第133話 「ラビット庄へようこそ!」
そうして馬車に揺られ揺られ。
ラビット達の本拠地、西境村へと到着した。
「西境村、通称ラビット
「へえ」
村を眺めると、小さな丘が連綿と連なり、そのひとつひとつが家になっている。
丘の脇が垂直に削られ、そこにじかに丸扉がはめ込まれている。
こうしてラビット族は半地下を家として生活しているそうだ。
ウサギも地下だし、指輪
いろいろ共通点があるな。
小さな池のほとりではぎっこぎっこと水車がまわり、粉を挽いている。
すぐそばの小さな広場に隣接して、平らな一階建ての酒場が。
なんだかのんびりとした空気だ。
「アレがエラノール地区の目印よ」
カシスが指差す先には、丘のむこうの高い塔。
装飾のない素朴な、黄土色の塔である。
「美しき髪の塔とか呼ばれているわ」
「ラプンツェル?」
「さあ……わかんないけど」
かなり質素で、田舎臭い。
逆にほっこりとした安心感がある。
そうだな、さっそくあそこに……、
「まずは村長に挨拶ね」
「ああそうか」
そうだね。
この中世世界。
挨拶や礼儀はとても大事なのだ。
それはニンジャの世界でもこの世界でも変わらない
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金髪を短く刈り込んだ少年。
彼がこのラビット庄、西境村の村長さんである。
歳は見た目ではわからない。
「やあやあ! 妹、カンパネラはどうしていたかね!」
「元気でしたよ!」
「それはいい! じつに朗報だ!」
彼はなんとカンパネラ船長の
名はアスターといい、妹と同じく快活な性格だった。
「ではではご客人、どうかどうか心ゆくまでこの田舎を楽しむとよい!」
パイプをくゆらせ、ヤシシと笑う村長どの。
不思議とそのタバコの匂いは、甘く優しい芳香がした。
彼からも同じ雰囲気がただよう。
であるなら、彼には打ち明けてもいいだろう。
そんな直感があった。
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「……そうか」
「ええ」
「それは、辛かったろうな」
「そうですね」
パイプを片手に、暖炉の前で村長と語らう。
となりには同じまれびとであるカシスの姿。
彼女も、ゆっくりと紅茶をすすっている。
「師匠どの。君はこのフローレス島の習わしを、いずれは大陸の常識にしたいと」
「そこまでいかなくても、まれびと狩りなんてものがなくなればそれで」
「ふうむ」
ぽすぽすと、パイプに新たな葉っぱを追加するアスター氏。
ちなみに彼も見た目は幼い少年にしか見えない。
しかし、明らかに俺より年長者だとわかる風格がある。
「それはな、とてもとても難しいぞ」
「……そうですか」
「だからこそな、私は君たちを応援しよう」
「ありがとうございます」
「なになに。君ら
ヤシシと笑う村長。
暖炉の火がばちりと爆ぜる。
カシスも静かにその火を眺めている。
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そのまま村長宅のお世話になり。
……夜にこっそり抜け出して、イリムとしっぽりとかはあったけど。
そうして次の日、まれびと地区たるエラノール地区へと訪れた。
ここへはカシスとふたりでだ。
……異世界人は、不要なトラブルを招くことがあると。
記憶のフラッシュバックに襲われる人もいる。
まあ致し方ないだろう。
大きくて素朴な塔から先では、見知った顔にたくさん出会えた。
アレだ。
まあ平たい顔族だ。
もちろんちらほらと外人さんもいたが。
圧倒的に多数は日本人だった。
なぜなのだろうか。
今の時点では判断材料に乏しく、仮説すら立てられない。
「私がこのエラノール地区代表のサトウと申します」
「どうも」
「カシスです」
まれびと同士、挨拶をかわす。
サトウさん……アレか。
日本人名字ランキングトップの方か。
ちなみにレア名字で言うと、中学の同級生に
もちろんそいつは小太刀二刀流だの回天剣舞だの呼ばれていた。
……それから。
最初はさぐるようにゆっくりと。
だんだんと大胆に。
まれびと同士の話は咲きに咲いた。
「はあー、フロムの最新作ですか」
「舞台は戦国時代ですね」
「なんと、むちゃくちゃ意外ですねぇ!」
「難易度もめっちゃ上がってましたけどね……」
「ハードは5ですか?」
「いや、まだ4です」
サトウさんも十分ゲーマーだった。
カシスはどうやらムズゲーはやらないらしく蚊帳の外だ。
「あのさ、あれは?」
「うん?」
「ユグドラシルとかでてくる、フェイスチャットが画期的だったアレよ!」
「オマエの例えはいちいち古いよな……」
「なによ!」
こいつはホントに俺より年下なのだろうか?
今までのこいつと交わしたオタ話でも、カシスは古めのゲームをあげることが多かった。
俺より昔から転移してきたのかと一時は疑ったが、ちゃっかり有名スマホゲーは知っていたので、そういうわけでもない。
「あのさカシス」
「なに?」
「実は中身おっさんの転生でJKになっちゃったぜウヘヘとか……」
ドボグシャアアアアアアアア!
俺の腹に容赦のないボディブローがかまされた!!
ちなみに今の擬音に誇張はまったくない。
マジでまったくないのだ。
「ぐふうぅぅぅっ!!」
ゴロゴロと地面をたっぷり3mは転がった。
「そろそろアンタのエラーマイレージがカンストするわよ」
「溜まり切るとどうなるんです?」
楽しそうに突っ込むサトウさん。
「奇跡がおこるわ」
「素晴らしいですね!」
14キロのストロング飲料か。
文学かよ。
体をくの字に曲げつつなんとか立ち上がる。
そうした俺にサトウさんが歩み寄る。
「師匠さん……彼女はイイですね」
「はい?」
「僕はですね、好きなんですよ」
「なにがです?」
「ああいう、ひと昔まえの暴力系ラノベヒロインが!」
「叫ぶなよ突然、耳がキーンとしたわ!!」
「できることなら、彼女に蹴られる私でありたい!」
「なんだよそれ」
「ほむほむのですね、名言でしてね」
「いやもういいから!」
くそぅ、なんだか知らんが偶然か必然か。
ここに居るまれびとはオタクが多いような気がしてならない。
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