大鎧は徒歩戦には向かないんじゃなかったかな?まぁ、さっきから大太刀で接近戦をしていたから大丈夫なんだろうけど。


 為朝は基本的にこぶしのみで勝負をしている。組み合うと頭突きをしたり、足払いをしたりして転倒させようとしているけど、軽鎧をしっかりと着込んだパーヴェルさんは上手く対処している。


 マチュニン分艦隊旗艦アデライーダ級大型帆船“エンマ”の船上で始まった一騎打ちが始まり、3分ほど経過したところで状況が動いた。“霧島”率いる私兵艦隊が突入に成功した。そのおかげで帝国艦隊に動揺が走る。パーヴェルさんは冷静だったけど、彼の部下が一騎打ちに割って入った。


「パーヴェル閣下!!新たな敵艦隊です!!指揮に戻られて・・・」


 最後まで言いきることはできなかった。為朝が頭を掴み握りつぶしたからだ。


「フン、邪魔が入ったな。きょうざめだな。一気にケリをつけさせてもらう。」


「何を言っている!?まだまだこれからだ!!」


 そう言って、剣を振り上げたパーヴェルさんの腕を掴み、折る。そのまま首に手をまわし、頸動脈を締めて意識を落とす。1分以内で終わってしまった。一騎打ちの最中とは違い何ともあっけなく終わってしまった。


「貴様らの司令官であるパーヴェル・マチュニン殿は敗れた!!命がしければ降れ。降らなくば、この男のようになるぞ!!」


 片手で頭が無くなった帝国兵を高く掲げ大声でパーヴェル分艦隊に告げる。少しして、マチュニン分艦隊旗艦アデライーダ級大型帆船“エンマ”が白旗を上げると、次々と麾下きかの船も白旗を上げて投降し始めた。“エンマ”を含めて7隻が投降した。すぐにこちらの艦隊から指揮官さんと水兵さんが乗り移って、鹵獲しラルン岬へと向かう。


 パーヴェルさんは人質として捕縛しておくことにした。意識が戻っても暴れることなく、骨折の治療を受け、敗北を受け入れていた。生粋の武人だったみたいだね。

為朝は、「ふむ、それでは、拙者は移乗攻撃の続きを行いまする。」と言って、次の帝国船目掛けて敵の小舟を足場にしながらついでに乗員を殲滅し、移動していった。う~ん、人外だね。


 あ、そうそう人外で思い出したけど、僕のステータスも凄いことになっているんだよね。


名前:ガイウス・ゲーニウス(5級冒険者、ゲーニウス辺境伯)種族:人族(半神)

性別:男

年齢:12

LV:327

称号:フォルトゥナの使徒・ゴブリンキラー、オークキラー、ロックウルフキラー、コボルトキラー、ホーンベアキラー(世界の管理者・フォルトゥナの伴侶:予定)

所属:シュタールヴィレ・アドロナ王国

経験値:53/100

体力:3,750(18,750)

筋力:3,725(18,625)

知力:3,797(18,985)

敏捷:3,724(18,620)

魔力:3,580(17,900)

etc           *()内は能力の【ステータス5倍】による補正後の数値


 こんな感じ。【魔法】とかの【能力】については割愛だよ。我ながら凄いね。赤龍であるレナータさんと同等、補正後の数値なら凌駕りょうがしているからね。


 さてさて、“霧島”らが突入したおかげで。帝国艦隊は南北に分断されつつある。さらに、突入前に“夕立”と“綾波”が放った魚雷による攻撃が混乱に拍車をかけた。なにしろ、水中からの攻撃だからね。魚雷の命中した船は爆音と水柱と共に船体が海面から持ち上がり、竜骨キールが折れて沈んでいったよ。そして、周囲の船はパニックになり、味方同士で衝突し、最悪の場合は衝角ラムが当たってしまい、沈んでしまう船もあったみたい。【遠隔監視】のおかげでその様子をよく見ることができたよ。


 さて、“霧島”率いる艦隊が突入できたというのは、戦闘が始まってから1時間が軽く過ぎたということだね。時計を取り出して確認すると17時47分だった。北半球の7月なので陽が長いからまだ全然明るい。太陽も水平線に沈むまでは時間がありそうだ。それにラルン岬に配備した弩砲隊も元気よく射撃をしている。


『ライトニング1よりガイウス卿へ。補給が済んだ機から戻って来ました。』


「『よろしい。外縁部の敵船を集中して攻撃せよ。』」


『了解。ガーデルマン、いくぞ。』


『大佐のお好きなように。』


 ガーデルマン少佐の諦めたような言葉で通信が切れる。この短時間でのゲーニウス領のエドワーズ空軍基地との補給を含めた往復、アフターバーナーを使って、機体への負荷と燃料消費は無視して、空中給油機を使って、最大速度のマッハ2.5近い速度で移動したんだろうなぁ。ゲーニウス領に戻ったら、エドワーズ空軍基地の燃料タンクにジェット燃料を【召喚】する作業が始まるんだろうなぁ。


 今度は【遠隔監視】で“霧島”を見てみる。艦橋内映像と“霧島”、“青葉”、“夕立”、“綾波”の4隻が見える映像の2つを出す。艦橋内映像では岩淵大佐が冷静にかつ冷徹に指揮を執っている。


『全主砲は敵総旗艦の周囲の船を減らせ。副砲は見える範囲の中型以上の船を攻撃。機銃は小型櫂船を集中的に狙え。25mmは効くだろうさ。右舷側は誤射には注意しろ。』


 いいね。敵の総旗艦“ピョートル”の周りの護衛船を排除できれば、僕が“ピョートル”に乗り込むことができる。映像を“ピョートル”の周囲に切り替えると、数多の砲弾が空中で炸裂し弾子をばら撒き、護衛船を沈めていく。駆逐艦は三式弾が撃てないから通常弾での攻撃だけどねー。それでも、木造船には脅威には違いなく、命中弾を受けた船はドンドン沈んでいく。


 18時20分、僕は息を吐いて、【風魔法】に乗せた声でヘラクレイトスを呼ぶ。すぐに“ヴァルター”まで来てくれる。


「どうした、ガイウスよ。」


「僕とクリス、ローザさんとエミーリアさんを敵の総旗艦“ピョートル”まで運んでほしいんだ。」


「承知した。」


 すぐにクリス達と一緒にヘラクレイトスの背に乗る。そして、艦橋にいるピーテルさんに向けて言う。


「ピーテル卿!!艦隊指揮は一時的に貴方に預ける。私はこれより、敵総司令官を討ちに行く!!」


「承知しました。ご武運を。」


「ありがとう。」


 ヘラクレイトスが羽ばたき、一気に100mほど上昇する。そのままアイソル帝国西部方面艦隊旗艦であるレオニード級超大型帆船“ピョートル”に一直線に向かう。“ピョートル”の上空を通過するときにヘラクレイトスが横転ロールを行う。その一瞬にクリス達と共に飛び降りる。【風魔法】で落下の勢いを殺して“ピョートル”に着船する。


「アドロナ王国ゲーニウス領領主ガイウス・ゲーニウス辺境伯である!!西部方面艦隊総司令官のオーシプ・レスコフ侯爵と一騎打ちに参った!!」


 僕がそう告げると、艦橋にいた誰かが、


「敵の指揮官だ!!討ち取れ!!」


 と号令をかけて帝国兵を仕掛けさせてくる。それを、クリスとローザさん、エミーリアさんが防いでくれる。冒険者の級は上がってないけど、訓練や黒魔の森に潜ったおかげで3人ともかなりの実力を身に付けている。それでも、数の暴力にはかなわないので、僕が帝国兵の中心に跳躍して短槍を一振りして十数人を討ち取る。


 帝国兵の勢いが弱まったのを確認して、また、跳躍をする。次は艦橋の目の前だ。着地地点にいた帝国兵を薙ぎ払い、艦橋に槍の切っ先を向けて再度告げる。


「一騎打ちを所望する!!それとも、オーシプ卿は子供が恐ろしいのか!!」


 そう挑発すると騒がしかった艦橋が静かになる。そして、遂に現れた。軽鎧ではなくフルプレートアーマーに身を包んだオーシプ司令官が。周囲の参謀とかは止めているようだけど、あの様子だと無理だろうね。


「準備に手間取ったが、今から一騎打ちにて貴様の首を刎ねてやろう。」


 言うやいなや、艦橋から飛び降り大剣を振るってきた。僕はそれを普通に避ける。最初で最後の一撃は甲板の木版を破壊しただけに終わった。大剣を構え直そうとする次の瞬間には僕の短槍が右手を吹き飛ばし、胴体に風穴を開けたからだ。オーシプ司令官はそのまま自分の血の池に倒れ込んだ。


「『アイソル帝国西部方面艦隊司令官オーシプ・レスコフ侯爵を、アドロナ王国がゲーニウス領領主ガイウス・ゲーニウスが討ち取った。我々の勝ちだ!!アイソル帝国の残兵はくだれ。くだらねば討つ!!』」


 風魔法に乗せて戦域全体に行き渡るように宣言する。少しの間を置いてアドロナ王国側からは歓声が、上空からはヘラクレイトス達の雄叫びが響き渡る。


「さぁ、くだれ。降らねばこの船の乗員を1人残らず討ち果たすぞ!!」


 そう脅しながら“ピョートル”の艦橋に槍の切っ先を向ける。チラリと視線をやると背後では次々と白旗を上げる船が出てきている。【遠隔監視】で見なくてもわかるぐらいだ。しばらくして、艦橋から白旗を持った帝国兵が出てきて中央のマストに白旗を掲げた。僕はすぐにルーデル大佐と岩淵大佐に攻撃中止、負傷者・溺者の救助を命令した。


 後日、この海戦はラルン岬沖海戦として名を残すことになった。


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人物紹介の女性陣を追加しました。容姿などについて書いてあります。

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