第35話 治療のお時間です

 さて、【リペア】というのを覚えたはいいが、どう使うのかな?どこかで試してみたいな、と思っていると、竜騎士ドラグーンのコンラート団長たちが、自分の愛竜のところで剣を抜いて何かをしようとしていた。


 何をするんだろうと思っていると、コンラート団長は竜の首目掛けて剣を振り下ろそうとしている。


「なにをしているんですか!!」

 

 と叫び急いでそれを止めに入る。振り下ろされた長剣を籠手で受け止める。ギリギリ間に合ったようだ。彼は驚いているが、驚いているのは僕もだよ。なんで、竜たちをあやめようとしていたんだろう。


「なんで、こんなことをするんですか。」


「彼らは君に翼を切り裂かれた。もう竜として飛ぶことはできない。だから、ここで楽にしてあげようと思ってね。」


 なんと、僕のせいだったとは。どうにかして、竜たちの命を助けたいが、どうすれば・・・。そういえば、さっき覚えたばかりの【リペア】。【ヒール】を使っているときに取得したんだから、治癒系の魔法に違いない。何もしないよりもせっかくだから試してみよう。


「すみません。僕、試させてほしい治癒系の魔法があるんです。それを竜に使っても構いませんか?」


「【ヒール】ではなくてかい。それは構わないが・・・。」


「それじゃあ、部下の方々にも竜を楽にさせるのは待たせてください。では、いきます。【リペア】。」


 すると、竜の切り裂かれた翼が、傷口から新たに生えてきて、数分もしないうちに元通りになった。コンラート団長は、驚き、その後は、笑顔になり僕の手をとりブンブンと振った。


「ありがとう。ガイウス殿。貴殿のおかげで相棒を死に追いやらずにすんだ。本当にありがとう。図々しいようだが、魔力に余力があるならば残りの竜たちも治してくれないだろうか。今の光景は全員が見ている。」


「もちろん、そのつもりですよ。ただ、コンラート団長も一緒に回ってください。そのほうが、騎士の方々も安心するでしょうから。」


 そうして、僕は竜たちの翼を治していった。治すたびに騎士からは感謝の言葉をもらった。元々は、僕がつけた傷だというのに。そのことをある騎士とコンラート団長に言うと、2人とも、


「真剣勝負だったのだから、当たり前だ。気にすることは無い。それに、君は命を懸けていた。我々もそれぐらいの気概を持って勝負に当たっていた。大きな声では言えないが、今回のこの状況を作り出した元凶は、君の実力を見誤った辺境伯様だ。繰り返すが、君が気にすることは無い。」


「団長の言う通りだ。それに君との戦いは久しぶりに心が躍った。今度、普通に木製武器を用いた真剣勝負をしたいものだよ。」


 と言ってくれた。でも、大きな声で無いとはいえ周囲に聞こえる環境で、辺境伯様のことをそんな風に言って、コンラート団長は大丈夫なのだろうか。僕のそんな考えが顔に出たのか、コンラート団長は笑いながら、


「これでもバウマン侯爵家の次男なんだ。辺境伯様とは、親しくさせていただいているから大丈夫だよ。よく、作戦の立案とかでも言い合いになるからね。」


「家名持ちの方でしたので、貴族様とは思っておりましたが、バウマン侯爵様のご次男様とは知らず、無礼な口をききまして申し訳ございません。」


「あぁ、そういう堅苦しいのは無しだよ。私は1人の戦士として君を気に入った。もし、冒険者稼業に嫌気がさしたら、私の元に来るといい。そのとき私がどこに居るかはわからないが、厚遇するよ。」


 そう肩を叩き言ってくれた。僕も笑顔で「そのときはお願いします。」と答えた。


 すべての竜を治し終えると、今度は馬の治癒を行なった。騎馬騎士たちも愛馬を【ヒール】で治すとお礼の言葉を述べ、最初に侮った発言をしたことを謝罪してくれた。歩兵部隊の兵士たちを【ヒール】で治そうと近づくと、みんな後退(あとずさ)る。どうも、変に恐怖を植え付けてしまったらしい。


 すると、コンラート団長がやってきて、「模擬戦は既に終わったのだから、ガイウス殿はもう敵ではない。我々、騎士や竜、馬の傷も彼が治してくれた。大人しく治療されたらどうだ。」と言ってくれたので、【ヒール】をかける作業が捗った。その間、コンラート団長は、僕の後ろで腕を組んで立っていたけど。彼の圧にみんなが屈したわけではないと信じたい。

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