第96話 お互いの想い 二人の絆
お母さんって凄いんだな。男が、女に勝てないわけだよ。俺が、無意識に使っていた「家族」って言葉は、家族を求めていたのか……。言われるまで、気づかなかったな……。
「アーレイのお母さん、ありがとうございます。その、少しだけすっきりしました」
蘭が、少しむくれてる。多分、自分が不甲斐ないとか、思っているんだろうなあ。全然違うのに。
「師匠、アーレイのお母さん、ちょっと蘭と二人にしてもらえますか?」
「はい。葵様の結界について、お聞きしたいので」
「行ってらしゃーい」
神殿なら人は居ないだろうと言う事で、蘭の魔法で神殿に転移する。神殿に到着し、蘭と対面に座る。
あらためて話すのって、なんか緊張するな。
「なあ、蘭。俺ってば、家族への憧れがあったんだな」
「洋一を、見てればわかるよ。普通の親子関係に、憧れているんでしょ?」
見てたらわかるのか……。俺ってそんなにわかりやすいのかな?
「まあなあ……。母ちゃんは俺のせいで、身体を壊して入院して……そのまま逝っちまったしなあ。それに母ちゃんは、俺を育てるために働いてたから、あんまり家にいなかったしな」
「洋一、寂しかったの?」
寂しかったか……。うーん、難しい質問だな。
「うーん、30年以上前だからなあ。寂しかったとは思うがなあ、なんとも言えないな。まあ後悔はしてるよ、親不孝しかしてないしな」
「洋一、気付いてるかもしれないけど、こっちに来てから大分、精神が幼いと言うか、不安定になってるよ」
精神が幼いって、確かに妙にハイになったり、やりたい放題やってる様な気は、しないでもないけど……。
「うっうーん? そんな事ないと思うけど」
「地球での洋一なら……人前で泣いたり、キレたりしないでしょ?」
「いや、怒る時は怒るぞ?」
そりゃ、激怒する事はなかったけど。
「神様を、あんなに憎んだりはしなかったでしょ? 例え運が悪い事や、理不尽な事があってもさ」
神を憎んだ事ならある。香奈じゃなくて、何故俺を生き残らさせたってな……。それよりも……自分の力の無さや、バカさ加減を呪ってたからなあ。
「……まあなあ」
「洋一は、私以外の人と話す時、必要以上に距離を開けていたんだよ? 必要最低限しか、人と話さない。目線を合わさない、腹の中は見せない。心から笑わない。私は、ずっと……ずっと心配だった。人間は、群れで生きている生き物なのに、洋一は、ずっと一人だったから」
そうか、蘭の目線で見たら、余計に異端に見えたんだろうなあ。群れで生きている人ばかりではないが、皆んな、大なり小なりの群れの中で生きているもんな。
蘭の瞳に涙が見える。蘭が、かすかに震えている。
「洋一は、私にずっと話しかけてくれた。色々な人の話や、世界の話。そして、色々な世界を見せてくれた。私には、どれも新鮮で色鮮やかに見えたんだよ?」
俺は、蘭をそっと撫でる。
「私は、与えて貰うばかりで、洋一に利を示せていなかった。だから、この世界ではって思ったけど……。洋一を助けたのは、紗香や、堺さんや、アーレイのお母さん、私は、私は……」
蘭は、そんに思い詰めていたのか。でもまさか、俺と同じように、利を示せていない事で悩んでいたなんてな。
俺は、蘭にフッと笑いかけ。
「蘭、俺はさ。ずっとお前に、対して利を示せていなかった。蘭がいなければ、俺は鷹匠になれなかったし、この世界では、間違いなく死んでたよ」
「洋一……」
「お互い、同じ様に悩んでたなんていな。俺達は、似た者同士の家族なんだな。なんだか、嬉しいよ」
蘭と、同じ気持ちだって言うのが、本当に嬉しい。俺達は、地球にいた時から、通じあっていたんだな! 相思相愛じゃないか! 以心伝心だな!
「洋一?」
「ははは、なんだか照れくさいな」
家族に本音を話すってなんだか、くすぐったいな。
「ねっねえ……。洋一?」
蘭が、何度も読んでくるが、そんなに恥ずかしいのかな?
「蘭? どうした? ははーん。蘭も照れくさいんだな」
「いや、あの、ポケットが光ってんだけど?」
ポケットが、光ってる? なんじゃこりゃ!!
「え? うおっ! めちゃくちゃ光ってる! 俺に光属性がついたのか!?」
ついに! ついに! 勇者への道が、切り開かれたのか!
「もしかして、リュイ様じゃない? ポケットの中で、寝てたんでしょ?」
「えっ? リュイ?」
ポケットの中のリュイを覗きこんで見る。リュイは、光のクリスタルの様な物の中にいる。
「おい、リュイ? 大丈夫か?」
「……もしかして、精霊の格が上がる?」
リュイに声をかけたり、クリスタルを触ってみたりするが、全く反応がない。光は少しずつ、強くなってきている。
「なっなあ……蘭、リュイは大丈夫なのか?」
「私にも、わからないよ。葵なら、なにかわかるかもしれないけど……」
「師匠ー! 師匠ー! 応答願いまーす! リュイが、光って、クリスタルに!」
師匠なら聞こえるはず! だって、師匠だもの!
「いや、洋一。聞こえるわけないじゃない、此処、地下の神殿だよ」
蘭に、冷静に突っ込まれた……。
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