第66話 フロアボス
「扉がある」
そういう知らせが入ったのは、俺達アルヴィースとバステフマークの合同パーティーが第2階層(仮)平原フィールドの、以前見つけた集落の反対方向の調査から戻った時だった。
第2階層(仮)平原フィールドへの階段があるボス部屋へは、俺達は隠し扉から入ったのだけど、あの通路のその先のルートを調べていたパーティーが持ち帰った情報である。扉を確認しただけで戻ったのは、正しい判断かもしれない。時間的に押していたという理由もあったのだろうが。
「その先はボス部屋?」
「おそらくは、その可能性は高いわね」
エリーゼが言って、フレイヤさんが頷いた。
俺は言う。
「一つの階層にボス部屋が二つ… そんなのってあるのか」
「まだ確認した訳ではないから、それは後で考えましょう。それで、その扉なのだけどね。発見者が自分達で開けたいそうよ」
と、フレイヤさん。
「うん、それは当然でしょうね。私たちがとやかく言う事でもないわ。そのパーティーにしても、ギルドの意向次第ではあるけど」
セイシェリスさんが心配しているのは、アイテムの事だろう。
またマジックバッグなんか出てきたりしたら、大変なことになる。
そして、ギルド、フレイヤさんの決定は、扉発見パーティーがその扉を開けて、おそらく待っているであろうボス戦に臨む。俺達はそのフォローに回ってくれと。
フォローって具体的には何するんだろうと思っていたら、危なくなったら介入。それだけだと。調査チームに参加している訳だから、アイテムなどが出ても全てギルドの物になるのに扉を開ける事にこだわっているのは、冒険者としてのプライドみたいなものだとセイシェリスさんは言う。
その後その扉を開けるパーティーの人達に、俺達は以前のボス部屋での戦闘の話をした。もっともあの時はボスは居なかったので、あまり参考になるとは思えなかったけれど。
翌日。そういう訳で、結果的に3パーティー合同という大人数で扉へ向かう。
途中の通路でオークが出てくる。それも俺達は後方から見るだけになってしまう。
なんか申し訳ない気持ちがしてきて、俺はセイシェリスさんに小声で尋ねる。
「俺達、手伝わなくていいんですかね」
「シュンがやると手伝いにならないでしょ、瞬殺してしまうんだから」
セイシェリスさんはそう言って笑う。
そして、分岐を幾つも経て、入り口からだとかなり進んだ地点。
そこに大きな扉があった。装飾が施された金属製。
セイシェリスさんが説明してくれる。
ダンジョンの扉の装飾は、扉が出来るたびに少しずつ変わるらしい。それに意味が有るのかはまだ解っていないそうだ。
そして俺とエリーゼは、二人でポケっと扉に見とれる。
「大きいね。まさにボス部屋って感じ」
「ダンジョンの特殊部屋の扉、見たの初めて…」
ハッと気が付いたようにエリーゼが、周囲を見回しながら言う。
「そう言えばシュン、ここって安全地帯なのかな」
「うーん、どうなんだろ」
俺もエリーゼと同じように見回しながら、そう言った。
そんな俺達の疑問は皆にはそれほど重要な事でもないのか、それともこれから扉を開けることだけに執心しているのか、おそらく後者だ。
「ほらほら、二人とも。もう少し下がっててね」
発見したパーティーの紅一点の女性が、俺達に笑いながら言った。
ドリスダンジョンでもそうだが、ボス部屋など特殊な機能を持つ部屋には扉がある場合が多い。ボス部屋だと間違いなく扉がある。ボスを倒したらしばらくの期間は扉の開閉部分が無くなり、同じ装飾の金属の外枠が門のように残るだけで開放された状態になるが、ボスが復活したらまた扉が最初のように閉じた状態で生成される。
即ち、扉が閉まっていることは、その部屋にボスが居ることを意味している。
しばらく全員が休憩した後。
準備が出来た。その声で俺達も、発見パーティーの彼らの後方へ移動。
扉を開けるとすぐに、パーティーは小走りに中へ侵入。
俺達も武器を構えてゆっくり扉をくぐった。
天井が高く、ここも広そうだ。
ん、探査の反応は約50。
えっ? 俺は思わず声を上げる。
「ゴブリン?」
「なに?! 全員警戒!」
セイシェリスさんが、すぐに警戒態勢を指示。
一般にオークは単体ではゴプリンより強いが、連携戦闘は上手くない。対してゴブリンは単体ではオークほどではないが、連携して狡猾な手段も使うので集団が大きいほどゴブリンの方が難易度が高いと言われる。
先に入ったパーティーは、どんどん群れに近付いていく。
確かに、オークだったら人間を見つけたらすぐにバラバラに突進してくるだろう。
そのつもりで姿を見せつけながら近付いているのだろうか…。
距離的には十分に、もうお互いに確認できていておかしくない。
「総数49。ゴブリンメイジ3、ジェネラル2、キング1。キング居ます!」
エリーゼの判別結果の声が響く。
え? 魔法の射程には既に入っているのでは? 俺がそう思った時、ゴブリンが一斉に彼ら目掛けて走り始める。そして、魔法。
爆裂音は、発見パーティー彼らの所から。悲鳴が上がる。さっきの女性。
ゴブリンの一斉の動きに釣られて、魔法への防御が間に合っていない。
セイシェリスさんの声。
「介入する。シュン、エリーゼ。メイジをぶっ飛ばせ。
ウィルは敵先頭集団、ヘイト集めろ。シュンとエリーゼは初撃後ウィルと合流。
シャーリーと私は彼らの援護と救護。行けっ!」
俺達はダダっと部屋に踏み込んで、一望。
俺とエリーゼには、探査でメイジの位置は見えている。
メイジ達は、やったと油断してるのか。岩の影から出たままで、姿が見えた。
「1時方向、2時方向メイジはシュン。11時のは私」
「了解」
エリーゼの言葉に俺は応える。
雷撃 ズガガッーン
エリーゼは矢の3連発、直後にウインドカッターでメイジの周辺を薙ぐ。
こんな遠くから平気で当ててるし。
エリーゼが、ウィルさん達に聞こえるように叫ぶ。
「メイジ3体撃破!」
ウィルさんが大声を上げて威嚇しながら剣を振り回して、ゴブリンの一群に向かっている。
その群れの端の方の数体をエリーゼが矢で連撃。
その反対から俺は雷撃。
しかし、まだ隠れている奴も多い。
「エリーゼ、俺も突っ込む」
「もう?」
エリーゼが更に、ジェネラルが居る辺りへウィンドカッター。これは牽制のみ。
探査に少しだけ集中したのか、エリーゼが一拍置いて言う。
「うん、シュン行って! キングが前に出てきそう」
「解った」
走り始めたついでに、雷撃でセイシェリスさん達の方へ岩陰から出て来て近付いている5匹を葬る。
セイシェリスさんが、ニヤッと笑って俺をチラリと見た。
そして、動けなくなってそうな発見パーティーに近付くゴブリンを、風と雷を連発して牽制している。
シャーリーさんはポーションを持って、パーティーの所へ走り込んだ。
ウィルさんはゴブリン4体を相手にし始める。
エリーゼは、ウィルさんに更に近付く奴らを撃つ。
矢を撃たれたゴブリンは、そこから体が千切れそうな感じ。矢の威力すごい。
「シュン、デカいの減らしてこい」
ウィルさんは、俺が横を通り抜ける瞬間そう言った。
「見えたら全部撃ちます」
走る。さあ、もう視界を遮る無駄に大きい石ころは、ほとんど無い。
俺は一気に近付いた。よし、ロックオン。
雷撃、フルバースト ズガガガガッーン
キングとジェネラルを一気に切り裂いた。
「キング1、ジェネラル2、全て撃破」
俺は大きな声で、皆に聞こえるように言った。
そして戦闘は掃討戦に。
ウィルさんとエリーゼは剣を振って残党を追い立てる。
俺も、石を雷撃で砕いたり、陰に隠れている奴も追い立てて殲滅。
キングをやった途端に、奴らの戦意はガタ落ちしていた。
「オールクリア」
「終了」
俺の言葉にエリーゼが探査で確認して頷いた。
「シュン、お前早すぎだろ」
ウィルさんは、キングを残してないのが不満そう。
先に突入したパーティーは、全員が負傷しているが大丈夫とのこと。セイシェリスさんとシャーリーさんが手当てを続けている。
エリーゼと俺はハイタッチ。
これは、こっちには無かった習慣みたいだけど、無理やりエリーゼを仕込み中。
セイシェリスさんが、そんな俺達を見て微笑みながら言う。
「シュン、良くやった。警戒しながら、ウィルと一緒に部屋の状況確認と上位種の見分をしてくれ」
「了解」
「エリーゼ、こっちを手伝ってくれ」
「すぐ行きます」
シャーリーさんの声にエリーゼが答えて、すぐに傍に向かった。
さて、改めて部屋を調べる。
奥の壁には、キングをやる前には無かった階段が現れていた。
俺はウィルさんに言う。
「キングやると出てくるんですね」
「まあ正確にはフロアボスって奴だな」
「ここが正規のルートなんでしょうか」
「俺もそんな気がしてる。平原の所がイレギュラーかもな」
そして、やっぱり出ていた宝箱。
ウィルさんは困ったような笑みを浮かべている。おそらく、俺も。
これを見た俺達5人は、全員が同じ気持ちだろう。
「先に、キングどもを調べるか」
「そうですね」
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