第196話 海戦への準備・その2
「そういえば、今日から7月になりましたでしょう。
お昼を食べていたらマヤさんからそう言われたので、僕は首肯し、
「
「まぁ、あなた、お話ししていなかったの?」
「あー、うむ。
ピーテルさんがマヤさんに責められて頭を下げる。
「我が息子の名は“タンクレート”と申します。
「そうなんですね。19歳となるとお2人が17歳と15歳の時のお子さんになりますね。」
「はい、その通りです。しかし、閣下に私共の年齢をお教えしましたでしょうか?」
あ、【鑑定】で知っていたからついポロっと言ってしまった。ここは上手く嘘をつかないと。
「えーっと、先日の事件の時に資料を読みましたので。」
「ああ、なるほど。
どうやら納得してくれたらしい。
その後は、普通に昼食を歓談しながら楽しんだよ。やっぱり干物よりも新鮮な魚介類は美味しいね。流石は港町。
午後からは一度、【空間転移】でニルレブに戻って
アドロナ王国の端から端への移動になるから時間は随分とかかってしまう。仕方ないね。迷惑にならない時間のうちにネヅロンの門に着いた。今回は
行政庁舎と海軍司令部のどちらに行こうか迷ったけど、取り敢えず行政庁舎に向かう。でも、いなかったよ。今日は、お休みをとって自宅にいるらしい。だから、すぐにシントラー邸に向かう。守衛さんに貴族証を見せて用件を伝えるとすぐに通してくれた。そして、当然のように案内の使用人さんがすぐに来てくれる。
玄関に向かう途中で馬車止めにシントラー家以外の馬車があるのが目に入る。お客さんかな?使用人さんの案内で応接間に通されたけど誰もいない?お客さんじゃ無かったのかな。マナー違反かもと思いながら【気配察知】を鋭敏に展開する。すると、2階の一室、おそらく執務室にツァハリアスさんの気配を感じる。そして家令さんともう1人。この気配は!?
すぐに僕は「急用を思い出した。」と使用人さんに言って、屋敷から出ようとしたけど一歩遅かった。
「おお、その姿はガイウス殿ではないか。久しいな。息災であったかな?」
「・・・えぇ、ゲラルト殿もご健勝のようで。」
「なに、寄る年波には勝てんよ。ところで、
満面の笑みの軍務大臣のゲラルトさんがそこにはいた。これは絶対に厄介事だと無意識下の思考が告げている。
「いえ、なに、急用を思い出しまして。ツァハリアス殿とお話しすることは至急の事ではないので、次回の訪問時でもよろしいかと思い・・・。」
「ほう、帝国艦隊の集結。そして、それに伴い予測される南下侵攻を“至急の事ではない”と言われるのか。」
「・・・優れた間諜をお持ちのようで。」
「軍務大臣たるもの情報収集をおざなりにできるものかね。して、
僕が驚いていると、
「ふむ、もうちっと表情を隠すようにするべきだ。よいかね、ガイウス殿。
僕は気を持ち直し、ゲラルトさんの目をしっかりと見て、言う。
「私は、いえ、僕は、この国に住む人達を
ゲラルトさんはジッと僕を、僕の眼を見て、その後、笑顔を浮かべ、僕の両肩に手を置き、
「ハハハ。
そう言われて、僕がポカンとしていると、
「私がツァハリアス殿を訪ねたのは、国軍海軍の指揮権を一時的に譲渡するためだ。指揮系統が2系統あれば混乱する可能性が高いからな。国軍艦隊司令は次席指揮官に任じた。シントラー領の海軍は全てがツァハリアス殿の指揮下に入ることになる予定だったが、ツァハリアス殿から詳しく話しを聞いたらオリフィエル領の両海軍も参戦予定ということで全体の指揮は
「はい、ゲラルト殿。先程、部屋で申し上げた通り、作戦の立案者であるガイウス殿に全ての指揮権を
「うむ、これでオリフィエル領まで行く手間が省けたというものだ。ガイウス殿。こちらが指揮権移譲の書類になる。」
ゲラルトさんがそう言って書類の束を渡してくる。僕は両手で受けとり、中身を軽くだけど確認をする。ホントにシントラー領とオリフィエル領に展開する国軍艦隊の指揮権を一時的に僕に渡すというモノだった。
「帝国に痛い目を見せてやってくれ。それではな。」
ゲラルトさんはそう言って、僕とツァハリアスさんを残して玄関ホールを後にした。外から馬車の動く音が聞こえてくる。その音で、僕は一気に現実に引き戻される。
「え・・・、国軍を指揮・・・?」
「大丈夫ですよ、ガイウス殿。私とピーテル殿も補佐しますので。それにシントラー領に駐留している国軍艦隊司令官のホベルト殿、オリフィエル領の国軍艦隊司令官のマヌエル殿は平民出身ですが、優秀な人材です。頼りに出来ますよ。」
「そうじゃないと、私の神経が持ちませんよ。」
「ところで、私に何かご用があったのでは?」
「ああ、実はですね。・・・。」
救助隊の件について話しをすると、ツァハリアスさんも賛成してくれて、明日にでも教会に要請してくれると約束してくれたよ。船の準備も間に合わせてくれるとのことで今日の話しはそこでおしまい。時間がね。オリフィエル領に一度、帰らないと。
ヘラクレイトスの所へ戻り、そのままオリフィエル領に向かって飛ぶように指示を出す。
「ガイウスよ、いくら我が普通の
「ああ、大丈夫だよ。この場所、高度ならそう人目にはつかないね。【空間転移】」
【空間転移】を使ってナドレンの近くの空に瞬時に移動する。
「おお、これが神より授かった力か。一挙に移動するなど素晴らしい。しかし、この能力があるのであれば、今回の移動で我は必要無かったのではないか?」
「いや、あまり他人には話してないからね。秘密にしているんだよ。そんで、まぁ、移動時間の
「なるほどな。ほれ、もう着くぞ。」
「うん、発着場はあっちだね。」
「うむ。」
ヘラクレイトスは旋回しながら降下を始める。ヘラクレイトスに気づいた衛兵さんが着陸誘導をしてくれる。ふわりと音もたてずに優雅に着地したヘラクレイトスから降りる。衛兵さんはすぐに僕と気づいたようで、貴族証を確認したらすぐに馬を貸してくれた。そのまま、オリフィエル邸へと向かう。1日で色々しすぎたね。疲れたー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます