第60話 勇者、卵を守る



「こんな力を隠してたの、カーライル?」

「隠してたわけじゃないんだけどな……まぁ、パーティは連携が大事だろ? だから今まで、俺が出しゃばるような事はしてなかったんだ」


 特に、ルインとムオルナが目立ちたそうだったからな。

 俺は影でサポートしたり、魔物の隙を作ったりする事に専念してた。

 ……おかげで、調子に乗ったルインが自分は勇者だとか、よくわからない事を言い出したようだけどな。


「私達、必要無かったなのよ?」

「そんな事は無いぞ? パーティで行動してる時は、結構楽しかったからな」

「役に立ってるわけじゃなかったなのよ!」


 一人で行動するのは、孤独だからな。

 追放されて一人になった事で、特に思い知ったが……俺は誰かがいてくれる状況が好きらしい。

 認めたくないが、フランという部下を持って、無理矢理にでも付いて来てくれるのは、結構嬉しかったりする……絶対、フランには言わないがな。


「そんな事より卵だ。奥に行くぞ」

「……そうね。カーライルがどれだけ強いのかは、後で聞きましょう」

「他にサラマンダーはいるなのよ?」

「サラちゃん……」


 フランだけ、気絶したサラちゃんを、かわいそうなものを見る目で見ているが……死んでないからな?

 と言うか、サラちゃんって言うのが気に入っただけだろ。



「これが卵か……初めて見たな」

「こんなに大きかったのね?」

「茹でたら美味しそうなのよ」

「食うなよ?」

「1個持って帰ってペットにしたいですねー」


 それは止めろフラン。

 サラちゃんが転がって、気絶している場所から奥へ行くと、すぐにデカい卵が数十個並んでいる場所を見つけた。

 卵は、人間よりも大きく丸々としていて、確かにマイアが言うように、茹でたら美味しいだろうと思える程、ツヤツヤしている。

 守るために来たから、食べるのはご法度だがな。


「さて、ここでしばらく見張りだな。サラマンダーが近づいて来たら対処しないと……」

「倒せばいいの?」

「いや、今回の目的はサラマンダーの数を減らさない事だからな。サラちゃんの時と同じように気絶させる」

「そんな事、カーライルしかできないなのよ?」

「……それなら、近づいて来たら教えてくれ」


 そう言って、卵の近くに陣取って座る。

 約1日とアルベーリが言っていたから、ずっと立ってるわけにもいかないしな。

 リィムとマイアは、俺の言葉に頷いて別々の場所に座った。

 もちろん警戒は解いていない、サラマンダーが近づいて来たらわかるようにだ。

 フランは……ん? 何してんだこいつ?


「おい、フラン。卵に妙な事は止めろ」


 一人卵に近付いて、触れたり撫でたりしている。


「妙な事とは何ですか。睡眠学習をさせてるんですよ?」

「睡眠学習?」


 卵は寝てるんじゃなくて、卵の中で成長してる途中なんだがな……。


「こうしていれば、卵が孵った時、私をお母さんだと思うかもしれないじゃないですか!」

「刷り込みを狙ってるのか? しかし、そんな事をしてどうするんだ?」


 刷り込みは、卵から孵って初めて見た相手を親だと思う事だ……詳しくは色々と条件だとかがあるみたいだが……。

 サラマンダーに、その刷り込みがあるかどうかは知らないが、卵状態の時に触っても関係無いと思うぞ?


「サラマンダーを育てれば、炎袋が取り放題! そうすれば、お金も儲かります!」

「また金稼ぎか……」

「稼げるなのよ!?」


 フランの言葉に、守銭奴人間代表のマイアが反応してしまった。

 お金の事になると、色々うるさいんだよなぁ……。


「炎袋は私の給料1年分より高く売れますからね! ガッポガッポですよ!」

「それは凄いなのよ! 私もやるなのよ!」

「マイアは相変わらず、お金の話に弱いのね……」

「それでルインに乗せられたんだろうに……この癖は治す気がないな」


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