第138話 人妻×和服×訛り
リュイに頭を撫でられるのは、悪い気はしない。ちっちゃい身体で、産まれてからそんなに経ってないのに、ちょいちょいお姉さんぶるんだよな。
『ヨーイチは子供だね、全く! アタチがしっかり見てないとダメなんだから!』
「40代のおっさんが! 子供になって、子供扱いされて、こりゃ笑うなって言う方が無理だわ! ハハハ!」
大和さんが爆笑している。めちゃくちゃ失礼な話だ! 確かに40代だけども、割と子供扱いされまくってるけど!
大和さんは、俺の胸を拳で軽く叩いて
「そろそろ俺は行くぜー。神殿の邪気祓いちゃんとやれよ? 俺がお前に任せたんだからな?」
ニカッと笑う。カッコ良すぎる……映画とかで見たやり取りだ!
「あっはい! なんとか頑張ります!」
俺の言葉を聞き満足そうに肯く大和さん。
「葵任せたからな?」
大和さんは、師匠の頭に優しく手を置く。
「大和さんは、いつも勝手だよ。勝手に現れて、勝手に説教して、勝手に解決して、勝手に任せていくんだから」
師匠の声が少し寂しそうに響く。
「だははは! それが俺、大和って男だ。亜梨沙の馬鹿は、然るべき場所に放り込んで置く。もう会う事は二度とできないが、葵言いたい事はあるか?」
「そいつに言いたい事なんてないですよ」
師匠はプイッとそっぽを向き、足元の石を蹴る。その石が尋常じゃないスピードを発して木々をなぎ倒している……。師匠の脚力やばすぎだろ! そんな人に殺気を向けられていたのかよ! 死ななくてよかった!
「痛っ!」
師匠の頭に大和さんの拳骨が落ちる。ゴチッと鈍い音がする……めちゃくちゃ痛そう。
「こら! 自然破壊をすんじゃねえ」
「暴力師匠!」
よせばいいのに、師匠は大和さんを煽る。あーまたゴチッと、あれ? 大和さんないている?
「久々に師匠って呼んでくれたなあ! 葵、柊君を助けてやれよ? 堕ちたら仕留めなきゃならんからな。後はそうだなあ……神獣の蘭ちゃんと柊君、二人に話をしよう」
『アタチは? アタチもヨーイチの保護者なんですけど?』
リュイがふんすと鼻息を荒くし、大和さんに抗議をする。
「はははは、これは失礼した。精霊のレディも一緒に話そうか。世界と柊君の身体についてだ。葵はどちらも気付いているし、俺の家には行きたくないだろうから留守番しとけい」
「じゃあ昼寝でもして待ってますよ」
師匠は木の上に登り、昼寝を始める。登る速度も、寝る速度も早過ぎだろ!
「そーれ行くぞ!」
大和さんが、大剣で地面を軽く叩くと、突如さっきまでとは違う場所に切り替わる。
どっからどう見ても庭付きの一軒家が目の前にある。
「俺流移動術、箱庭へようこそだ」
俺流って、適当に名付けた感が半端じゃない。
「神様達と同レベルの移動術……」
蘭が驚いている。俺は移動術よりも、この家の不自然差が気になる。なにかの音が聞こえる。
「柊君が不自然に感じているのは、周りに電線が無いのに電気が付いていて、テレビの音がするからかな? まあコマケー事は気にすんな。モテないぞ?
大和さんは、玄関で麻友と呼びかける。って大和さん、さり気なくモテないぞってディスらなかったか? それに細かくねーし! 観察眼があるって褒めてくれる場面だろ!
「なあ蘭、俺って観察眼すごいよな?」
蘭は俺の肩に乗り、爪に力を入れてくる。爪が痛い!
「洋一、少し、少しで良いから空気を読んでね」
『アタチも洋一は、空気を読んだ方がいいと思うの』
リュイにまで空気を読めと言われてしまう。だってこの家、明らかに昭和と令和が融合したような、めちゃくちゃな世界。
「ここは……日本じゃない?」
「良く気付いたなー。日本どころか、地球ですらねえよ。まあなんだ、俺の世界だな。俺が許可した奴は誰でも入れるが、許可しない奴は神でも入れない。そう言った場所だ、とりあえず上がれ。茶の間で話そう」
大和さんの家に上がり、茶の間に案内され座る。畳の匂いと、座布団の柔らかさがなんだか懐かしい。大和さんは、茶を持って来ると言い、奥に行ってしまう。
「もー! お客様来るなら、事前に連絡しとぉくれやす。あんたはいつもいきなりで、おもてなしする方の身にもなっとぉくれやす!」
「悪かったって! 今日はそのアレだ特別なんだよ!」
奥で大和さんが、女性に怒られている。蘭はずっとピリピリしている。リュイは電球が珍しいのか、近寄って見てる。熱くないのかな?
襖が開き、桜柄の着物を着た黒髪の女性が現れる。めちゃくちゃ美人だ。
「お見苦しい声を聞かせてほんまにすんまへん。あたし大和の妻の麻友と言います。大和が悪さしたら、あたしに言うてくださいね? 叱りつけますから」
「えっあっはい。いや大丈夫です」
奥さんにバレない様に、後ろからこっちを睨んでるよ! アレは余計な事言うなって目だ!
「ほんに大丈夫? ってあんた! 後ろから睨むなんて酷い事するんじゃあらへんよ。子供じゃあらへんんさかいに、って貴方その身体……」
麻友さんは、俺の身体をジッと見つめる。嫌な予感がするなあ……
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