第108話 崇められました

 僕が【リペア】の【能力】を使い、ゴームさんの失った手足を生やす。そして、【ヒール】をかけ火傷跡と傷跡を完全に消し去る。ゴームさんは信じられないモノを見るような目で僕と自分の手足を交互に見ている。


「ま、まさしく、フォルトゥナ様の使徒なのですね。このようなお力を、伝承にある“勇者様”や“聖女様”のみが使える回復魔法【リペア】。それに、その神々こうごうしい純白の翼。疑う余地などございません。そして、手足を元に戻していただいたのみならず、火傷跡なども治癒してくださり、誠にありがとうございます。」


 そう言うと平伏する。僕は困ったというような表情を作りながら、声をかける。


「立ってください。ゴームさん。僕は、この【ヒール】と【リペア】を此処にいる全員に使いたいと思います。ええ、全員です。奴隷の皆さんもです。そうすれば、5体満足の奴隷が戻ってくるわけですが、それでも、僕に金貨1枚で売ってくれますか?」


「ええ、ええ、もちろんですとも。ガイウス様に、このような素晴らしい能力があることを知らなかった自分の落ち度です。ガイウス様が気になさる必要はございません。もし、お譲りしないと言えば奴隷たちはこのままなのでしょうか?」


 いや、そんなことはしないよ。今、全員を治すって言ったばかりじゃない。


「いいえ、そんなことはしません。全員を治しますよ。そして、値上がりしようが買い取らせてもらいます。」


「お試しするようなことを言ってしまい申し訳ありません。ガイウス様はやはりフォルトゥナ様の使徒ですね。最初のお約束通り、26人全員を金貨1枚でお譲りします。」


 あー、試されていたのか。ま、なかなか難しいよね。力のある他人をすぐに信用するってのは。でも、僕って結構すぐに信用しちゃっているよなあ。今後は気を付けないといけないね。


「ありがとうございます。それでは、みなさん。まずは、皆さんの火傷跡に傷跡を【ヒール】で治します。その後は、お1人ずつ【リペア】で手足を元に戻します。それでは、まずは【エリアヒール】。」


 いつも通りの金色こんじきに輝く膜が下りてきて1人1人を包み込む。そのあとは、1人ずつに【リペア】をかけていく。まずは、御者さん、その後に奴隷たち。最後に、みんなをこんな状況に放り込んでしまった冒険者たち。順番に文句を言う人が1人もいなかったので、スムーズに【リペア】をかけることができたので良かった。


 最後の1人に【リペア】をかけ終わると、僕はみんなを見回して言った。


「今回の【リペア】の件は口外無用でお願いします。」


「なぜでしょう?ガイウス様が、フォルトゥナ様の使徒であることを知らしめる良い【能力】だと思うのですが。」ゴームさんが聞いてくる。


「【エリアヒール】みたいに他人も使えるようになれば、口外しても良いと思います。僕は、治癒師や医師、薬師になりたいわけではないのです。ただ、1人のガイウスという人間でありたいのです。」


「【エリアヒール】が使える人間が他にもいるのですか!?はっ!?確か、風の噂でアルムガルト辺境伯領のインシピットという町には【エリアヒール】使いが在籍していると聞きましたが、まさか・・・。」


「その、まさか、です。僕が講師として開いた講座を希望者に受講してもらいました。そして、受講者全員が【エリアヒール】を使えるようになりました。」


「歴史が動きますな。人々は回復薬などに頼らなくなるでしょう。」


「さあ、どうでしょう。案外、回復薬の需要は残ると思います。何しろ、今のところは【エリアヒール】を教えることができるのは、僕だけだからです。ま、この話しはここまでにしましょう。さて、みなさんを近くの町までお届けしなければなりませんね。近くで希望の町があれば言ってください。」


「それでは、恐縮ですがプライスラー子爵領のアルネバーの町へお願いします。」


 おっと、ここでその名前を聞くとはね。というかここって結構、北のほうだったんだ。ルプスの話しから、インシピットの近くだと勘違いしていたよ。だから、空からの捜索に時間がかったんだね。まあ、プライスラー子爵領とアルムガルト辺境伯領は隣同士だからね。アルムガルト辺境伯領があるおかげで、黒魔の森の影響を受けて無いと言ってもいいかもしれない。要は、アルムガルト辺境伯領が壁となっているわけだ。そりゃ、寄子よりこにもなるよね。


「わかりました。それでは、そちらまでみなさんをお送りしましょう。馬車などはこちらで準備します。それまでは、ここでお待ちください。」


 そう言って小屋から出た僕は、山積みになったコボルトの死体と討伐証明部位を【収納】した。1,274体いたみたいだ。うーん、倍の数相手にあんなに戦えるなんて、やっぱり地球人は人間離れしているね。ジョージもなんやかんやで活躍するし。


 さて、残った、小屋は【風魔法】で全て吹き飛ばして、壊した。そのあと、【土魔法】で穴を掘り、【風魔法】で瓦礫を全て集めて穴に落とし、【火魔法】で燃やし尽くした。ちなみに、財貨は結構あって、ゴームさんの物もあった。あとで渡しておかないとね。


 呂布たちには礼を言い、【送還】した。【送還】する前に、僕のゲーニウス領で領軍として働いてくれないか聞いたら、二つ返事で引き受けてくれた。やったね。ジョージも【送還】する際に力を貸してくれるか聞いたら、「もちろん。」と言ってくれた。いやあ、戦力が強化されていいね。


 さて、すっかり更地になった元コボルトの集落に、馬車を5台と馬はフリージアンを【召喚】した。フリージアンには【異種言語翻訳】で、1台以外は御者無しで馬車を曳いてもらうようにお願いした。そして、準備を整え、ゴームさん達を小屋の外に出す。


 そして、更地になった土地と、奪われた財に5台の馬車にそれを曳く立派なフリージアンを見て絶句していた。えー、そこは喜ぼうよ?え、無理?人外のレナータさんが言うならそうなんだろう。そんで、ゴームさん達、僕をあがめようとしないで!?

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