第59話 初陣

 魔物と獣の違いは、簡単に言えば魔物は人を積極的に襲って喰らう。獣は人を襲うことはあるが積極的では無い。むしろ、熊などの大型動物以外は、人間を目にしたら逃げるモノの方が多い。だから、この状況は、どう判断すべきだろうか。ん?【気配察知】に小さな反応がある。目を凝らしてよく見ると、戦っているグレイウルフの後ろには、成獣のグレイウルフ1匹とその子供と思われる小さなグレイウルフが3匹いた。


 はぁ、こんなのに気付いたらやるしかない。寝覚めが悪くなる。他の3人も気づいたようだ。


「ガイウス殿、わたくしに任せてもらえませんか?」


「わかったよ。クリスティアーネ。知っていると思うけど、ロックウルフの毛皮は天然の鎧だ。気を付けて。もちろん危ないと思ったら、すぐ助けに入るからね。」


「わかりました。では、参ります!!」


 その言葉と同時にクリスティアーネは駆けだす。僕とローザさんとエミーリアさんの3人は、少し早歩きで後をついて行く。クリスティアーネがさやから両刃剣を引き抜きさらに速度を上げる。


 クリスティアーネが、今にもグレイウルフに跳びかかろうとするロックウルフの前に飛び出る。大口を開けながら跳びかかるロックウルフの口内に両刃剣を突き入れる。剣が脳まで達したのか、突かれたロックウルフは力無く地面に横たわる。まずは1体。


 急な乱入者に、混乱したのか一瞬の隙ができる。その隙を逃さず、クリスティアーネはもう1体の目に剣を突き立てる。これで、2体目。最後の3体目は、2体目を仕留めた彼女の後ろから襲い掛かったが、振り向きざまの勢いの乗ったシールドバッシュを喰らって体勢を大きく崩す。何とか四肢で着地したが、その目には深々と剣が刺し込まれていた。これで、3体全て殲滅だ。時間にして1分未満。初の実戦にしては十分な実力だと思う。


「さすがだよ、クリスティアーネ。」


 拍手をしながら、クリスティアーネに近づく。彼女は深呼吸を1回して笑顔を作りながら、


「上手くできたようで、良かったですわ。ロックウルフの不意を突けたのも良かったですね。」


「うん、上手くできてたよ。さて、グレイウルフはどうするかな?怪我をしているなら、【ヒール】でもかけてあげようか。」


「それなら、私がする。」


 エミーリアさんが【ヒール】をかけようと近づくと、グレイウルフはうなりを上げる。そこでクリスティアーネが近づき、落ち着かせようとすると、彼女に命を救ってもらったのが理解できているのか、大人しくなった。その隙に【ヒール】をエミーリアさんがかける。グレイウルフは、痛みが無くなったのに驚いているのか、キョトンとしていたがすぐにエミーリアさんの手を舐め始めた。彼女が治療したことを理解しているらしい。


 本では、グレイウルフは家族愛が強く、知性も高いと書いてあったけど、ホントだったんだねぇ。隠れていたつがいのグレイウルフとたちも出てきて、僕とローザさんは、なにもしていなかったけどクリスティアーネやエミーリアさんと同じ匂いがしていたのだろう。匂いを嗅いだ後は、モフモフさせてくれた。少しほっこりとした時間を過ごせた。


 30分ぐらいグレイウルフの家族に癒された後は、また、ロックウルフ探しに戻る。【気配察知】には、去っていくグレイウルフの家族とは別に、集団でこちらに急接近してくるモノを捉えている。ロックウルフの血の臭いに引き寄せられたかな。死体はすぐに偽装魔法袋に【収納】したんだけどなぁ。


 3人には、こちらに接近している集団がいて、移動速度的に5分以内には接敵する可能性が高いことを伝える。取り敢えず、僕とクリスティアーネが盾持ちだから、前に出て盾を構える。ローザさんはエミーリアさんの直掩ちょくえんだ。


 接敵までのカウントダウンを始める「60秒前。」木々のこすれる音が近づいてくる。「30秒前。」息遣いが聞こえてくるようだ。「20秒前」地面を蹴る音も聞こえてくる。「10秒前。」集団の先頭が見える。ロックウルフだ。背後でエミーリアさんが魔法の準備をしているのがわかる。


「5秒前、4、3、2、戦闘開始!!」言うと同時に、僕とクリスティアーネが、牙をいて跳びかかってきたロックウルフにシールドバッシュを喰らわせ、後続を巻き込ませながら吹き飛ばす。そして、エミーリアさんの【風魔法】のウィンドランスが、ロックウルフ達に直撃しては吹き飛ばしていく。


「ここからは、僕とクリスティアーネたち3人に分かれて、狩っていきます。確認できるだけで、50はいます。背後に気を付けてください。それでは、散開!!」

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