第86話 ご覧頂けただろうか? 貴方の後ろに……


 祠が光ると、祠を中心に大きな魔法陣が描かれる。魔法陣からは紫色の光が溢れ、溢れあれ? 白っぽい骨みたいなのが地面から……


「ちょ! 骨! 人骨ぽいのが!」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ! いきなりホラーがはじまった! ホラーだよ全員集合パターンだよ! 怖いよ! オシッコ漏れるわ!


「アババババどどどうしよう、ららららららん! たしゅけてえええ!」


「はあ。大丈夫だよ」


 俺は蘭にしがみつき震えるしかできない、蘭の暖かさとモフモフ具合で少し安堵する。


「あはは洋一君、ビビり過ぎでしょ。アンデットとかレイスは、この世界にいないの?」


『いるけど、ヨーイチがまだ出会ってないだけ』


 リュイめ恐ろしいフラグを立てんな! たたでさえめちゃくちゃ怖いんだよ!


「ワッチの伴侶が、これでは困るのじゃ……」


「そもそも伴侶じゃねえ!」


「では行くのじゃ!」


 視界が紫色の光りで覆われ、目を瞑る。


「うおっ!」


 辺りには誰も居ない。木々は枯れ、辺りは薄暗い時々変な笑い声や、謎の呻き声が響く。


「えっちょ、ちょわ、まっまじ? 一人? 何で? 皆んなは? 誰かー? 誰かいませんかー?」


 俺の声だけが、虚しく響く。


「━━━ヒエヒエヒエ」


 すぐ近くから謎の声が、聞こえてくる。暗く冷たい笑い声。生きている人の声では無いと、確信が持てた。


「ひっ! だっ誰だ! 俺の雷砲でぶっ飛ばしゅぞ!」


 怖すぎて声が裏返る。


「━━ヒエヒエヒエ」


 笑い声が、段々と近づいて来る。俺は雷砲を出し構える。


「撃つからな? 近付いたら撃つからな?」


「ヒエヒエヒエ」


 笑い声は、直ぐ後ろから聞こえて来る。振り返るとそこには色が白く生気もない、更には下半身から血を流し、こちらへ這いずって来る白髪の老婆が居た。


「あああああああ!!!!」


 恐怖で、俺は正気を失いかける。


 叫びながらトリガーを引くが、雷砲はうんともすんとも言わない。何故ならリュイもいないから。俺は見てしまった、下半身が無い老婆が笑いながらこちらを見ているのを━━━━━



『ヨーイチ起きて! なんで寝てんのよ!』


「りゅ、リュイか? 蘭! 皆んな、何処行ってたんだよ!」


 気を失っていたのか……。いつの間にか皆んなに囲まれていた。


「そっそうだ! さっき下半身が無いババアがいたんだよ! ヒエヒエヒエって笑いながらいたんだよ!」


 アーレイを覗いた皆んなに、可哀想な目で見られた。


「なっなんだよ! まじなんだって! テケテケみたいな婆がいたんだよ。ヒエヒエヒエってさあ!」


 なんで皆んな、信じてくれないんだ! アーレイはなんで、俺の股間を見てんだよ!


「オシッコ、出てるのじゃ」


 俺は漏らしていた。あんなん見たら誰でも漏らすわ!


「洋一君、君が見た老婆はあれかな?」


師匠が俺の後ろを指差す。


「えっ? うぎゃあああああ! また出たあああああ!」


 また漏らしてしまった。


「出迎えご苦労なのじゃ。婆や」


『あっさっきのお婆ちゃん! ヨーイチを見つけてくれてありがとー!』


 えっ? 何で? 皆んな驚かないのか? 下半身が無いのに喋ってんだぞ? 


「洋一君には、真の姿が見えてるのか……」


 真の姿ってなに? え? 婆あ最終形態があれなの? 最終形態どころか、死にかけだけど?


「洋一が、見てるのは下半身が無い姿だよね? 普通の人には人間の姿に見えてるんだよ」


「じゃあなにか? 俺はずっと……あのテケテケ姿を見るしかないのか?」


「うん、私は切り替えれるし。リュイ様は最初から気にしてないし」


 蘭が師匠の方を見ると、師匠は肩を竦めて笑って言った。


「僕はどっちでも気にしないよ! だってそこの婆さん弱いし」


 師匠は、相手が強いか弱いかしか考えていなかった……。待てよ……それじゃあ、俺だけがこのホラー映像を強制的に見続けなきゃならないのか?


「もう帰る! 嫌だ!」


「よーし洋一君! 貧乳と神殿を探そう!」


 師匠に首根っこを掴まれた。力が強過ぎて振り解く事が出来ない! やめて! 離して! 寺生まれのイケメンを呼んでえええ!


「嫌だあああああ! アーレイ! 俺を元いた場所に帰せええ!」


「うるさいのじゃ!」


 アーレイは、全く聞く耳を持ってくれなかった。老婆は何故か俺を見ながら舌舐めずりをしていた。


「ほら! 彼奴今舌舐めずりしたよ! 師匠! 出番です! やっちまいしょう! お得意のアバン○トラッシュで!」


「いやいや、出来ないから」


「ヒエヒエヒエ」


 俺は力の限り叫んだ


「たしゅけてえー!!!」


 俺は、師匠に首根っこを掴まれたまま、道を進んで行く。誰も俺の意見を採用してくれない。老婆は時折俺を見てヒエヒエヒエって、笑いながら舌舐めずりをする。なんなんだよ! やめてくれよ! 怖いんだよ!


『ヨーイチは怖がりよねー。イリアさんに失礼じゃない」


「ヒエヒエヒエ」


『イリアさんたら、お上手なんだからなあもう』


「ヒエヒエヒエ」


 おい、リュイそいつはヒエヒエヒエしか言ってないぞ。何故、話が通じているんだ! なにが、お上手だこんちくしょう!


「あれが、我が家じゃ」


 アーレイが指差す方を見ると、アバドンやアスベルクよりは二回り位小さいが、立派な古城があった。


「すげ、城じゃん」


「ふふん。ワッチは、城主の娘であり次期王女だから当たり前なのじゃ!」


 だが俺には、城よりも気になる物体がある。赤、白、黄色の光る玉が飛び交っている、あれは一体……


「あの光の玉はなんだ?」


「洋一君、ご覧頂けただろうか? あれが人魂、つまり霊魂だよ」


 師匠が良い声で、余計な事実を伝えてくる。


「うぎゃああああああ!!!」

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