第112話 マルボルク城

「ガイウスよお、お前さん、これはちとやりすぎじゃねえかい?」


「拙者もアントン殿と同意見です。ガイウス卿。」


「えっ!?いや、だって、みんなが雨風をしのげて、黒魔の森から出てくる魔物どもや野盗に襲われない、安全な寝床って思って【召喚】したら、この“マルボルク城”が出てきたんですよ。」


 やりすぎじゃないよ。適正だよ。これだけのモノならそう簡単に陥落しないよ。


「ちなみに拙者を最初に【召喚】された時は何と思われたので?」


「呂布を【召喚】した時は、“誰も並び立つ人がいないほどの強い人”って思ったね。」


「それは、光栄ですな。しかし、これだけ、巨大な城というか、城塞ですな。これを防衛するには、今の500では兵が足りません。あと、1,500は欲しいものです。」


「それは、騎兵でかな?」


「御意。拙者の配下は下馬戦闘でも実力を十分に発揮できますゆえ。」


「わかったよ。それじゃあ【召喚】。」


 騎馬隊を【召喚】し、呂布に預ける。彼は、すぐに高順と張遼を引き連れ部隊へ指示を出し、動き始めた。そして、未だにポカーンとしている奴隷さんたちには、今日からしばらくここが仮の住まいとなることを伝える。ダグが手を挙げ「質問があるのですが。」と言うので許可をする。


「ご主人様方も此処に住まわれるのでしょうか?お世話などはどのようにすればよろしいでしょうか?」


 ああ、そうか。僕は彼らを買ったから、主人になるわけだ。なら、少しでも、力を付けて欲しいね。


「僕たちの世話をする必要はないよ。そうだね、読み書き計算ができる人はいる?・・・。いるみたいだね。その人たちは他の人たちに読み書き計算を教えてあげて欲しい。そして、みんな、時間があれば呂布隊の訓練に混ざって力を付けて欲しい。食糧は倉庫に置いておくからそれを使うこと。他は城の外にさえ出なければ自由。いいね。」


「あの、そんなことでいいのでしょうか?」


「今は、それでいいよ。ゲーニウス領に着任したら、その学んだ力を存分に発揮してもらうからね。今はその準備期間だ。わかってくれたかな。」


「はい、わかりました。ご主人様。」


 わかってくれたようで何より。そして、僕は城内を文字通り飛んで回り、倉庫に食糧を【召喚】しては満杯にするを繰り返した。流石にナマモノは無理だけど、干し肉や乾燥果物、乾燥野菜を置いた。厩舎には飼料を大量に【召喚】する。これで、大体は終わったかな。水は井戸があるから大丈夫だよね。城壁には、呂布隊の兵が既に弓矢を持って警戒にあたっている。うん、いいね。呂布はよく働いてくれている。


 さて、ユーソさんに報告に行こうかな。僕は呂布とアントンさん、それとダグにその旨を伝え、翼を広げ空へ飛び立つ。ん?ツフェフレの町の方面から騎馬が100騎ほど駆けてくる。どれも、重兵装だ。その騎馬隊の先頭が僕に気付き、行軍速度を落とす。そして、僕に向かって手を振る。降りればいいのかな。


 着地すると、騎馬隊全員が跪き、先頭を走っていた人が名乗る。


「私は、ツフェフレの防衛隊長をしております“ラッセ”と申します。ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下とお見受けいたしますが、如何いかに?」


「ああ、私がガイウス・ゲーニウスである。諸君らはなぜ此処ここへ?」


「はっ、町の南方に巨大な城塞が出現したとのほうを受け、威力偵察に出た次第であります。しかし、閣下があちらの方から飛んでこられたということは・・・。」


「うむ、私が出した。実はな、丁度、ユーソ殿に報告に行くところだったのだ。いらぬ心配をかけたな。申し訳ない。」


「いえ、ですが、あのような城塞を一瞬で出されるとは、魔法でしょうか?」


「まあ、魔法のたぐいだ。あまり、手の内は見せていないものでな、詳しくは説明できん。」


「はっ、不躾ぶしつけな質問、申し訳ありませんでした。」


「よい。職務に忠実で誠に結構。それでは、私は、このままユーソ殿の所へ向かうが、問題はあるかね。」


「いえ、御座いません。我々も帰投いたします。」


 ラッセさんに一歩近づき、小声でささやく。


「本当にすみませんでした。お騒がせして。」


「いえ、良い緊急出動の訓練となりました。」


「そう言って、いただくと助かります。それでは、僕はこれで。」


 そう言って、距離をとり、翼を広げて空に舞い上がる。そして、ざわつく人であふれる門まで飛び、上空から、大声で伝える。【風魔法】も使いみんなに聞こえるようにだ。


「ガイウス・ゲーニウス辺境伯である。衛兵隊長のバルブロ殿はおられるか。私が設置した城塞について、ユーソ殿に説明をしたい。」


 すると、バルブロさんが手を振りながら、


「閣下!!こちらに降りてきてください!!」


「承知した。」


 大きく旋回ながら着地する。バルブロさんが部下2人を連れて駆け足でやってくる。立礼をして、


「閣下。ありがとうございます。先程のお言葉のおかげで、皆を落ち着かせるができました。」


「いや、原因は私が出したあの城塞であろう?仕事を増やしてしまって申し訳なかった。」


「いえ、それでは、ユーソ様の執務室までご案内いたします。」


「よろしく頼む。」


 そして、ユーソさんの執務室のある行政庁舎まで、馬を借りてバルブロさんの先導で向かう。行政庁舎につき、受付の偉い人にバルブロさんが説明をすると、すぐに執務室に通された。ノックをすると、焦った声で「入ってくれ。」と返事があったので、「失礼する。」と兜を抱えた状態で室内に入る。中では、複数の武官と文官がてんやわんやしていた。僕に気付いたユーソさんが、


「これは、閣下。申し訳ありません。今現在立て込んでおりまして、街道と黒魔の森の間にいきなり城塞ができたのです。防衛隊長のラッセを中心とした威力偵察隊を出しましたが、報告はまだありません。帝国のモノだとしたら、援軍を頼まなければなりません。」


「あー、申し訳ない。ユーソ殿。あの城塞は私が出したのだ。」


 そう言ったら、部屋の中の全員が目を丸くして僕を見た。


「勇者殿?」誰かが言った。


「違う。フォルトゥナ様の使徒だ。」


 即答する。すると、誰からともなく長いため息をついた。いやあ、本当に申し訳ない。ユーソさんは、自分の椅子に深く腰掛け言った。


「失礼ながら閣下は人外じみたことをなさる。」


 真っ当な人間だよ。今の僕は。

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