第154話

 女神の剣や聖剣ガンドゥーリルと切り結んでも刃こぼれしない剣なんて初めて見た。盾の方は流石に傷がついていたが、切り裂かれていないというのはやはり普通じゃない。

 オクトゴーレムはボスっぽかったものの宝箱は無し。一応部屋の中は隅々まで調べてみた。特に何もなく、闘技場のようだと思った最初の印象通りの部屋だった。


 そうやって回収も部屋の確認も終えたが、オクトゴーレムの部屋の前の安全地帯は何となく落ち着かなかったので、いつもの中間地点の安全地帯まで俺達は戻った。

 そこでキャンプを張って皆で少し豪華な食事を摂りながら話す。

「銘は無いけど、鑑定で見える名前は共通していて『ヴォルメイスの剣』と『ヴォルメイスの盾』ってことみたい。ヴォルメイスって聞いたことある?」


「ヴォルメイス…?」

「「……」」

 全員首を横に振った。もちろん俺も知らない。


 スウェーガルニに戻ったらフレイヤさんとベルディッシュさんに見てもらおうということになった。アダマンタイトの事もあるし。



 さて、今回のダンジョン探索はこれで終了。当初の目的通りに心残りだった第9階層の探索を進め、その結果サブボス部屋みたいなものを発見してオクトゴーレムという強敵を討伐したことで結構達成感を感じている。

 翌朝から全力で上の階層へ。第6階層の安全地帯で一泊。その翌日には地上まで強行軍で上がった。バステフマークは連携訓練を兼ねたミノタウロス狩りは終えて、既に引き上げているようだった。


 今回の探索でもガスランとニーナ、そしてエリーゼもレベルが上がっている。俺もオクトゴーレムとの戦いで久しぶりに上がった。またもや全員ステータスが爆々上がりである。


 ダンジョンフロントからスウェーガルニの街区に戻って、ギルドで今回の成果の買取査定をしてもらう。大量のミノタウロスやミノタウロスキングなどは解体倉庫に、ゴーレムの魔石についてはオクトゴーレムのと手持ちにしておく分は出さないが、それでもかなりの量を出した。

 その後すぐにフレイヤさんにダンジョンの変わってしまった出現構成やオクトゴーレムについて報告。そして、アダマンタイトの扱いについて相談する為に切り落とした腕の一本をギルドマスター室で出して見せると、フレイヤさんは頭を抱えた。

「シュン君達がする事、もう何が有っても驚かないつもりだったけど…。これもかなり強烈ね」


 超レアだと話には聞いていたが、アダマンタイトは極々稀にインゴットとしてダンジョンで発見されるだけらしい。しかもそのインゴットは大きくは無い。

「王国では5年ぐらい前にドリスダンジョンで出たインゴットが最後だと思うわ」

「それはどうなったんですか?」

 と、エリーゼが質問。


「王家が買い取って剣にしたはずよ。現国王が帯剣しているのがそれだという話。抜いて見せることはほとんど無いけど」

 俺は最も気になってることを尋ねる。

「ということは、王国でも加工は出来るんですね」


 フレイヤさんは頷いた。

「大丈夫よ。同じ魔金属のミスリル同様に方法は確立されてるわ。誰でもという訳にはいかないでしょうけど」


 ベルディッシュさんが出来るといいんだけどな…。


 アダマンタイトは単純に世界で最も硬い金属というだけではなく、武器の材料として使うとしなやかさが出てくるという。アダマンタイトで武器を作るなら最適なのはやはり長剣だろうと、フレイヤさんはそう言った。

 通常ダンジョンで発見されるのはそれほど大きくないインゴットなので、一つのインゴットからはせいぜい長剣一つと短剣一つ程度しか作れない。今回のオクトゴーレムの大きさは、それと比べると破格すぎる。剣が何十本作れるだろうか…。

 ちなみに俺達は売るつもりは全く無い。アダマンタイトもヴォルメイスの剣と盾も。


「まずは、エリーゼとニーナの剣を作ろうと思います。あとはまだ考えてないですけど。まあ皆の意見も聞いてからですね」

 そこですかさずニーナが言う。

「ヴォルメイスはどうする?」

「もちろんあれをニーナ達が使ってもいいんだけど、二人には少し大きすぎるだろ」

「確かに…」

「使いこなすのは、ちょっとすぐには難しいかも」

 エリーゼはダンジョンで結構長い時間ヴォルメイスの剣を振って感触を確かめていたが、首を傾げるばかりだった。


 俺は1本は自分用にしようと考えてる。二刀流で戦う時、左手はいつも市販の剣を使ってて心許なかったんだよね。ガスランはレプリカがあるから、まあ好きにさせようと思ってる。大きさも重さも俺とガスランには問題ない。


 おっと、フレイヤさんが疑問符だらけになって話に付いて来れていない。話してないから当たり前か。

「あ、すみません。実はそのオクトゴーレムが使ってた剣と盾がかなり特殊なものだったので、それも持って帰って来てるんですよ」



 ◇◇◇



 フレイヤさんもヴォルメイスという言葉には心当たりがないと言う。


 その後、ベルディッシュさんの店に行って話をしたら、ベルディッシュさんは眉を顰めて懸命に何かを思い出そうとし始めた。

「ヴォルメイス…? うーん…。聞き覚えがあるような…」

「本当ですか!」

「ちょっと待て。少し時間をくれ…」


 そこでニーナが言う。

「それよりも見てもらいましょ」


 それもそうかと剣と盾を収納から取り出した。それを見たベルディッシュさんは口をあんぐりと開けて固まった。

「これは…」


 俺は経緯を説明。

 ベルディッシュさんは詳しく調べてみたいからしばらく剣と盾を預けてくれないかと言った。

 メンテと言うか、綺麗にして貰ったりはしてもらうつもりだったので、俺は剣も盾も全てを出した。

「もう少しで思い出せそうなんだがな…。まあ期待せずに待っててくれ」

「はい。俺達も調べてみますから、メンテの方お願いします」

「ああ、磨く程度になりそうだけどな。ガスランの剣と同じように」


 そして、こっちの方が驚かせるだろうと思ったアダマンタイトについての話を始める。実物も見せながら。


 予想通りまたもやかなり驚かせてしまったが、結論から言うとベルディッシュさんはアダマンタイトを扱えるそうだ。ベルディッシュさんの師匠が扱った時にその作業を手伝ったらしい。

「生きてる間にもう一度アダマンタイトを扱えるとは思わなかった」

 ベルディッシュさんはしみじみとオクトゴーレムの一部を見ながらそう言った。


「俺素人だから変なこと言うかもですけど、インゴットじゃなくてもいけるものなんですか」

「このゴーレムの状態で言うなら、むしろインゴットよりいいぞ」

「へ? そういうものなんですか」

「まあ任せておけ。いい物作ってやる」


 ニーナとエリーゼが最も扱いやすい長さや重さなどなど。今使ってる剣や店にある剣を幾つも振らせてみたり、かなりの時間をかけて決めて行った。取り敢えず一本ずつ作ってみるとのこと。アダマンタイトはかなりの量があるし、いずれにしても予備もあった方が良いだろう。


 そして、その日は防具の強化が残りの1セットずつも仕上がっているとのことでそれは受け取って帰った。ちなみに、防具の強化としては魔法防御が付いたことと、従来の物より防御力が2倍アップ(当社比)だそうだ。各パーツ随所にドレマラークの鱗が使われている状態だが、色合いや見た目に以前とほとんど違いはない。まあ、作り直しに近かったみたいだけど。



 ◇◇◇



 さて、そういう訳で恒例の訓練である。今回もまたステータスアップが大きかった割には皆すぐに馴染んできているようではある。しかしオクトゴーレムの強さを肌で感じた三人は気合が違う。そう言う俺も少し自分なりに特訓はするつもり。


 アトランセルに行くのは剣が出来上がるのを待つことにしている。それはニーナの要望もあったから。ニーナにはデルレイス殿下という兄ともう一人姉がいる。そのニーナの姉は騎士団の副団長を務めていて、第一騎士団。軍人としては超エリート。

「姉上にも一本作ってあげたい」

 遠慮がちにそう言ってきたニーナには、

「全然かまわないよ」

「いい考えだ…」

 と、皆が問題なしという反応。


「いや、短剣とセットで作ってあげたらいいよ」

 俺はそう言った。


 サイズ的なものはニーナが分かっていて問題ないそうなので早速ベルディッシュさんに相談したら喜んでいた。騎士団副団長に使って貰える剣を作れるのは鍛冶師として名誉だと。



 数日後、またもや品薄という話をギルドで聞いたこともあり俺はエリーゼと一緒に薬草採取に出かけた。スウェーガルニのポーション需要の高さは相変わらずで、商業ギルドも冒険者ギルドも原料となる薬草の買取価格を高くして対応しようとしているが間に合っていない状況だ。まあ、本音を言うと二人でピクニック気分なのも半分ぐらいあるんだけどね。


「薬草の生えてるとこ変わってないかな…」

 少し心配そうにそんなことを言うエリーゼと二人でスウェーガルニ近隣の山野を歩いた。

 以前と同じ場所で薬草を見つけるとエリーゼはニッコリ微笑む。二人で採取しながら、草原を吹く風が気持ちよくて静かで穏やかな空気を満喫した。

「二人で毎日採取してたのを思い出すな」

「うん、楽しかった…。シュンは変なことばかり言ってたし。デンキとかセキユとかブツリホーソクとか」

「だって、あの頃はこの世界のこと何も知らなかったんだよ」

「ううん、それがとても可愛かったの」

「……」


 二人で心地よい風が吹くその草原で弁当を食べて、採取を再開。

 以前は行ってなかった辺りでそこそこの薬草群生地を発見して二人で大喜び。

 日が暮れる頃には、一度の採取量としてはまたもや記録更新かと思えるほどに採取できていた。俺とエリーゼにとってはいいリフレッシュにもなった。



 そのまた数日後、ベルディッシュさんの工房に俺とエリーゼとニーナは籠っていた。アダマンタイト製の剣の評価の為。

 剣を振るだけの俺は少し飽きてしまっているが、エリーゼ達と一緒に試し切りをする。エリーゼもニーナもバランスや握り具合、切れ味など要望を出してはまた親父さんは調整をする。そうやって試作品として形になっていく。


 その一週間後、エリーゼとニーナの新しい剣がやっと完成した。ニーナの姉さんの為の剣と短剣も。

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