第100話
バステフマークの三人と久しぶりに会う。何か月ぶりだろうか。フレイヤさんによると、混雑気味のスウェーガルニダンジョンを嫌って逆に人が少なくなったドリスティークダンジョンの方へ行っていたらしい。
「あっ! シュンとエリーゼだ!」
「おっ、シュン達か」
「久しぶりだね、二人とも元気そうだ」
「「お久しぶりです~」」
飛び込んできたシャーリーさんを受け止めた俺は、そのまま三人からくしゃくしゃにされる。セイシェリスさんはエリーゼの頭も撫でている。
「シュンに会いたかったぞ。もちろんエリーゼにも」
「シャーリーさん、少し重くなってませんか」
「シュン、その言い方はレディに対してかなり失礼だと思わないか」
「え、だって、重いっすよ」
「仕方ない。シュン誰にも言うな。その理由は、私も鍛えてるからだ。そろそろシュンから一本取れるぞ」
「楽しみにしときます」
「くっ、余裕見せてられるのも今のうちだ!」
「ほらほら、こんなとこでじゃれてないで全員会議室へ行って」
ギルドのロビーで騒いでいた俺達にフレイヤさんの鶴の一声。
会議室へ入ってすぐに、ガスランとニーナを三人に紹介。
ウィルさんがガスランを見て
「あとで演習場で…」
と言い始めた途端にセイシェリスさんの鉄拳炸裂。
「バカ言ってないで、挨拶ぐらいしなさい」
シャーリーさんが俺の耳元に近付くので、俺も耳を寄せる。
(シュン、ニーナってもしかして)
(公爵家の姫様ですよ)
(げっ、不敬罪で捕まったりしないだろうな)
(あー、そういうの気にしないで普通に接して構いませんよ)
(そんな畏れ多くて話しかけられないぞ私は)
(すぐ解りますよ。普通の女の子ですから。ちょっと怖い時もあるけど)
「シュン、誰が怖いの?」
「え? あー、なんのことだ」
「駄々漏れだったわよ、二人の会話」
ニーナは三人に向かって、冒険者のニーナとして扱ってくださいと頭を下げた。
セイシェリスさんはニーナとは会ったことがあるらしく、ニーナに優しく微笑んで言う。
「久しぶりね。改めてよろしくね、ニーナ」
「ありがとうセイシェ」
ガスランは一応挨拶はしているが、セイシェリスさんを見てボーっとしている。
解る。俺もそうだった。
セイシェリスさんを初めて見た男の反応としては、それが当然だ。
すぐに会議室にやってきたフレイヤさんから、今回の依頼についての説明が始まる。ミレディさんも一緒だ。
まずはこれまでの経緯という事で、最初のゴブリン襲来から。これについては誰よりも俺達が詳しいので、代表してニーナが説明。冒険者ギルドのヴィシャルテン支部が発表した内容よりも詳しい。
質問を受ける段階になるとセイシェリスさんが言う。
「シュン、その雷撃砲と言うのは雷撃を一方向へ真っすぐ放つ感じのもの?」
「はい、簡単に言うとそんな感じです。威力はかなり上げてますけど」
「今度、発射直前まででいいから見せてくれる?」
「もちろんです。師匠には見せとかないと、と思ってましたから」
「ふふっ、いい生徒を持って私は幸せよ」
ニーナが、あっ、という顔で俺とセイシェリスさんを見る。
「そう言えば、セイシェ直伝だと言ってたわね」
「そう。俺の雷魔法はセイシェリスさん直伝なんだ。だからセイシェリスさんは俺の師匠ってこと」
「なんか師匠ってのはくすぐったいわ」
そう言ってセイシェリスさんは笑う。
「失伝したと言われていた雷魔法を甦らせたんだから、凄いことよ」
そう言ったフレイヤさんは、話題をその後ヴィシャルテンが送り出した調査団に変えた。そして、魔法陣から出てきた上位種70体によって壊滅したところまで。
「魔法陣か…」
ウィルさんが首をかしげる。
「魔法陣については、別件ですが後でもう少し話があります」
と、俺は言った。
そして、今回の最新情報。ヴィシャルテンの領軍が敗走したという件。
「ごめんなさい。届いたばかりの話で精査しきれていないのだけど…。
ヴィシャルテン領軍は街を出発して五日後に例の魔法陣があったと言われている場所の少し手前に着いた。そこの調査を始めてしばらくして、ゴブリンの大群が三方向から襲い掛かってきたそうよ。なぜ接近に気が付かなかったのかは、大きな疑問ね。
正面からは上位種、左右からは通常種とゴブリンメイジだった。その数は上位種が約50、通常種は約200、メイジは数は不明。領軍100名は正面の上位種を抑えきれずに後退。結局それで敗走になってしまい、背後からの通常種にも対応できず犠牲者が増えたみたい。残ったのは30名程だそうよ」
ふと気が付いて、俺はニーナの顔を見た。
目を閉じて、何かをブツブツと呟いている。口の動きで判るのは…。
「指揮官が居るわね。人と同等かそれ以上かもしれない指揮官が」
沈黙を破ったのはセイシェリスさん。
フレイヤさんがそれに同意する。
「同感よ。人同士の戦争と同じように考えた方がいいのかもしれないわ」
敗走した兵達は7日後にやっとヴィシャルテンに帰り着いた。敗走を始めたその日は通常種からの追撃があったらしいが、その翌日以降は何も無かったとのこと。
「じゃあ、次はレッテガルニの話に移るわね」
ゴーレムを送り込んできたであろう転移魔法陣の話でひと区切りつけた時、セイシェリスさんはかなり悩んでいる様子。ウィルさんは腕組みをして考え込む。シャーリーさんは茫然としている。
「更に、教会絡みの話もしておいた方がいいと思うけど、少し休憩しましょうか」
そう言ったフレイヤさんに、セイシェリスさんが言う。
「ん…。もうどんな話をされても驚かない。覚悟決めたわ。今日は全部、じっくり聞かせて貰う」
お茶とお菓子休憩の後、レッテガルニの教会司祭による薬害騒動の話まで終わる。
そして俺は、そのずっと前にスウェーガルニダンジョンで魔族に会ったと言った。は? とセイシェリスさんとウィルさんが固まる。シャーリーさんは既にキャパオーバーなのかずっと能面のような顔だ。
スウェーダンジョンで会ったドニテルベシュクとの会話の内容など詳しい話をすると、ウィルさんが何か言いかけるがセイシェリスさんが止める。
レイティアが酷似していることを懸念しているという言葉で俺がひと通りの話を終えると、セイシェリスさんがウィルさんに頷いて話し始める。
「シュンは今、長い黒髪に赤い瞳、青白い肌と言ったわよね」
「はい、ドニテルベシュクの方はそうでした。レイティアの方はもっと人間と言うかヒューマンに近いようですけど」
「今日はこの話は知らない人も居るけど、私達の曽祖父の旅行記の話をしたことがあるでしょ」
「バステフマークを探せ、と書いていた人の日記のことですね」
「うん、それ…。その旅行記の中に、曽祖父が魔族に会ったと書いている部分が在るの」
「「え?!」」
驚きの声は俺とエリーゼ。フレイヤさんは表情をこわばらせてセイシェリスさんの話の続きを待つ様子。
「帝国での話だったと記憶しているんだけど…。確か、赤い瞳の男に会った。病人のような青白い肌にベットリとした黒髪で不健康そうに見えた。という話から始まって…、曽祖父はその時足に怪我をしていたらしいのね。赤い瞳の男が魔法陣を使って怪我の治療をしてくれたという話なんだけど、その後かなり経ってから、あの赤い瞳の男はやっぱり魔族だったのだろうと思い出したように書かれているのよ」
また長い沈黙が続く。
そんな中、さて、とフレイヤさんが仕切り直すように言葉を発した。
「一応の情報共有はこんな所ね。いろいろ思う所もあるでしょうし考えるべきこともたくさんあるのだけど、当面の問題はゴブリンね。私も代官のアークソルテ男爵も、この脅威の排除が最優先だと認識していて今回の依頼になったという訳」
「出てくるゴブリンどもは殲滅して行けばいいが、その魔法陣を調べる必要があるってことだな」
「そう。シュン君達がレッテガルニで見つけた、ゴーレムを送り出してきたと思われる転移魔法陣との共通点を調べたいわ」
フレイヤさんはウィルさんに頷いてそう答えた。
「そうすれば、誰がこんなことをしているかが判る」
ニーナがそう言って、皆を見渡した。
ほとんど話を聞いているだけだったミレディさんが口を開く。
「その誰かというのが魔族なのか人間なのか、私は、魔族と人間どちらも関与しているような気がしています」
ミレディさんとは最悪のシナリオのようなものを話したことがあるので、今ミレディさんが言ってることは俺には理解できている。
「先入観は禁物だけど、最悪の想定はして準備しましょう。敵は統率が執れたゴブリンの軍団だけではない可能性があるということよ」
フレイヤさんのその言葉で、俺達は今回の依頼の為に必要な物の調達などの準備を開始した。
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