第134話 怒れる戦士と歪な笑顔


 ハヌマがいるであろう天守閣に着くと、扉を開けてはいるが中に入らずに立ち竦み中を見ている師匠がいる。


「あっ洋一君、邪神の瘴気は感じないんだけど、この猿どうする? 斬り殺すだけなら、今すぐ出来るけど」


 邪神の瘴気が感じない? 確かに師匠が言うように瘴気が感じられない、邪神センサーも反応しないなあ。じゃあ倒す必要はないのか?


「邪神、アナスタシアを起こしてみては? 瘴気が感じないなら倒さなくても良いと思うんですが……」


「街の人間を洗脳していてもかい? まあいい。洋一君、良く考えておいて。アナスタシア様起きてください。ハヌマの側に着きましたよ? ウイン様は、いつの間にか隠れてしまいましたが……」


 ハヌマが、人間を洗脳している? 師匠が言う事が仮に事実なら、何故洗脳をしているんだ? 洗脳して偉ぶりたいのか? それとも魔力的な意味合いがあるのか?


「蘭どんなパターンが考えられる?」


「ライフドレイン、魔力ドレイン、感情を喰うパターン、後は生贄かな? 統率を取るためだけに、洗脳するとは思えないし」


 魔力以外は思いつかなかったな、生贄とか感情を喰うパターンとか、ろくな事にならなそうだな。


「洗脳をやめさせる方向で行こう。だめなら倒すしかないけど……師匠は多分倒したいんだろうな。そんな気がするんだよな」


『ハヌマの力って凄いね、魔法や魔術的な探知にかからない様に、心だけを縛り操るなんてさ。相当な技術よ? 正直半端じゃないわよ。だから葵が、あんなに警戒しているのよ』


 師匠が警戒って事は、かなりヤバいのかな。気を緩めない様にしないと。


「そう言えば、ウインは何処に行ったんだ? 隠れてるって話だけど」


『葵のフードの中にいるわよ。気配をかなり消してるから、葵でも気付かないかもね、葵はハヌマに対して、めちゃくちゃ警戒してるし』


 なんでフードの中に? 一番安全だからか?


『ん〜もうなによ……ってハヌマあああああ!?』


 起きるなり、大絶叫をかますアナスタシア。正直煩い、耳が痛い。


『あーアナスタシア様だキキキ。もうバレたのかー転生者や転移者、魔王関係に関わらなければ気付かれないってふんだのになあ』


 部屋の中から、キキキと笑い声とアナスタシアを挑発する様な言葉が聞こえてくる。


『キキキ、せっかく瘴気を他所に肩代わりさせてたけど、もういいかあ……』


 ハヌマが、もういいと行った瞬間に辺り一体の空気が変わる。極寒の世界に飛び込んでしまったかの様な寒さが、周囲を包む。


「洋一、アナスタシア様を連れて下がって!」


「ガッテンだ!」


 俺は固まって動けないでいるアナスタシアを引き摺り、急いで後退する。アナスタシアを自分の背後に押しやり、雷砲を構える。


「リュイ、いつでも撃てるようにな!」


『オッケー! 最大出力で撃てるよう「大丈夫だよ。今回は、この糞猿を僕が、本気で殺すから」えっ? 葵?』


 リュイですら戸惑う位、師匠は激怒している。


「糞猿、死ぬ前に一つ聞く」


 底冷えするような、師匠の声。まるで、心臓を鷲掴みにされた様な錯覚を覚える。


『キキキ、人間にしてはやるみたいだが、生意気だなあ』


 ハヌマは、余裕の笑みを崩さず師匠を煽る。


「災厄移しの法をした奴は何処だ?」


 師匠の言葉にハヌマは、いやらしい笑みを浮かべる。


『それは言えな━━あっあれ? 顔がズレて━━』


 瞬間、ハヌマは真っ二つになり消えていく。


「なにも知らずに踊らされている三下か」


 それだけ言うと、師匠は刀に付いた血を拭い


「あはは雑な仕事をしてしまった。アナスタシア様、神獣の鎮魂をお願いしてもいいですか?」


 師匠の張り付いた笑顔、初めて見る歪な笑顔。


『わっわかってるわよ』


 アナスタシアはその場に座して、目を閉じ、腕を組み祈る。綺麗な朱色のオーラが見える。


 鎮魂はアナスタシアに任せて、師匠に声をかける。


「しっ師匠あの」


 上手く言葉が出ない、俺がさっきの殺し方の理由を聞かなきゃいけないのに……


「洋一君達もごめんね? せっかく色々準備してたのに、良いとこどりしちゃって。ちょっとだけ熱くなっちゃったよ」


 普通に振る舞う師匠。


「葵、なんであんな倒し方を?」


 蘭が師匠に質問する、いつもは空気を読む蘭があえて聞いている。俺が聞けなかったら……蘭すまん。


「彼が瘴気を他所に押し付けたやり方は、この世界には絶対に存在しないやり方なんだよ。世界を壊すやり方だからね」


「世界を壊す?」


「そう。世界を壊すんだよ、分散している瘴気を一箇所に集めて消し去るってやり方。分散しているからこそ、世界が耐えれているのに、一箇所に集中したらどうなると思う?」


「世界が耐えきれなくなり、自壊していく?」


 蘭の言葉に、師匠は静かに頷く。


「そのやり方を知っている人は、僕達勇者候補だけ。洋一君も前に会っただろ? あの女が関与している事は間違いないんだ。まあ、ハヌマはそれとは知らずに、与えられた洗脳の力を過信し、自分の力だと酔っていたみたいだけどね」


「洗脳する力を与えるって、あの人そんなに強いんですか?」


「あの女に、直接的な戦闘力は無いよ。スキルを与え、与えられたスキルが、初めから持っていたように誤認させる力を持っている。後は逃げる事に特化してるから、本気で逃げられたら僕でも捉えられないよ」

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