第87話 叙任式

 木曜日となった。今日は正式な叙任式だ。時間は午前10時から。お迎えが王城より来るそうだ。昨日の夕方、王城からの使者の人がアルムガルト辺境伯家のお屋敷まで、伝えに来てくれた。服装の指定などは無かったので、貴族様方が王城に登城する際の服装より、少し重厚感のある服装をメイドさん達が選んでくれた。髪も整え、準備万端。


 9時20分ごろに近衛騎兵とそれに護衛されるように王家の紋章入りの迎えの馬車が到着した。すぐに乗り込み王城へと向かう。道中、特に問題なく王城に着いた。馬車を下りてからは近衛兵の先導で控えの間に案内される。


 昨日、使った控え室とは違い、長机が部屋の真ん中にドンとあり、個人用のソファーが並んで何脚もある。その一つに座ると、部屋付きのメイドさんが紅茶を出してくれた。礼を言い、香りを楽しみながらゆっくりと味わう。うーん、茶葉の銘柄とかわかんないけど、なんかリラックスできるね。


 9時50分になると、近衛兵が「ご準備を」と言ってきたので、メイドさんにお願いして、身だしなみの最終チェックを行う。特に不備はないようだ。控えの間を出て、謁見の間の扉の前に立つ。緊張しているが、ガチガチにはなっていない。まあ、フォルトゥナ様と地球の神様の2柱の神様と直接に会っているわけだから、人間の国王陛下、しかも昨日も会った人ならそこまで緊張しないよねぇ。


 10時になったのだろう。扉の両側に立っている近衛兵が声を張り上げる。


「5級冒険者、ガイウス殿のご入場!!」


 それと、同時に扉が開く。昨日と同じように僕は赤絨毯の上を歩いて、2名の近衛兵が赤絨毯をはずれ両側を歩き、“カツン、カツン”と軍靴の音が響く。国王陛下の前まで来ると、両側の近衛兵は僕と対峙するように国王陛下と王妃様の両側に立つ。僕は片膝立ちとなりこうべを垂れ、国王陛下のお言葉を待つ。全くもって、昨日と同じやり取りだ。


 違うのは、今回は国王陛下から直接のお言葉が無い事かな。宰相様の言葉にのっとってに叙任式が進んでいく。


「これより、5級冒険者ガイウスに対しての叙任式を始める。国王陛下より、爵位が叙される。ガイウスよ。陛下のもとまで進むが良い。」


 言葉に従い、数歩前進し、また片膝を着きこうべを垂れる。


「5級冒険者ガイウスは、その年齢以上の功績を打ち立てた。よって、ここに王領であるナーノモン領を授け、辺境伯に叙する。また、家名をゲーニウスとし、ナーノモン領はゲーニウス領と改める。」


 宰相様がそう言うと、国王陛下が立ち上がり玉座のる壇上から下りてくるのがわかった。そして、宰相様をはじめとした貴族様方や武官たち、文官たちが動揺しているのが気配でわかる。また、進行に無いことをやろうとしているな国王陛下は。


「ガイウスよ。おもてを上げよ。」


「はっ!!」


 片膝のまま顔を上げると、目の前には笑顔の国王陛下。壇上にいらっしゃる王妃様は扇子で口元を覆っているけど、多分、笑っているのだろう。


「これが、辺境伯の証だ。どれ付けてやろう。立つがよい。」


 言葉に従い、国王陛下の前に立つ。陛下は侍従から胸に辺境伯の証である貴族証を受け取り、それを勲章のように左胸に着けてくださる。町の出入りで使う貴族証とは別のモノだ。それに、首にズシリと重い貴族証を掛けてくださる。これは、基本的に家に置いておくものらしい。


「お主の活躍に期待しておるぞ。」


「ご期待に沿えるよう努力いたします。」


「うむ。」


 国王陛下は頷き、僕の肩を“ポンポン”と叩くと、玉座に戻った。陛下が玉座に着くのを確認してから、宰相様が、


「以上にて、叙任式を終了する。ガイウス・ゲーニウス辺境伯は退室を。」


 僕は国王陛下に一礼してから回れ右をして扉に向かって歩く。途中で武官たちの列から視線を感じたので、目だけを動かして確認していると、目が合った武官がいた。アダーモさんに顔つきが似ていたので【鑑定】してみると、“クレート・ウベルティ”と出た。どうやらアダーモさんのお父さんのようだ。目礼をすると、相手も返してきてくれた。そして、僕はそのまま、謁見の間を後にした。


 謁見の間の扉が閉まると、文官さん達がやって来て、控えの間で手続きを始めた。まずは家名の登録。王領からゲーニウス領への変更。国軍の引き揚げ時期などなど、一番困ったのは家紋だ。

 紋章官さんがどのような家紋がいいか聞いてきたので、左横を向いたフルプレートアーマーの上半身にソードシールドを被せ、さらにソードシールドの上に籠手の指側を上にする状態でクロスさせ、その左側に剣を、右側に槍を配置して貰うようにした。出来上がった紋章は紋章入りの指輪と共に渡される。この指輪は封蝋ふうろうする際に封蝋印としても使用する。


 受け渡し場所は、アルムガルト辺境伯家の本邸にした。これは、クリスからの提案だった。これで、諸々の事務手続きは終わった。時刻は12時を過ぎて、13時になろうとしていた。早く屋敷に戻らないとアダーモさんが来ちゃうよ。みんなには知らせていたし、先触れも来ているだろうけど、当事者の僕がいないと話しが進まない。僕は急いで王城からアルムガルト辺境伯家のお屋敷へと戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る