第182話 狩りの準備
5つの魔物の群れと集落を文字通り殲滅し帰還したルーデル大佐を駐機場で出迎える。
「お疲れ様、大佐。昼食は豪勢にするから楽しみしておいてくれ。それまでは自室で休むといい。」
「ありがとうございます。ガイウス卿。しかし、できることならもう一度出撃を許可して戴きたいと思います。」
僕が内心ビックリしているとシンフィールド中将が助け舟を出してくれた。
「大佐。ここは東部戦線ではない。勿論、魔物という敵が存在するがソ連の戦車部隊と比べれば赤子同然だ。A-10Cは君の乗っていたJu87G-2のように操縦に癖が無く身体的疲労も少ないだろう。しかし、大佐。ここはガイウス卿の提案を受け入れてくれないだろうか。」
「・・・了解しました。しかし、明日からは必ず1回は出撃させてください。お願いします。」
中将が僕に視線を送る。僕は頷き、
「よいだろう。冒険者達の手が届かないところが中心となると思うがよろしく頼む。」
「ありがとうございます。それでは自室に戻ります。」
敬礼をして大佐は去っていった。
「中将、しばらく【召喚】する航空機はAWACSを中心とした支援機とレンジャー連隊を輸送するヘリコプター部隊のみにしておいた方がよいかな?」
「ええ、取り敢えずはそちらの方向性でよろしいかと。地球での彼が敵地上戦力へ与えた損害は世界トップでした。ちなみに航空機も撃墜していますので空戦もできます。」
「もうルーデル大佐1人でいいんじゃないかと思ってしまった私は間違えているだろうか?」
「いえ、極めて正常な思考かと。」
「ありがとう、中将。さて、昼食はルーデル大佐の戦勝祝いだ。準備に取り掛かろう。」
昼食はエドワーズ空軍基地の料理人さん達に任せたけど、ルーデル大佐は喜んでくれたみたい。特に僕の家の牛から搾った牛乳が「味が濃くて美味しい」と褒めてくれた。【異空間収納】に入れておいてよかった。なかなか牛乳って畜産をしている家の人かその近隣の人、魔道具持ちの貴族しか飲めないんだよね。チーズは貴族や都市に住む人達とかも食べるんだけどね。
でも地球では技術が発達していてごく一般的な飲み物になっているみたい。う~ん、技術が羨ましい。これは徐々に解決していくしかないね。頭の良い人たちに任せよう。今は魔石を魔法陣で動かす魔道具が多いけど、次第に地球みたいに他の力を使って動くモノができてくるといいね。
午後は行政庁舎で書類仕事。クスタ君も秘書官業務を期待以上にしっかりとこなしてくれている。
終業時刻になると執務室の扉がノックされた。僕はクスタ君に頷き、「どうぞ。」と入室を許可する。クスタ君が扉を開けるとクリスとグレイウルフリーダーの“ルプス”がいた。扉を閉めて鍵をかけてもらう。
「クリスが来るのはわかるけどなんでルプスが?」
「ふむ、驚くのも無理はない。黒魔の森でガイウスの仲間達、いや奥方達と付き人の大男と言った方がいいか。まあ出会ってな。お主の所に行きたいと何とか伝えたのだよ。」
「それで、何か至急の用件だったかな?」
「お主は覚えておるかわからぬが、森の魔物の数がおかしなことになっていると伝えたでろう?お主達のおかげでかなり魔物の総数は大分減ったがオーガの数が減っておらん。奴らは森の深い所におるからな仕方のないことではある。だが、つい先程物見の者から報告があってな。オーガの2つの集落が合流しおった。確認できただけでも数は約5,000。今は新しい集落を造り始めておるらしい。暴れ出すのも時間の問題だと我は思っている。」
ルプスの言葉がわかる犬獣人のクスタ君は顔を蒼くしている。クリスはクスタ君の淹れた紅茶を優雅に飲みながら僕とルプスの会話を聞いている。
「う~ん、約5,000のオーガか、なるほど。丁度いい。僕の新しい私兵の初陣の相手となってもらおう。大体の場所はわかるかな?正確な場所の把握と下見をしたいんだ。」
「うむ、ならば我が案内しようではないか。しかし、至近までは無理だということは承知してほしい。」
「もちろん。今からでも大丈夫かな?」
「闇夜は我らの味方ぞ。問題などない。」
「よし、わかった。しかし、今朝もゴブリンとオークの集落と群れを5つ潰したんだけどねー。まあ、できちゃったモノは仕方ない。それでは行こうか。クリスとクスタさんはクレムリンに先に戻っておいてください。それと“夕食はかなり遅くなるので作り置きを”と厨房に伝えておいてもらえますか?」
「はい、承知しました。ガイウス様、お気をつけて。」
「ルプス殿とお会いした時点で何かあると思っておりましたが、オーガですか。それの討伐を新たな私兵にやらせるということは、確かレンジャー連隊・・・でしたか。彼らにやらせるのですね。まあ呂将軍や島津殿の働きぶりを見ているので大丈夫だとは思いますがお気をつけて。」
「ありがとう。クリス。」
クリスと抱擁して、クスタ君に後を任せてルプスと共に黒魔の森へと潜る準備をする。エドワーズ空軍基地に向かいP-8AGSを飛ばして僕を追跡してもらうようにする。ビーコン?を出す装置を僕が身に付けて森の中を動けば、上空のP-8AGSが位置情報を確認する。これで目標地点がわかる。
そして、【召喚】を行う。今回はレドモンド大佐のリクエストに応える形でアメリカ陸軍第160特殊作戦航空連隊“ナイトストーカーズ”を【召喚】する。エドワーズ空軍基地の空いている場所に大量の航空機と人員が魔法陣と光と共に現れる。これがヘリコプターかあ。大きさは様々だね。卵みたいな形のもいる。回転翼機っていうから上と尻尾に付いている長い棒が回って飛ぶのかな?そんなことを考えて眺めていると1人の軍人さんが歩み出てきて敬礼をする。それに
「第160特殊作戦航空連隊司令官デール・コールドウェル大佐以下指揮下の大隊の全てが着任したことを報告します。」
「ようこそ、地球からエシダラへ。敬礼を解いて楽にしてくれ。さて、簡単に紹介をしよう。私が“召喚主”でこのゲーニウス領の領主ガイウス・ゲーニウス辺境伯だ。隣にいるのは順にエドワーズ空軍基地司令官ドゥエイン・シンフィールド中将、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル大佐、第75レンジャー連隊連隊長ハロルド・レドモンド大佐だ。他の人員とはおいおい時間を見て自己紹介をするといい。ああ、あとグレイウルフリーダーのルプスだ。」
“ウォンッ!!”とルプスが一吼えする。
「それではコールドウェル大佐、早速で悪いが狩りの準備をお願いする。細かい調整はシンフィールド中将とレドモンド大佐の両名としてほしい。」
すでにレドモンド大佐は第75レンジャー連隊の即応部隊を集めている。今月は第1大隊が即応部隊になっているらしくすでに装備を整え待機している。また特殊作戦大隊(RSTB)も準備を完了していて待機中だ。いやあ素早いね。領軍に召集をかけても早くても2~3日はかかるだろうに。
武装はM4、Mk16(SCAR-L)、Mk17(SCAR-H)というアサルトライフルにMk46、Mk48(M249)軽機関銃、M20(SSR)というマークスマン・ライフル、暗視装置を中心に夜間の森の中での戦闘を有利に進めるように選択しているみたいだね。
相手が約5,000のオーガということもあり第2、第3大隊にも召集をかけているらしい。第160特殊作戦航空連隊のヘリコプターのパイロット達も準備を始めて、整備員が機体の最終チェックを行なっている。
僕は3人の指揮官が話し合いを始めたのを見て、ルーデル大佐に声をかける。
「今夜は第75レンジャー連隊と第160特殊作戦航空連隊に初陣を譲ってあげてほしい。」
「もちろんですとも。同じ軍人です。両連隊の活躍の機会は奪いませんよ。指令室でP-8AGSが送ってくる映像でも眺めておきましょう。」
そう言うとルーデル大佐は敬礼をして基地施設へとは向かう。僕は翼を出し、ルプスが入るくらい大きい鉄製の
「ガイウス卿。エコー1は閣下が飛び立って10分後に離陸します。それと無線機です。ノイズが入る場合はエコー1が中継します。」
シンフィールド中将が無線機を持って報告しに来てくれた。僕はヘッドセットを付けて
「わかった。ありがとう。もしかすると今まで探索していた場所よりも離れているのかもしれない。分かれていたとはいえ5,000近いオーガの集落が発見できていなかったのはその可能性が高いからね。」
「了解しました。でしたら、すぐにでもエコー1の離陸後に飛行可能状態にあるP-8、P-8AGSを飛ばしましょう。」
「夜間でも索敵能力が落ちないのであれば許可するよ。」
「大丈夫です。」
「ならば、効率的にお願い。搭乗員の人達には無理はさせないように。」
「了解しました。では、お気をつけて。」
「ありがとう。」
僕はルプスの乗った
「ルプス、臭いとかは大丈夫?オーガの元まで
「ふむ、我の嗅覚を舐めるなよ?・・・うむ。充分に
「それじゃあ、方向指示をお願いね。」
「うむ。しかし、この時期は
「大丈夫、大丈夫。僕も【気配察知】で探索をするから。」
そう言いながら黒魔の森の上空へと進入する。ヘッドセットからはエコー1と管制塔のやり取りが聞こえる。さて、ビーコンを出しているから【空間転移】ができないので飛行速度を上げてルプスの示す方向へと向かおう。
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