第57話 パーティ加入希望者

 結局、テスト試合は30秒で僕の勝ちとなった。観覧ブースからは割れんばかりの拍手と歓声が上がったけど、「化け物じゃねぇか・・・。」って言葉が聞こえたのは、ちょっとショックだ。まだ、化け物じゃないよ。ただ、チートを持っている12歳の一般人だよ。

 

 さて、練習場の待合室に戻ると、少し落ち込んでいる女性陣が3人と、その3人に声を掛けているユリアさんがいる。ふむ、なんて声を掛けようかな。


「みなさん、良い試合ができて良かったと思います。始める前は、僕の動きに反応できないのではと、思っていたのですが、上手く反応してくれて、リーダーとして安心しました。これなら、黒魔の森でも十分に活躍できるでしょう。これは、お世辞でも慰めでもありません。事実を言っているまでです。」


 そういうと、3人が顔を上げて僕を見る。少し涙目になっているのは、僕が試合中に怖がらせてしまったかな。


「ガイウスにそう言われると、まぁ、自信にはなるわね。前衛として、これからも努力するわ。」


「あんな簡単に魔法を無力化されるとは思っていなかったけど、いい経験になった。魔物相手には遅れは取らない。」


「あぁ、ガイウス殿。貴方あなたはどこまでも優しいのですね。我々が傷つかないように言葉を選んでくれる。嬉しいですわ。それと、貴方あなたが本気で戦う際の表情。素敵でしたわ。わたくしも“シュタールヴィレ”の一員として、今日から頑張らせていただきます。それと、みなさん今後はわたくしのことについて敬称も敬語も不要です。仲間なのですから。ただ、公式の場ではきちんとしていただくことには変わりはありませんが。」


「わかったよ。クリスティアーネ。さて、今日はこれから黒魔の森で、実戦を経験してもらおうと思うのだけど、大丈夫かな?」


「大丈夫ですわ。」


「よし、それでは、受付に・・・の前に、アンスガーさんにきちんと報告しないとね。クリスティアーネが“シュタールヴィレ”に加入したということを。ユリアさん、申し訳ありませんが、アンスガーさんに取り次いでもらえますか?」


「ええ、大丈夫ですよ。受付前の待合室で待っていてください。もしかすると、昨日のことが恐くて拒否するかもしれませんね。」


「その時は、「2回目はどこにしましょうか?リペアも使えますから、指先から輪切りにします?」とガイウスが言っていたと伝えてください。」


「フフ、わかりました。それでは、私は一旦ここで失礼しますね。」


 そう言って、ユリアさんが練習場待合室から出て行く。


「さて、みなさん、立てそうですか?腰が抜けて立てないとかなら、まだ待ちますけど。」


「「「大丈夫(です。)」」」


「では、受付の方へ行きましょう。」


 そう言って、“シュタールヴィレ”のみんなで受付の待合室まで向かう。依頼クエスト掲示板には、まだ沢山の冒険者が群がって、依頼クエスト吟味ぎんみをしている。それを、横目に見ながら、今日はどのくらいまで森の中に潜ろうかと考えていると、


「よぉ、ガイウス。今回は、また派手にやったじゃないか。」


 アントンさんが声をかけてきた。


「どうしたんです。アントンさん。また、勝負したいとか言わないで下さいよ。」


「言わないさ。実はな、今日はお願いがあって来たんだ。」


「ん?なんですか?できる範囲なら、大丈夫ですよ。」


「そうか。んじゃ、率直に言うな。俺を“シュタールヴィレ”に入れてほしい。頼む。」


 そうアントンさんが言って頭を下げた瞬間、その言葉が聞こえていた人たちが固まる。もちろん、僕も。


「えっと、アントンさんは準3級でしたよね。“シュタールヴィレ”のパーティメンバーは、6級が3人と今日登録したばかりの10級が1人ですよ。こんな、弱小パーティでなくともアントンさんなら引く手数多あまただと思うんですけど。」


「いや、級というのは、結局はギルドのもうけた枠だ。今日のお前さん達の試合を見ていて思った。その枠に収まらない強者がいるということを。実際に、ガイウス。10級になりたてのお前さんは俺に勝った。ギルドマスターとサブギルドマスターにもだ。さらには、辺境伯騎士団の選抜隊にも勝ち、ゴブリンキングは単独で討伐。オークロードもパーティで討伐となっているが、討ったのはお前さんだろう?そんな、強者が引き連れたパーティに入りたいと思うのは、自然なことだと思うがね。」


「えーっと、加入してくれるというのは凄くありがたいんですが、今日は、加入したばかりのクリスティアーネ様がいるので、また、次回という事でもいいですか?」


「ん、ギルドマスターの姪っ子さん。次期辺境伯様のご令嬢ですか。これは、失礼しました。準3級冒険者のアントンといいます。今はソロで活動しております。」


「アントン殿、そうかしこまらないでください。わたくしは、冒険者の1人として此処ここにいますので。」


「わかりました。それじゃあな、ガイウス。返事はまた聞かせてくれ。」


 そう言ってアントンさんは依頼クエスト掲示板に向かって行き、さっさと依頼クエストを決めて、受付をすまし出ていった。僕はそれをポカーンとした表情で見ていた。


 しばらくして、ユリアさんが来てアンスガーさんと会えることになった。このことを相談してみるのもいいかもね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る