第56話 新メンバー加入

 冒険者生活5日目の朝は、なんというか気怠けだるい感じだ。まぁ、昨晩あんなことがあったわけだから、グースカと安眠することはできなかった。なにせ、今日からは“シュタールヴィレ”にクリスティアーネ様を迎えることになるからだ。億が一にでも、彼女に何かあったらことだ。


 今日も、黒魔の森に行くことになるだろうけど、その前に、クリスティアーネ様の実力を見たい気持ちもある。僕は、そのことを朝食の席で、ローザさんとエミーリアさんに提案した。2人とも賛同してくれた。数値は立派だったけど、実際に戦えるかどうかは別だもんね。


 というわけで、やってまいりました冒険者ギルド。扉を開けて入ると、視線が集まるが一瞬でらされる。ふむ、なんか着実に恐怖の対象みたいになっているね。僕。ま、いいか。さてさて、クリスティアーネ様はどこに・・・。あ。


 うん、わかってた。護衛の騎士たちが、クリスティアーネ様を守ろうと、壁を作っているだろうことぐらい。でもさ、昨日と比べて、かなりの重装備なんだけど!?フルプレートアーマーに大盾、それに馬上突撃用の長大な槍。腰には長剣。場違いもいいところだよぉ。


 とりあえず、護衛隊長さんに話しをして、宿までは僕たち“シュタールヴィレ”が護衛することにして、この物々ものものしい部隊に撤収してもらうことにした。そしたら、騎士の人たちは、みんなギルドに登録しているようで、訓練代わりと言って、依頼クエストを受けて、出て行った。


 さて、ようやくクリスティアーネ様と僕たち3人となった。まずは挨拶を、


「おはようございます。クリスティアーネ様。お待たせしてしまったようで、申し訳ありませんでした。戦装束いくさしょうぞくもお似合いですね。」


「いえ、わたくしが待ちきれずに、早く来てしまっただけですわ。ガイウス殿と一緒に冒険できるなんて、素敵なことでしょう?楽しみで、楽しみで。あっ、冒険者登録は既に済ませました。ユリア殿から冒険者証もいただきましたわ。」


「そんなに期待されると困るのですが・・・。実は、クリスティアーネ様には、テストを受けていただきます。まぁ、どの程度、動くことができるのか確認をさせてもらうだけですので、30分もかからないと思いますよ。」


「それでは、練習場を使いますね。私の方で手続き処理と審判役をしましょうか?」


 おっと、ユリアさんに話の内容が聞こえてみたいだ。ここは、言葉に甘えようかな。


「ユリアさん、おはようございます。先程の件お願いします。」


「はい、おはようございます。任されました。それでは、練習場の方へ。」


 そういうわけで、やってきましたお馴染みの練習場。テストの試験官役をローザさんとエミーリアさんが買って出てくれたけど、今回はクリスティアーネ様と組んでもらう。それで、試験官役の僕は今回、一切の手加減をしない。もちろん、寸止めはするけど、本気でやる。チート全開でやらせてもらう。そうして、僕の本当の実力を体感してもらうんだ。


 クリスティアーネ様とエミーリアさんには、本気で魔法を撃つように言ってある。ローザさんには寸止め不要と伝えてある。3人とも最初は反対していたけど、「そうでもしないと僕には勝てない」と言ったら、目つきが変わった。


 さて、準備を終え練習場に出る。彼我の距離は100m。そして、観覧ブースはいつものごとく満員御礼だ。あ、少し顔色が悪いアンスガーさんとアラムさん、アントンさんもいる。アンスガーさんには、あとで昨晩の件を再度、後悔してもらおうかな。


 そんなことを考えていると、ユリアさんが練習場の真ん中に歩み出て、手を高く掲げる。そして、


「それでは、“シュタールヴィレ”の練習試合、始め!!」


 手を振り下ろす。同時に僕は本気で駆ける。さっきまで僕がいたところに【火魔法】と【風魔法】が撃ち込まれる。すでに彼我の距離は50mを切った。そこで、僕は【風魔法】による補助を受けながら跳ぶ。今度は、僕の着地地点を狙った【火魔法】が2つ撃ち込まれる。


 【魔力封入】で木剣に魔力を込め魔法剣にする。2つの【火魔法】が着弾する前に、魔法剣で切り裂く。3人の驚愕の表情が見える。でも、まだここからだ。まずは、前衛のローザさんと見せかけ、後衛のエミーリアさんに一気に接近する。恐怖に染まった顔が見える。あぁ、僕は今、嗤っているのか・・・。下衆げすだな。自分でも嫌になる。


 それでも、テスト試合は進んでいる。エミーリアさんの喉元に、木剣の切っ先を突きつける。「エミーリア退場!!」ユリアさんの声が響く。エミーリアさんは腰が抜けたのか、その場にへたり込んだ。


 さて、次はローザさんだ。さっきの衝撃から立ち直り、すでに剣を振りかぶって一撃をいれようとしている。普通の冒険者なら速い斬撃なんだろうけど、本気の僕には、遅く感じる。体もそれに反応してくれる。振り下ろされる前に、接近し柄頭つかがしらを掌底で打ち抜く。それによって、強く握られていたであろう木剣は、遠くへと飛んでいった。「えっ」という顔をする、ローザさんの頸動脈に木剣を添える。


 「ローザ退場!!」ユリアさんの声が再度響く。ローザさんは驚きのあまり、動けないようだった。振りかぶった姿勢のまま固まっている。ここまで20秒もかかっていない。さて、最後はいとしいいとしいクリスティアーネ様だ。僕は嗤いながら言う。


「行きますよ。クリスティアーネ様。貴女あなたの全力を僕に見せてください。」


 恐怖と期待、歓喜の混じった何とも言えない表情をしている。あぁ、本当にいとおしい、もっと、貴女あなたの表情を見ていたい。そんな欲求に駆られる。でもこれは、テストだ。僕は笑みを深めながら、クリスティアーネ様に本気の慈悲無き一撃をいれるために動くのだった。

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