第141話 洋一〜! 野球しようぜ!
バステトの叱咜は、正直かなり効いた、まさに効果は抜群だ。バステトとは狩猟の神、俺達の流派は、贄鷹の神事を行っている。だからバステトは、師匠の事を知っていたんだろう。
バステトは蘭を見てため息をついている。
「…………仮にも神の化身たる、自覚が無さすぎ。神獣である前に、神の化身なんだけど? まさか自分の存在意義を忘れた?」
バステトの言われた言葉に、蘭が珍しく気圧されている。普段の蘭なら言い返しそうなもんだけど、相手は狩猟の神だからかな。
「神の化身の自覚……」
「…………はあ。柊洋一、これは貴方の責任だ。とりあえず、大和今直ぐやるのか?」
バステトはため息をつき、俺をジトメで睨んでくる。
「んあ? どうすっかなあ。まあ今直ぐやるかあ。柊君覚悟は良い?」
大和さんに覚悟を問われたが、覚悟ならもう出来ている。俺は、師匠の言葉の本質に気付けたから。
「覚悟は出来ています。まごついていたら、地球の師匠にも顔向けできませんからね。尻をバットで殴られた様な衝撃でしたよ」
俺の言葉に大和さんはニヤリと笑う。
「柊君の覚悟はわかった。そこの蘭ちゃんや雷精霊のお嬢ちゃんは、覚悟はできているかい? 辛い光景を見る可能性もあるから、なんなら元の世界に送るよ?」
大和さんは、試す様な視線で蘭を見ている。
「私は……ここにいます。どんな結果になっても、最後まで洋一の側にいます」
蘭は、大和さんを見据えてはっきりと言いきってくれた。こんなに嬉しくて、頼もしい事はない。
『大和は、ヨーイチを舐めすぎよ! ヨーイチは、馬鹿で間抜けでスケベだけど、アタチの友達一号よ! 邪神になんてならないもん! アタチは、アタチは……』
リュイの言葉は最後まで続かなかった。目に涙を溜め、拳を握り震えている。
「蘭、リュイ、ありがとう! すげー頼もしいぜ! きっと大丈夫だからな!」
手は震え、声も震えてしまう。精一杯の虚勢、家族や友達にこれだけ期待をかけて貰い、信じて貰えた。ここで虚勢でもなんでも、吠えなければ男じゃない!
「大和さん、俺は、いや俺達の覚悟は出来てます!」
俺の言葉に、大和さんは満足そうに頷く。
「じゃあ裏の空き地でやんぞー。空き地だからってバットとグローブはいらないからな? 野球しようぜって訳じゃないから」
大和さん、あんたここでネタを挟むの!? しかも俺にしかわからない様な微妙なネタを!
「大和さん、気が抜けますから変なネタ挟まないでください」
俺が文句を言うと、大和さんが急に頭を撫でてくる。
「良いんだよこれで。俺や麻友がいて、柊君の家族や友達がいて、バステトもいるんだから、覚悟決めたんなら、もっと余裕を持ちな」
そう言うと、大和さんは、笑いながら裏の空き地へ歩いていく。俺達も慌てて後について行く。麻友さん、出て来なかったけど大丈夫なのかな?
♢
「うっし先ずは柊君、俺が描く陣の真ん中に来てくれ。神抜きの儀の注意点を話すからな」
俺は言われた通りに、陣の真ん中へ行く。
「注意点?」
「ああそうだ。一つ目は、まあ俺達がミスったら邪神になっちゃうよって話だ。二つ目は、今まで使っていた邪神の力は無くなる。紅い蹴りとかは出来なくなるからな?」
一つ目は仕方ない、ここは信じるしかないし。二つ目は、今までチョコチョコ使って? 暴走して発動していたのが使えなくなるだけか……。あれ? 俺そんなに使ってないからいらないんじゃね?
「…………大和身体能力が下がる事や、レベルが1になる事もちゃんと話せ」
バステトの言葉に大和さんが苦笑いしている。なんで苦笑いなんだ? そう言えばレベルって最後に見た時10位だったかな? あれれ? 確かレベルに応じて身体能力って決まるんだよな? 最初から村人以下の俺には関係ない話じゃないか?
『ヨーイチには、関係ないね! だってレベルも低いし、身体能力も村人以下だし!』
リュイが爆笑している横で、蘭は露骨に視線を逸らしやがった! おい! 笑うなよ! しかも俺あれから結構? 戦った気がするんだが、未だに村人以下なの!?
「蘭、リュイ……俺は、未だにこの世界の村人以下なのか?」
「私からはちょっと」
蘭は、気を使ってか言わない。言わない時点で図星じゃねえか! 不用意な優しさはやめろ!
『村人以下だね、多分レイなら片手一本で、ヨーイチをあしらえるんじゃない?』
リュイめえええ! 大和さんは、俺に背を向けて肩を震わせながら爆笑してるし、バステトはまるでUMAを見た人間の様な目で、俺を見ている。やめて、見ないで、哀れな俺を見ないで……!
「ブフッ、まあなんだ。そう言うデメリットもあるんだが、別に良いよな。だって村人以下……ブフッ!」
皆んなで、俺を馬鹿にするのはやめろおお!!
「…………麻友を呼んでくる」
バステトは、それだけ言うと家に戻って行く。去り際の哀れみを込めた視線! 忘れないからな!
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